12 活字拾いの少女、寮に入る
「こちらがシーラさんの部屋になります」
私の部屋は寮の三階だった。二階と三階が従業員の部屋になるようだ。
「えっと、個室なんですか?」
「はい。二人部屋もありますが、シーラさんは個室にするようにと紹介状に書かれてました。個室は二人部屋よりも狭いですが、一応小さいですがタンスと、机もあります部屋の灯りは魔道灯に魔石を入れて使うようになってます。初めはこちらで魔石を負担しているのでつきますが、次からは魔石に魔力を補充してください。魔石屋にいけば補充してくれます。この寮は火器厳禁なので、火を使う灯りは禁止されています」
「どうして禁止されているのですか?」
魔道灯は高い。各部屋に用意するのは負担になると思う。それに魔石より獣脂や植物油を使用する油灯、ローソクの方が安上がりだ。少し臭いけどね。
「一階には図書室があります。そこに置かれている本は部屋に持ち帰って読んでも良いことになっているのですが、紙は燃えやすいので火が出るものは禁止されているのです」
「本を部屋に持ち込んでもよ良いのですか?」
「こちらで働く方は、本好きな方が多いですから、みなさん喜ばれています」
いたせりつくせりだわ。
「あと一階には食堂と洗濯室と台所があります。あと寮監である私の部屋と相談室や面会室もあります。後でどこに何があるか確認してください」
「食堂があるのに台所があるのですか?」
「食堂で食事が提供されるのは平日の朝食と夕食だけです。時間も決まっているので、それ以外だと自分で作らなければなりません。あと工房の休みにあたる光の日は食堂も休みになるから自分で作らないといけません。まあほとんどの人は街で食べてくるか、何か買ってきて食べていますね」
「お昼はどうするのですか?」
「お昼は社員食堂で食べてください」
そうだった。社員の人は、無料で食事が提供される社員食堂があったんだった。
ちょっと待って! そうだ。
「もしかして寮の食事も無料なのですか?」
「いいえ。食べた分だけ給料から引かれます」
そうだよね~さすがにそれはないか。
「昔は無料だったのですよ。でも男子寮なんかだと酒場に行く人もいて食べない人もいますからね。そういう人から文句が出たのです不公平だと。それで一食銅貨一枚。一ルクよ。
「一ルクですか? すごく安い」
銅貨一枚は日本の価値で言うと50円くらい。乗り合い馬車が二銅貨で二ルクだから、すごく安いと思う。それにしても自分で食べないくせに文句を言うとかすごい人がいるなぁ。
「それと浴室は二階にあります。お風呂嫌いな人もいるけど、必ず三日に一回は入ってください。これはこの寮のルールです」
「えっ? 風呂があるんですか?」
きたーーーーーーー!! 風呂だよ。お風呂。 この世界に来て初めてのお風呂。孤児院では風呂なんてなかった。身体を拭くことしかできない。ガッテン街には公衆浴場もない。王都にはあるってヴァンが言ってたから、入りに行こうと思ってたけど、まさか寮にお風呂があるなんて! もしかしてガッテン街の寮にもお風呂があったのかな。惜しいことをしたなぁ。あっ、でもあの時は社員じゃないから入れないか。
「そうですよ。まさか風呂嫌いなんですか?」
「いえいえ、大好きです」
「お風呂が?」
不思議そうな顔をされたけど、風呂嫌いが多いのかな。
「はい」
「そう。それは良かったわ。お風呂って習慣がないですから、ルールだって言ってもなかなか浸透しないんですよ」
なるほど。さっき風呂が好きだって言って、驚かれたのは風呂自体が珍しらしいかららしい。王都には公衆浴場があるって聞いてたからそれほど珍しいものだとは思わなかったわ。
「王都には公衆浴場があるって聞いたことがあるのですが?」
「そうね。あれは十年前くらいに、疫病が流行した時に国が作ったものです。王都の各地にありますし、王都市民には無料券も配られています。それで少しずつ浸透していってますが、地方から来られる方はあまり風呂の入る習慣がないので嫌がられる方もいるんですよ。煮物の具になったような気がするとか言ってますね」
「ぷっ!」
思わず吹き出してしまった。煮物の具かぁ。そういえば、私が風呂風呂言ってたからか、ヴァンが王都にきてしばらく経った頃、公衆浴場でお風呂に入ったんだけど、その時の感想がそれだった。
確かに風呂の習慣がないとそういうふうな気がするのかもしれない。
それにしてもこの世界のお風呂が、蒸し風呂でなくて良かったよ。やっぱりお風呂は湯船がないとね。
一通り説明してくれて、寮監さんは去っていった。
夕飯までしばらくある。疲れた私はベッドにダイブした。
「疲れた……」




