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転生者ですが孤児だったので、活字拾いでなんとか生きています!  作者: 小鳥遊 郁


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16 ガッテン子爵 昔の思い出ーガッテン子爵side

ガッテン子爵には忘れることのできない過去があった。

 まだ若き頃、彼には婚約者がいた。男爵令嬢のカーラ。幼き頃からの婚約者で、自分の意志で選んだわけではなかったが、ガッテンはカーラのことを大事にしていた。

 カーラの家もガッテンの家も貧しかったが、ガッテンはいつかはこの子爵家の領地を豊かにしてみせるとカーラに語り。カーラも「私も応援するわ」と彼の隣で微笑んでいた。


 だがカーラは侯爵家の第二夫人に選ばれてしまった。確かに彼女は美しかったが、所詮は男爵家の令嬢。第二婦人とはいえ選ばれるはずのない縁談だった。

 ただ彼女には不思議な力があった。


「私の前世はニホンジンだったの」


 幼い頃、時々カーラはこんなことを言っていた。ガッテンもその頃は幼かったから、カーラの言うことを真剣に聞いてはいなかったが、結局のところ今思えばあれが原因だったのだ。

 侯爵家からの申し込みを断れなかったのではない。もちろんそれもあるが彼女は豊かな暮らしがしたかったのだと思う。

 最後に会った時、カーラは言ったのだ。


「あなたの夢に付き合えなくてごめんなさい。私は前世と同じレベルの暮らしがしたいの。あなたの夢が叶えば同じような暮らしはできるようになると思っていたから、今までは応援すると言っていたけれど、それまでにどれほどの苦労をするのか考えたの。私はもうこんな暮らしは嫌なの。お風呂にも時々にしか入れない。美味しいものも滅多に食べれない。貴族の中では底辺な私たちはどこに行っても頭を下げてばかり」


 私にとっては当たり前の暮らしだが、カーラには耐えれなかったようだ。それが前世で暮らしたニホンでの思い出との違いのせいだった。

 だが私は彼女がなぜ侯爵家に選ばれたのか不思議だったので尋ねた。


「カーラはいつノルティア侯爵と知り合ったのだ? 」


「ルークスは知っているでしょ? 私の魔法の力。この間のノルティア侯爵家で開かれたお茶会で彼の奥様に見られてしまったの」


 カーラがお茶会に招待されていたのは知っていた。女だけのお茶会だからルークスは行っていない。本来は上級貴族ではない男爵家が出るようなお茶会ではない。彼女が招待されたのは確か同じ学院に通っていた頃に知り合った伯爵家の令嬢の付き添いのようなものだと話していた。

 一度で良いから上級貴族のお茶会に行ってみたいと無理を言ったと笑っていた。そんな彼女に上級貴族のお茶会でも失礼にならないドレスを贈ったのはルークスだった。


 私だって漢字を知っている。学院で漢字を習うからだ。貴族だけが通う学院。そこで漢字を習うし、それまでにも家庭教師に習っている。

 だが魔法はショボイ魔法しか使えなかった。一緒に漢字を習っていた同級生も似たようなものだった。だが一部の人は強力な魔法が使えた。そしてカーラもその一部の人だった。教師は私たちに言った。


「魔法を極めたければ、漢字を理解することだ」と。


 だが理解とはどう言うことなのかがわからかった。だからカーラになぜ君は感じを理解できるのかと聞いたことがある。


「だって漢字はニホンジンの頃に使っていたから」


 カーラはよくそう言っていた。

 カーラはもし侯爵家の第二夫人にならなくても多分、王宮の魔術師か何かになっていたのではないかと思う。

 私とは縁のなかった女性なのだ。

 それだけ彼女の火魔法はすごかった。


 カーラは今では第一夫人だ。だが侯爵家の跡取りは彼女の子供ではない。亡くなった第一夫人が産んだアレック・ノルティアが後継者に決まったらしい。

 てっきり侯爵家を乗っ取るつもりかと思っていたが、そうでもなかったらしい。




 カーラに振られたあと、縁があって今の嫁マーサと出会い、結婚した。二人で活字工房を立ち上げ、大きくした。今ではガッテン活字工房の名はこの国では知らない人がいないくらいになった。おそらくカーラとではここまでの成功はなかっただろう。

 マーサとの間には娘が一人生まれた。名前はセシル。

 彼女が生まれた時、活字工房の成功よりずっと嬉しくて涙が止まらなかった。

 

 私の幸せはここにある。


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