43 不思議な少女、シーラ① アレックside
私が孤児院に行くことになったのは、11歳になって半年が過ぎた頃だった。
母が亡くなったのがその一年位前だった。馬車の事故だった。
そして第二夫人だったカーラが第一夫人になって半年すぎた頃だ。彼女が第一夫人になってから、私の周りでは不穏な出来事ばかり続いていた。
何もない階段で躓いて落ちたり、落下物が落ちてきたり、そして馬車の車輪が壊れていたり。それが毎日のように起こるのだ。
カーラの息子が継承権(第二夫人の男児には継承権はない)を得てからだから、当然彼女を疑った。
だが父はそのことを偶然の一言で片付けた。何度も訴えていたのだが、父が選んだのはカーラだった。
「なぜカーラと仲良くできない。命を狙われていると言うから調べたが、誰もがお前の勘違いだろうと言っておる」
「ですが父様、彼女以外に考えられません。昨夜の夕食には毒が使われていたのですよ」
とうとう毒物まで使われるようになったのだ。私の命を狙うのは彼女しか考えられない。
「それがお前の間違いだと言うのだ。昨夜はカーラと私は舞踏会に参加していたのだ。お前の夕食に毒など入れることはできない。今まで我慢していたが、このままではこの侯爵家のためにはならないと判断した。成人するまで孤児院で過ごせるようにした。その時までに侯爵家に功績を残せるかどうかで、お前の処遇を決める。孤児院院に持っていける物は鞄一つ分だそうだ。よく吟味することだ」
父の考えを変えることはできそうにない。私の命より侯爵家を選ぶと言っているが、カーラの方を選ぶということだ。これ以上言えば孤児院ではなくこの国から無一文で追い出されそうだ。成人前の子供など誰も雇ってはくれないから、奴隷として売られるか野垂れ死ぬしかない。
私は拳をグッと握ることで耐えた。
「妹に会ってもよろしいですか?」
妹のローズマリアには会いたい。だが父は首を横に振った。
「駄目だ。手紙を書きなさい。そうだな、留学をすると伝えなさい。その方がローズマリアのためだ。わかったな」
父の隣でカーラは泣いている。まるで私の方が悪者だ。
だが私は知っている。父も本当は私が嫌がらせを受けていることは知っているのだ。そして父は彼女の方を選んだ。それは私が『祝福の儀」で授かったものが侯爵家の役に立たないものだったからか。
けれど父は私に情けをかけてくれた。カーラは私が授かったものを知らない。だが父は知っている。カバン一つ分しか持っていくことを許されなかったが、私はたくさんのものを収納できるのだ。この家からは追い出されたが、お金に不自由はしないくらいのものはいただけるのだ。
私はたくさんのものを収納した。母の形見の宝石。書斎にある本。厨房で保管されている食べ物。武具や薬。
本当は母が選んでくれた私の馬も連れて行きたかった。けれど生き物は収納できないので諦めるしかなかった。
ガッテン孤児院のことは知っていた。貴族の子供の捨て場と陰で噂されている場所だ。このことは誰でも知っているわけではない。継承権を持つものだけに教えられることとして知っていただけだ。
そう私は父に捨てられたのだ。
ガッテン孤児院は貴族の子供だけが引き取られているわけではないのだが、半分くらいは貴族の子供なので寄付金がすごいと聞いていたので、生活は心配していなかった。だが想像していたのと違い、食事は薄味で量も少なく、五人で一つの部屋を使い、風呂もなかった。嫌がらせのようにたくさんの物を収納してきたことが役に立つ時が来た。私はこっそりと厨房に塩や砂糖、芋などを置いた。けれど食事は改善されなかった。
改善されないのに塩や砂糖を置いたりはしない。だが自分だけ食べるのも心が痛む。よって持ってはいても食べれない。宝の持ち腐れだな。
当時の私はもう諦めていたのだ。孤児院にいる私が功績なんて残せるわけがない。侯爵家に戻ることはできないってことだ。
それなら14歳となり、孤児院を追い出されるまではここで暮らすしかない。
成人したらどうやって暮らしていくのかも考えなければならない。侯爵家から持ち出せたものだけで一生暮らすことはできないのだから。
ヴァンに目をつけたのは、彼がこの孤児院でのリーダーだと見抜いたからだ。彼より年上のものもいるのに何故か皆が彼に従っている。オーラが違うのだろう。
私はすぐにヴァンに声をかけて、彼の仲間になった。
ヴァンの一番はシーラという娘だった。血のつながりはないが妹枠なのだろう。
「あなた、ヴァンの子分しーなの?」
ヴァンに紹介されたときのシーラの第一声がこれだった。
「子分ってなんだ?」
「あそこの二人が子分えーとびーよ」
シーラが指差す場所にいるのは同じ部屋のカシムとバルトだった。
子分と言われても彼らは怒るでもなく肩をすくめている。
「いや俺はアレックだ。子分じゃない」
わかったのかわかっていないのかシーラは
「ふ~ん」
と興味なさそうに頷いていた。
変なやつだなというのがシーラの第一印象だ。




