35 活字拾いの少女、アレックに説教される
最近の私は忙しい。
朝は鳥の鳴き声で目を覚ます。
これは便利だ。目覚まし時計のないこの世界で、寝坊することがなくなった。
鳥の名前は「ましろ」にした。
ましろは私がヴァンにあてたメッセージを届けてくれる。
指に針を刺して血を取られたが、それで契約できるそうだ。これでヴァンにいつでも連絡ができる。よほど遠くに行かない限り、探し出して届けてくれると店員さんは言っていた。普通の鳥より魔鳥は距離が離れていても届けてくれるそうだ。
米を精米した時にできた米の砕けたのをましろにあげると手早く着替えて、髪は手で整える。
そして寮の食堂へ急ぐ。ましろは部屋で留守番だ。
朝のメニューはパンと牛乳かオレンジジュース。そしてお皿にサラダと目玉焼きがのっている。パンは焼きたてが並んでいるので、それをトングを使って取る
今朝はジャムパンにした。これは滅多にお目にかかれないパンだ。たぶん早いもの勝ちなんだと思う。最近はましろのおかげで、パン競争に勝っている。
そして私が前世で使っていた歯ブラシと同じようなものに塩をつけて歯を磨く。歯磨き粉みたいなものはまだ見たことがない。ガッテン街が田舎だったからかもしれないので王都で探す予定だ。
寝坊をしなくなったので、余裕で仕事場に到着する。
誰もいないのを確認して、魔法を使う。掃除は簡単にしないと活字拾いの時間がなくなるからね。
月給だけど、サボったりはしない。実績が上がれば、手当が出る。
一瞬で部屋が綺麗になる。そして活字も綺麗になる。少し綺麗にしすぎた気もする。
まあいいか。あの二人は意外と気にしないから大丈夫だろう。
「魔法の匂いがするな」
ハッと後ろを向くとアレックが立っていた。
なぜ誰もノックをしないのだろう。私もノックをしたことはないけど誰もいないことを知っているからだ。そういつもこの時間は私しかいない。
セシルさんとローズマリアさんは重役出勤だからだ。
「アレック様、このように早く何かありましたか?」
「魔法の匂いがするな」
さっきと同じ言葉を繰り返す。こう言う時のアレックは危険だ。
スルーだ。スルーするしかない。アレックはあの二人と違って誤魔化しが効かないからね。
「何か用でも? え~っと。ローズマリア様はどちらに?」
「今日は妹はお茶会とかで休むそうだ。普通こんな急にお茶会にはならないのだが、義母が突然言い出してね」
「まさかそれでわざわざ知らせにきたと?」
「まあ、そう言うわけさシーラ」
「初めましてじゃないのですか?」
アレックに胡乱な目をむける。
「ははは。そう怒るな。仕方ないだろう。君と知り合いだと妹に言うわけにはいかないからね」
「ローズマリア様はアレックが孤児院にいたことを知らないの? 」
「私は隣国に留学していたことになっている」
「それなら仕方ないね。許しましょうアレック」
「ちょっと待て。その上から目線な言葉はなんだ? 誤魔化そうとしてもダメだぞ。魔法を使っただろう。あれだけ忠告していたのに、何をしているのかなシーラ」
耳を引っ張りながらアレックが怒っている。
「いたっ、い、痛い~。耳、耳~、耳引っ張らないで」
「人の忠告を聞けない耳はいらないだろう」
「い、いるから。耳いるから、手を離して」
ペシペシと耳を引っ張っている手を叩く。
「何を考えて魔法を使っている。それでなくてもこんな所に就職なんかして」
やっと離してくれた耳をさすりながらブツブツと呟く。
「こんな所って良い職場だよ。社員食堂もあるし、金貨三枚だし」
「そう言うことじゃなくて」
まだまだ続きそうなアレックの説教を遮る。
「いや大事なことだよ。孤児の私には後見人だっていないから正社員にしてくれるだけでも有難いんだよ」
「わかっているよ。だからシーラには商会の就職先を持っていっただろう」
商会の就職先? どこかで聞いた話だ。
「あれ、アレックの紹介だったの?」
「そうだ。ヴァンが冒険者になったからシーラも冒険者にってならないように『アストリア商会』のトップに頼んだんだ。シーラはぽやっとしているから冒険者には向かないからな」
おかしいと思ったんだよ。あんな大きな商会が孤児院から事務を雇うなんて今までなかったからね。それにしても子分たちだけでなくアレックまでぽやっとしてるとか失礼すぎる。私いは魔法があるんだから、ゴブリンだろうがトロールだろうが一発で……、い、いやここで魔法の話は危険だ。耳がなくなってしまう。
「あれはボルトに譲ったんだよ。どうしてもあそこで働きたいって言うから」
「ボルト? 知らない子だな」
「いや知っているでしょ。アレックがいた頃にもボルトはいたよ」
アレックは頭が良いけど、役に立つ人間かどうかで人を判断しているところがある。貴族らしい貴族だ。アレックにとってボルトは箸にも棒にもかからない人間だったのだろう。
「なぜ譲った? あんなに条件の良い就職先はなかったはずだ」
孤児を雇うには条件が良すぎた。危険を察知した私は悪くない……はず。
「あの経営者みたいな人が「美味しいお菓子もたくさん食べれますよ」とか言うから、怪しいと思ったの。それに趣味の悪いきんきらした服を着てたし」
「あの人は、確かに服の趣味が悪い。でもすごく良い人なんだ。君から他の子供に変わっても雇っただろう? 私が頼んだのは君のことだけだから、君に断られたらその子を雇う必要はなかったが雇っている。多分、そのお菓子をって言う言葉も君たちが痩せているのに気づいたから不憫に思い出たのだろう」
あも金ピカおじさんはどうやらとても良い人だったらしい。疑ってしまって悪いことをしたな。




