28 活字拾いの少女、『ゴムゴムの草』について語る
三人で仕事をするのは一人でやっていた時とは、全く違う。
先の見えなかった作業が、先の見える作業に変わる。
とはいえ、活字拾いは私の仕事。組版は二人でやっているから、待たせるわけにはいかない。
どんどん拾うよ~。
「ところでシーラ。このアームカバーのこの端の部分はどうなっているのかしら?」
う~、どうしても活字拾いの方が遅くなるみたい。セシルさんが作業が終わったのか、暇そうにアームカバーを触っている。
「ぶよんぶよんして変な感じ」
「わかりますわ。不思議な感覚。ずっとしているとあとがつくわね」
ふふふ~ん。この世界にはゴムがない。いやなかったというべきか。
ゴムの便利さを知っている私からすると炭酸のないコーラみたいに微妙なのだ。色々と。
ファスナーもね~、誰か作ってくれないかな。
突然ですが異世界のパンツは紐パンなのだ。しかもチョウチョ結びではなく固結び。トイレに行くと外すのに時間がかかる。だからトイレに行くのは余裕を持って行かなければならない。特に孤児院では小さい子の面倒は年長者の役目でもある。小さい子が余裕を持って行動なんてできるわけがない。小さな子が失敗すれば洗濯物が増える。とてもとても大変なのだ。
私はずっと思っていた。ゴムがあればいいのにって。
そんな時、ヴァンが遊びに使っていたあるものを見て、びっくりした。ゴムだったのだ。正確にいうとゴムのような物だった。
ヴァンにそれは何かと聞くと、エドなんとかっていう植物から作る遊び道具だって言うのよ。
まさかゴムのようなものが、存在していたなんて!
どうしてこんなに便利なものを遊びにしか使っていないのかって聞くと、どこが便利なのか?って首を傾げられてしまった。そうゴムを知らない人にはどこが便利なのかわからないのだ。
エドなんとかっていう植物は森に行けば冬以外はどこにでも生えている草だった。
ヴァンはその日とてもお腹が空いていたそうだ。そしてそのエドなんとかと言う草が、もう呼びにくいからゴムゴムの草にするね。(孤児院ではゴムゴムの草って読んでるし)そのゴムゴムの草がとても美味しそうに見えたらしい。ヴァンが言うには、私にも食べないかって聞いたらしいけど、断られたそうだ。ちなみに私はそのことを覚えていない。
そしてヴァンは数人の子分を連れて河原に行き、火をおこし、鍋に水を入れて沸かして、そこにゴムゴムの草を
入れて煮ることにした。このゴムゴムの草は、生えているときはぐんぐん伸びて曲がったりしないけど、切り取ればへにょんってなって、いくらでも巻くことができるからヴァンはそのままぐるぐる巻きにして鍋に入れて煮ることにした。
「そのヴァンって子は鑑定持ちなの?」
「いえ、そんな便利なもの持っていたら、引くてあまたです。彼は孤児院の売れ残りです」
そうヴァンも私と同じで最後まで引取り手がなかった売れ残りである。
「じゃあ、食べれるかどうかもわからない、エド……なんだったかしら」
「ゴムゴムの草です」
「ゴムゴムの草を食べようとしたのね。毒だったらどうするつもりだったのかしら」
「生で齧ったことはあるから大丈夫だと思ったみたいですよ」
まあいくら孤児院の子供でも食べれる草しか普通は食べようとしない。ヴァンがおかしいのだ。
「それで煮てたら、周りが溶けて残ったのがゴムだったと言うわけです。ゴムは私が命名したんですけどね」
ヴァンは初め食べようとしたけど、味はしないし、噛んでも齧れなかったので、諦めて遊びに使っていた。伸ばせば伸びるし、伸ばしたあと離せば元の形に戻るから面白かったみたい。
私はすぐにヴァンからそれを取り上げた。そして大量生産するように指示した。
けれど食べれないからとヴァンは作るのを嫌がった。(彼の子分も嫌がった)
だから彼らには『ぱちんこ(スリングショット)』の作り方を教えた。
これは今でも孤児院の子供達の遊び道具として使われている。ちなみにヴァンはこれを冒険者として使っているらしい。結構威力があるから狙い所によっては角ウサギくらいなら倒せるそうだ。あっ、これなヴァンガ使うからで、私が同じように使ってもそこまでの威力は出ない。
「それでパンツの紐の部分をこれに変えたのね」
「はい。今回アームカバーを作るにあたって、このゴムを使いました。紐だと一人で装着できそうにないので」
パンツに使うゴムを使っているというと嫌がるかもって思ってたけど二人はそんなことを気にしていなかった。
「まだ、そのゴムはあるのかしら?」
「そうですね、残り少ないですが、無くなったらヴァンに作ってもらいますから」
「でも変ね。ガッテン街はうちの領地よ。どうして誰も話してくれなかったのかしら。こんなに便利なものなのに」
ふ~。いくら領主様でもなんでも報告されるわけではない。
「それは孤児院でしか使われていないからですよ。それに作っているのはヴァンとその子分だけ。他の人は作り方知らないですから」
「まあ、もったいないわ。便利なものは広げないと」
セシルさんは貴族なのに商売人でもある。




