29 活字を拾う不思議な少女シーラ ローズマリアside
することといえばお茶会や舞踏会への参加ぐらいしかすることがなく暇を持て余していた私の元にセシル・ガッテンから手紙が来た。
漢字を扱える活字拾いがいないといういつもの愚痴かなと思っていたのだが違った。
(あなたが待ち望んでいた『白銀の竜と契約の魔法使い』の本を作っているわ。まだ活字を拾っている段階だけど、今度雇った活字拾いは優秀だから、すぐに本になるわよ。本になったら贈るわ)
私は兄の部屋に急いだ。兄は優しいから私の望みを叶えてくれるはずだ。
義母であるカーラは自身の子供のことばかり可愛がるところがあるけど、いじめてくるわけでもないし、私の行動に無関心だから気にもならない存在だった。だって自身の子供が可愛いのは当たり前だものね。
でも兄は違った。なぜか義母を毛嫌いしている。
だから今回、王妃様に嫌味を言われたとかで、急に私に構い出した義母にガッテン工房でも手伝いを辞めさせられても兄に助けを求めることができなかった。でも今は違う。あの『白銀の竜と契約の魔女』の物語を作るのなら私の手で作りたい。そのためにあの工房の手伝いをしていたのだから。
私とセシルは学院の図書館で知り合った。本好きだった私は彼女の家の活字工房に惹かれた。
手書きで作る本とは違う、印刷で作る本は同じ活字で大量に作ることができるのだ。これは我が国があるこの大陸ではなく他所の大陸での技術をガッテン子爵が学び、事業として取り入れたのだ。だから我が国で印刷された本が作れるのはガッテン活字工房しかない。
だから卒業するとき、漢字を使った本を作る手伝いを探していると聞きすぐに手を上げたのだ。
だが工房の手伝いは考えていたより大変だった。貴族の令嬢として育った私には荷が重かったのだ。同じ仲間がいたから続けたけれど、正直辞めたいと思ったことは何度もある。
一日に数時間程度しか手伝わない日もあったが、セシルは喜んでくれた。
自身が活字拾いをした本が出来上がったときは本当に感激した。今でもその時の本は本棚の一番目立つ場所に飾っている。
兄にどうしても手伝いに行きたいとお願いすると兄は協力してくれた。
そして手伝いに行った私はシーラと出会った。
驚いたことにシーラは平民の娘だった。平民の娘が漢字を拾う? 何度か孤児院に慰問で行ったことがあるけど、シーラとは違った。言葉遣いも違うし、なんというか雰囲気が全く違うのだ。
一緒に版を組んで一緒に社員食堂を利用した。食事の取り方も彼女は上手だった。この社員食堂は彼女以外の平民も利用している。まず平民は音を立てて食べる。時にカトラリーを使わずに手づかみになる人もいる。
シーラにはそういうことがなかった。不思議な少女だ。
そして昼からの仕事だ。
一緒に活字拾いをしようとしていたけど、やめた。それは彼女のスピードについていけなかったからだ。
活字棚の活字の置き方が変わっていたからと断って、組版作業をすることにした。
組版をしながらもシーラを眺めていた。
ものすごいスピードで鼻歌を歌いながら棚から活字を拾うシーラはすごく楽しそうだった。




