22 活字拾いの少女、魔法を使う
「なんでこんなに汚れてるのよ~」
印刷工房から返ってきた活字はインクで汚れたままだった。金属活字の汚れは全てを落とすことはできない。でもここまで汚れていると他の活字にも汚れが移り、下手をすると印刷にも影響が出てしまう。
「これは綺麗にしないと、元の場所に戻せないわ」
どうしたものか悩んでたけど、よく考えたらここには私しかいない。
セシルさんも当分出社できないって言ってたし、魔法使っても大丈夫だよね?
【清潔】
魔法を使った瞬間、ヤバって思った。活字の箱は十以上もあったから【全部】って声には出さないけど、心の中で強く願った。そのせいか部屋全体が綺麗になっていた。
久しぶりに大きな魔法を使ったからか、ちょっとやりすぎてしまったみたい。もしかしたら魔力が漏れてたのかも。
次からは活字だけを綺麗にする魔法を考えよう。
部屋がすごく綺麗になっている。
良かった。誰もこの部屋には来ないから大丈夫。
それにしても結構汚れてたんだね、この部屋。
そういえば掃除する人をまだ見ていない。
ここの掃除も私の仕事ってことなのかもしれない。給料の金貨三枚はもしかして安いんじゃない?
まあ一瞬で綺麗になったから良いか。
空気まで綺麗になった気がするよ。
あっ、空気って言葉はこの世界で使っても良いのか悩むところだ。でも日本でも江戸時代の終わり頃から使われてるって言うから、使っても良いのかもしれないね。
「あら、この部屋、どうしたの?」
突然声がしたと思って振り返れば、ここにはいないはずのセシルさんが立っていた。
「げっ!」
思わず声が出てしまったいた。今日は来ないんじゃなかったの?
「げってなんですか? シーラ?」
「あっ、すみません。驚いてしまって、変な声が出ました。セシル様、しばらくお休みでは」
「活字が足りないかもしれないと思ったのよ。印刷が終わった活字が戻ってきているけど、まだ棚に戻せてなかったの。そこに箱があるわ」
うんうん、あるよ、箱がたくさん。もう少し早く知りたかったけど。
「それにしてもこの部屋、空気まで美味しい気がするわ」
空気! 今空気って言った。空気って言葉は使えるってことだね。
「それにすごく綺麗になってる」
「そ、掃除したんです。掃除を」
大事なことだから二度「掃除」って言ったよ。
「そう、掃除までしてくれたのね。ありがとうシーラ。そういえば最近掃除の人、入れてなかった気がするわ。ほこりとか溜まっていたのね」
良かった、セシルさん私が魔法を使ったこと気付いていない。あっ、掃除は私の仕事じゃなかったみたい。よかった。ブラックかって思ったよ。
「そ、そうですね。ちょっと埃っぽかったので、掃除したんです」
「あら、その箱……」
セシルさんが私の横にある箱に気付いた。
「あっ、この活字もちょっとインク汚れが酷かったので、掃除しときました」
何か言われる前に掃除で黙らせよう。もう今日だけで掃除って何回言ったことか。
「まあ、金属活字まで綺麗にしてくれたのね。これ怠ると活字の寿命も短くなるの。ありがとうシーラ」
ふ~、なんとか誤魔化せたようだ。
「あら、棚にある活字まで掃除してくれたのね」
「えっ!」
なんと棚にある活字まで綺麗になっているようだ。魔法の範囲が広すぎる。
「掃除好きなんです」
笑って誤魔化すことしかできなかった。




