34 活字拾いの少女、ヴァンとの連絡手段を得る③
「この階は鳥だけを扱っているのですよ」
店員さんが説明してくれる。
「上の階はどんな種類の動物なのですか?」
天井を見上げながら尋ねると店員さんも同じように上を見上げてる。
「上の階は犬と猫になります」
「え? 猫?」
私は猫と聞いてテンションが上がる。猫がいるなんて聞いてないよ。
「シーラ、猫は寮で飼えないんだろう?」
ヴァンが宥めるように私の肩をおさえる。
「うっ、そうなんだけど、もふもふが……」
確かに飼えない。私だってわかっている。寮で猫を飼うのが不可能だってことは。
飼えないけど、もふらせてほしい。癒しが欲しいのよ~。
「猫がご希望ですか? でも猫はおすすめはできませんね」
「そうなのか?」
「確かに猫はこの店で一番人気があるのですが、お客様は連絡手段としての動物が希望なんですよね」
「はい、ここはそのための動物を売っていると聞いたから買いに来たんだ」
「そうでしょう。それならやはり猫はやめておいた方が良い。猫を希望される方々は配達には興味のない方が多いのです。ここの猫たちは訓練されているからとペット用に買われる方が多くて」
「ペットですか? ペットはペットショップで買う方が安いのでは?」
「それがペットショップの猫よりこちらの猫の方が飼いやすいと評判でして」
愛玩動物を希望する人のための店はペットショップと言って、中央広場のあたりにあった。実はその店の前を通りかかったことがある。大きなガラス窓の向こう側にはたくさんの動物が売っていた。そういえば猫は見なかった。
「でもどうして猫はお勧めできないの? 猫が手紙を運んでいる姿、想像しただけで可愛いのに」
店員さんには丁寧な言葉で話そうとしていたのに、猫と聞いたら普段使っている言葉になってしまった。この方が話しやすいからね。
「それが猫は配達には不向きなのです。会長がどうしても猫を推してくるので猫を扱っているのですが、配達を頼んでも途中で寝たりして、届くのが遅くなるのです。寝て起きた時には忘れて戻ってくる猫もいるんですよ、ははは」
店員さんは苦笑いしている。
確かにそれでは配達には不向きだ。
「それなら猫は初めから除外した方が良くないか?」
「そうだよね~、どうしてまだ売ってるの?」
「ですから先ほども言ったように、売れるのです。ここで一番売れているのが猫なんです」
なるほど、会長が推しているだけじゃなくて、お客様たちも推しているってことなのね。
「この部屋です」
店員さんが開けてくれた部屋に二人で入る。
先ほどの部屋と同じように華やかな鳥が一羽づつカゴに入れられているが、全然騒がしくない。
あまりに静かなので思わず、
「舌切ってない?」
とヴァンに小声で聞いてしまっていた。
「確かに静かすぎるな」
二人でこそこそと話していると、耳が良いのか店員さんが嫌そうに否定する。
「そんな残酷なことしませんよ。魔鳥は賢いですからここでそのような残酷な話はしないでください」
この店員さんというかこのお店は普通の鳥と魔鳥では扱いが違うようだった。舌を切るとか鳥さんたちの前でも平気で話してたのに。
私たちに近づくと小声で注意してきた。
普通の鳥と違って魔鳥は賢いから、舌を切るとか言うと暴動が起きるらしい。
私は普通の鳥の時と同じように一羽ずつ確認する。
すると声が聞こえてきた。そう鳴き声ではなく声が聞こえてきたのだ。
「シーラ、シーラ」
私を呼ぶ声が鳥の中から聞こえてきたのだ。
反応が早かったのはヴァンだった。さすが冒険者。
「シーラ、シーラって喋った鳥はこの鳥だ」
鳥を特定できたのもヴァンだけだった。
「えっと、店員さん、魔鳥って人間の言葉を話せるの?」
「さっきも言いましたでしょう? 舌を切る話を聞いた鳥たちが暴動を起こすと。すなわち彼らは人間の言葉を理解していると言うことです。つまり話すことも可能な鳥もいると言うことです。舌の形のせいで話ができない鳥もいますが、魔鳥ですからね。声帯ではなく魔力を使って話しているのではないかと言われています」
私はヴァンが特定した鳥に近づく。
「シーラ、シーラ」
やっぱり私を呼んでいる。でもそれだけで何かを話してきたりはしない。
白い鳥だった。大きさは前世で見たオカメインコくらいだ。でも心なしか丸っこい。
前世で見たことのあるシマエナガに似ている。
「どうして私の名前を知っているの?」
鳥は答えなかった。だが店員さんが代わりに答えてくれた。
「おそらく他の部屋にいた時に聞いたのでしょう。彼らは耳が良いんです」
「他の鳥と違って真っ白い鳥なのね」
「以前はこの鳥も他の鳥に負けないくらい華やかな鳥だったんですよ。なぜか真っ白になったと言われて返されたのです。白くても近場なら配達もできるのですが、この色になったら能力まで疑われて、全く売れないのです。困ったものです」
魔鳥の色は華やかなほど魔力が多いと言われているからかもしれない。
シマエナガに似ている鳥はジッと私を見ている。
ずっと売れない鳥。
ここで私が買わないと焼き鳥にされちゃうかもしれない。そう思うと不憫だった。
それに私を呼ぶ鳥の声は澄んでいた。
「この鳥にするわ」
「いいのか?」
「あっ、でも予算より高かったら無理かも……」
鳥が焦ったように鳴き出した。
「チュ、チュ、チュッ、チュン!!]
どうやら魔鳥が人間の言葉を理解できると言うのは本当のようだった。




