30 活字拾いの少女、アレックと再会する
「初めまして。アレック・ノルティアです」
久しぶりに会ったアレックは、初めましてと言った。孤児院で初めて挨拶した時と同じセリフだけど、あのときは「初めまして。アレックです」と言った。不思議な感じだ。
「あっ、はじめまして、シーラです」
ローズマリアさんと同じ黒い髪に黒い瞳。
ローズマリアさんと初めて出会った時に、懐かしい気がしたのは前世の記憶のせいかと思っていたけど、アレックの黒髪と黒い瞳と似ていたからか。
「なんだか初めて会った気がしないな」
アレックが貴族スマイル全開でそんなことを言う。
それは……初めてじゃないからね。
「私もです」
とだけ返しておく。
ローズマリアさんを迎えにきた兄がアレックだった。
アレックは孤児院を去る時、貴族の家に帰ると言ってたけど家名までは言ってなかった。まさかローズマリアさんの兄だったとは……。侯爵家だったのね。
そういえば「妹が待っているから早く家に帰らなければならない」って言ってたっけ。なんかもっと色々言ってた気がするけど覚えていない。
あそこにはそういう人はたくさんいたから。私みたいに生まれてすぐに孤児院に置いて行かれた子と違い、孤児院にいた子供のほとんどは物心ついた頃に親に捨てられた子か親が死んだために孤児院に連れてこられた子供だった。だから親元に帰りたい兄弟に会いたい、そんな子供はたくさんいた。
そういえばヴァンはそういうこと言ったことなかったな。
「ほう、活字工房とはこんなふうになっているのですか。ローズマリアから聞いてはいたのですが、これだけの活字の中から活字を拾っていくのは大変でしょうね」
アレックの目は好奇心で輝いていた。初めて見る活字工房を熱心に見入っている。
「まあ、お兄様。どれだけ大変かいつもお話していたのに信じていなかったのですか?」
「ローズマリアの話はいつも大袈裟だからな」
「もう、知りませんわ」
笑いながら「ごめん、ごめん」と謝っているアレックは、私が知っているアレックとは違う人だった。
孤児院にいた時の彼は常にピリピリしていた。
私やヴァンと一緒に魔法の練習をしているときも何かに追われているかのように焦っていた。
家族のもとに帰れたからかな。だとしたらこれは良いことなのだろう。
「お兄様、明日も来たいのですがよろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ。それに今はあの人は来週行われる舞踏会のことで、忙しそうだからローズマリアのことに構っていられないだろう」
「あら? 王宮の舞踏会って来週でしたかしら?」
「まさか忘れていたのかい?」
「まさか、忘れてなどいませんわ」
絶対に忘れてたよね!
でも口を挟んだりはしませんよ。セシルさんも二人の会話に笑顔で頷くくらいしかしていない。
二人はそのま馬車に乗って帰って行った。
「仲の良い兄妹ですね」
「そうね。私は一人っ子だから兄という存在が羨ましいわ」
私にとっての兄は、ヴァンやアレックだった。いやアレックは魔法の先生だったから兄とは違うか。いつも偉そうだったしね。
アレックとの再会は、はじめましての挨拶だけで終わった。
身分が違うのだから、もう昔のように話すことはないのだろう。




