19 活字拾いの少女、活字を並べ替える
活字の置き場所については、あなたに任せるわ。ひらがなと漢字は分けているけど、活字が出来上がってくる順番で置いていたのよ」
「なるほどです。それでバラバラなんですね」
じゃあ、まずはひらがなをあいうえお順に並べますか。
「あいうえおじゅん?」
「あっ、また漏れてましたか? なんか心の声が漏れるみたいなんです」
「何? それ? おかしな子ね。それで、あいうえおじゅんって何?」
「えっと、私の考えた活字の並べ方です」
日本のことを言っても変な顔されるだけだし、私が考えたことにしておこう。
「そう。確かに規律性のある並べ方の方が拾いやすいでしょうね。今はあなただけだけど、来年には二人入ってくることになってるの。あくまでも予定だけど」
「来年ですか? それまでは私とセシル様だけで?」
「私はそれほど来れないから、実質はシーラ一人になるわね」
え~~~! それってブラックですよ、ブラック。
こんなことならガッテン街の活字工房で活字拾いをしていた方が……ってクビなったっけ。
「実は去年まではもう少しいたのよ。私が学院に通っていた時のお友達が手伝ってくれていたの。みなさん本が好きで、漢字を使った本も印刷したいって言ってくれましたの。それまでは漢字の本は手で書かれたものしかなかったの。うちのガッテン工房でもひらがなだけの本しか作ってなかったしね。彼女たちのおかげで漢字を使った印刷された本ができたわ。でも残念ながら適齢期が来たので家の方に帰られたの。おそらく親の反対もあったのでしょう。仕方ありませんわ」
私がひらがなの文字の置き場所を変えていると、暇だったのかセシルさんはどうしてガッテン街の活字工房の視察をしていたのか話してくれた。どうやらセシルさんは漢字の活字を拾える人を探すために訪れていたそうだ。イライラおじさんもその一人だった。彼も貴族の三男で学院にも通っているから、ガッテン街の活字工房で活字長をやらせておくのは勿体無いと考えたのだが、彼は失格だった。人となりも皆が首を振る人物だった。けれどこのままでは漢字を使う本が印刷できないと思い、彼の面接をしたそうだ。その面接の時に一冊の本を渡した。「祝福の儀』を読んでもらったのだが、短い話の本だったのだが、読めない漢字もあって最後まで読むことができなかったので、ここで働いてもらうのは諦めたらしい。
「酷いものだったわ。シーラさん、ごめんなさいね。彼があなたをクビにしたのは王都で働く話がなくなったからかもしれないの」
「イライラおじさんの態度はいつもあんな感じだったから、セシル様の責任ではないと思います」
「あっ、忘れてたけどこれが契約書よ。読んだらサインしてくれる?」
ふむふむ、月給制で、え? 給料は? 月、金貨三枚。さ、三枚??
「こ、これ間違ってないですか?」
「どこか間違ってた?」
「き、金貨三枚って多いですよ。活字長でも一枚から二枚だって聞いてます」
「それはひらがなの活字長でしょ? 漢字も扱うのだから、活字拾いでもこのくらいにはなるわ。それにこのくらい出さないと貴族の人は働いてはくれないの。それにシーラには活字長のしている仕事も手伝ってもらうつもりよ。これについては悪いけど、出来高制になるわ。終わりのところに書いてあるでしょう?」
「え? 版に組むのも私がするのですか?」
「当分の間、お願いするわ」
なんかセシルさん、丸投げじゃない?
大丈夫かな。
いや、それを含めて金貨三枚ってことだ。よし、頑張ろう。




