17 活字拾いの少女、漢字の活字部屋に案内される①
セシル・ガッテンが王都へ帰ってきたと噂で聞いた。
そう私に話しかけてくる人はまだいないけど、寮での食事や社員食堂での食事の時に耳に入ってくる情報があるのだ。美味しい店屋の情報とかが特に多い。(私はこっちの方が目当てだったりする)でもたまにセシルさんの情報や王室の情報もある。
セシルさんはガッテン子爵の一人娘らしい。このガッテン工房の跡継ぎだとか。そんなに偉い人だったんだね!
だって貴族だよ。
今の王には三人の妻がいる。上級貴族だと二人以上の妻がいることは珍しくないらしい。日本での記憶のある私には三人の妻とか考えられないから、平民に生まれてよかったなって思っている。
だからガッテン子爵も奥さんがたくさんいて、子供もたくさんいて、セシルさんはその中の1人くらいに思ってたのよ。まさかたった1人の子供で跡継ぎって、びっくりして食べてた手をとめちゃった。
セシルさんが王都に帰ってきていいると言う噂を聞いてから三日後に彼女は私の前に現れた。
「どうしてこんなところで働いているの?」
活字拾いをしていた私と目が会うとセシルさんは驚いた顔をしていた。
「えっ? 活字拾いとして雇うって言ってましたよね」
「言ったわ。でもここではないの。寮に行ったら働いてるって聞いて驚いたわ」
ここではないって、でも王都の活字拾いの場所はここしかないって聞いたよ。ガッテン街は番号が書かれた部屋が何部屋かあったのに、ここしかないって話だった。確かにガッテン街の活字拾いの部屋の何倍も広いけどね。
「案内するわ。着いてきて」
「セシル様、シーラを連れて行くのですか?」
バートン活字長が驚いたように尋ねる。
「そうよ。それがどうかした?」
「いえ、シーラは入ってきてまだ数日ですが、他の人の何倍も活字を拾ってくれています。他の部署に配置予定なら、こちらに配置して欲しいです」
「残念ながらそれはできないわ。彼女は漢字部門の活字を拾ってもらうつもりなの」
「か、漢字部門ですか? 彼女は平民ですよ」
「ですがシーラは漢字が読める。それだけでも試す価値があるわ」
「試す価値ですか? それならダメな時はここに戻してください」
「わかったわ。多分大丈夫だと思うけど、だめな時はここで働いてもらうわ」
二人の会話を聞きながら、何をさせられるのか不安になった。でもバートン活字長のおかげで、もしものときはここに戻って来れる。無職にはならないのだ。バートン活字長、ありがとうございます。
セシルに連れられて歩いていると大きな扉があった。セシルはその扉の前で止まり、鍵を使って開けた。
部屋の中に入るとインクのにおいがした。
たくさんの活字があった。
ひらがなだけの活字の部屋とは違い多くの漢字の活字が置かれていた。もちろんひらがなも置いてある。でも圧倒的に漢字の活字が多い。
「ここは?」
「漢字もある活字拾いの部屋よ。活字が多すぎて、覚えるのが大変だから、なかなか進まないの」
これほど多かったらそうなるよね。
でもインクの匂いは同じだ。ってことは今までとやることは変わらない。
私は活字の置いてある場所を覚えれば良い。そして活字を拾うのだ。




