26 活字拾いの少女、版を組む②
一人で版を組んでいると、なんか寂しい。
活字拾いの時はそうでもないんだけど。なんだろう目がしょぼしょぼしてきたよ。
これ疲れるわ。
「ふ~」
息を吐く。
やっぱり鏡文字になるから、神経使うんだよね。
間違えたら誤植? になるし。
今組んだのを確かめる。本当に大丈夫だろうか。
「……た、たぶん、だいじょうぶ?」
「あら? たぶんでは駄目ですわ」
突然後ろから声がして驚く。またもやセシルさんか?って思って振り向くと、知らない人がいた。
黒い髪に黒い瞳のお嬢様? 制服を着ていない。高級そうなドレスを着たセシルさんと同じくらいの年齢の人が立っていた。
「ど、どなたですか?」
この部屋、いつもノックもせずに人の背後に立たれるんだけど危険じゃない?
「少し前までここで手伝っていたものよ。義母様のおかげでやめないといけなくなってしまったのですが、今日はお兄様と出かけると言って家を抜け出したのですわ」
家を抜け出してきた? 監禁でもされてたわけ?
貴族こわっ。
怖いわ~。
「あのそれで、今日は何を?」
「手伝いに来たのですわ」
「手伝いって……、その服装では汚れますよ?」
名前は知らないけど、このお嬢様はとても仕事をするような服装ではない。
「あら、これでも普段着ですのよ。ですから汚れても構いませんわ」
お嬢様は良いかもしれないけど、洗濯する人の苦労を思うと汚れるようなことはさせられない。
私も制服を支給されてるけど、二着だけなのでアレを作った。腕ぬき? アームカバー? 作り方はとても簡単なので、古着を切って作った。エプロンは誰もが使えるよう常備されている。カゴに入れておけば制服とエプロンは洗濯してくれる。でも返ってくるまで日にちがかかるのでアームカバーを作ったのだ。アームカバーなら洗濯も簡単だし、装着も手軽だ。
「私の名前は、ローズマリア・ノルティアです。ローズマリアと呼んでくださいな」
やはり貴族の方のようです。家名があります。黒い髪に黒い瞳。なんか懐かしい感じがする。たぶん前世の日本人だった時の記憶に引っ張られているのだ。
「私はシーラです」
「家名はありませんの?」
「平民ですので、ありません」
「そうですの。それでシーラ、その腕にしているのは何かしら?」
やはり気づかれたようです。不恰好ですが、服を汚さないためです。
「これはアームカバーです。制服を汚さないように考えて作ったものです」
「まあ、素晴らしいわ。もう一つありませんの?」
「こちらにあります」
洗濯されたエプロンが置いてある棚に案内する。
「サイズが合うのを使ってください」
セシルさんが使うかもと思って大きいサイズ作っておいてよかったよ。私のは子供サイズだからね。
ローズマリアさんは、エプロンをしてアームカバーをつけると、私が苦労した組版を確認している。
「こういう作業はふたりで確認した方が良いのですわ。自分だけだと間違いに気づかないことがありますから」
「ローズマリア様がいらしてくださって、助かります」
セシルさんより上品な方なので、言葉遣いに困る。緊張して汗が出てきたよ。
ローズマリアさんは私が拾った活字で組版もしてくれた。彼女がしたのは私が確認する。二人でやったから、十箱以上拾ってあった文選箱は全て組版できた。




