文化祭と告白/三年生九月
「ずっと好きでした、付き合って下さい!!」
右手を差し出して頭を下げた、その手を。
「……はい、よろしくお願いします」
はにかむような答えと共に握り返した仕草に。
体育館に満ちていた熱気が歓声と共に爆発した。
***
「わ~、わぁー、わー!!」
「桃香、ちょっと痛い」
腰掛けているパイプ椅子が軽く浮くくらい桃香側の腕と肩を握って揺すられて、苦笑いしながら軽く抗議をする。
学園祭のステージ上で、軽音部のバンドのヴォーカルが敢行したそんな告白。
「ヒュー」
「やるじゃん」
「いいぞ、宮岸~!!」
このクラスの男子の勇気ある行いに、当然のことだが隼人たちのクラス、特に男子が一番湧いている訳だが。
「ドキドキしちゃった」
俺の肩はメキメキしたけどな、なんて思う隼人。
こういう方面では乙女度高めな桃香もかなり相当、興奮していた。
薄暗い体育館で、ステージから届く光源にだけ照らされている桃香の表情には隼人としても軽く高鳴りを感じている訳だけれど。
「漫画か、映画みたい」
両手の指同士をキュッと組んで、呟く。
本当に映画館だったら、隼人の手を捕まえに来ていた筈で……それが来ないことは、ちょっとだけ寂しい。
「なーに言ってんの」
「ずっと初恋の相手を待っているのだって、相当ドラマチックだと思うけど?」
後ろに座っていた美春が桃香の隼人とは反対側の肩に顎を置き、その向こうで狭そうにしながらも花梨が呟いて小首を傾げる。
「そ、そ……かな?」
「そうよ、間違いなく」
「ねぇ?」
「……」
美春の言葉の矛先が飛んでくるが、ノーコメントを貫くほかに手はない。
「もしかして、羨ましかったりする~?」
「えへへ……ないしょ」
「んなワケ」「無いよねぇ」「必要もねぇしな」という勝利と友也、他クラス男子の呟きと共に、隼人の座っているパイプ椅子が軽く蹴られる。
「でも、好きな気持ちが叶うのって……素敵だよね」
「……ん」
桃香にだけわかるように小さく目線で肯定する。
そして、そんな桃香の台詞にクラスメイト達が隼人たちを見て「確かに」と三々五々大いに頷くのだった。
***
「桃香」
「わ……」
そんな出来事の後、何処か熱に浮かされたような空気の中、片付けと打ち上げを済ませて帰宅して。
いつもより少し遅い時間、寝る前の言葉を交わすタイミングになって。
いつものように飛び込んできた柔らかな身体をしっかりと抱き締めて、甘える仕草を存分にした桃香が顔を離す頃合いを見計らって。
桃香の両肩をそっと回して、背中側から抱き締める。
「どしたの? はやくん」
「ん」
回した腕に、そっと手を確かめるように重ねられながら聞かれて。
軽く息を吸って、目を閉じてから。
「……ずっと好きだった」
「わ」
「勿論今も……これから、も」
耳元、より気持ち上に。
髪に鼻先を埋めながらそう囁いて、壊れないようにもう少し強く抱き締める。
「……えへ」
羽毛か毛布みたいな溜息の後。
「はやくん」
腕を少し緩めるように、と突かれて。
それに従うとまた元の向きに直った桃香の瞳に促される……素直に従い軽く屈むと、背伸びした桃香に唇を啄まれて。
「わたしもすき」
「ん」
「ずーっと、大好き」
敵わないな、と思いつつも素直な感想を口にする。
「……ありがとうな」
「えへへー」
また、定位置同士になりながら。
「今日、あんなことあったから?」
「……まあ、うん」
少しだけ情熱を口にしたなら喜んでもらえるか、そう思って。
「頑張ってくれて、うれしい」
「なら、よかった」
桃香ならそう言ってくれるとわかってはいたけれど、それでも安堵の息を吐きながら。
「桃香が嬉しそうだと、俺も嬉しい」
「そしたらね」
「うん」
「わたしも、もっとうれしくって……もっと好きになっちゃう」
ぐりぐりと額を擦り付けて。
「やっぱりはやくんは」
「ん」
「すてきな彼氏さんだね」
そんな言葉に引き金を引かれて。
体育館では出来なかったこと、二人きりじゃないと言えない言葉を、更に重ねてしまう少し涼しくなり始めた季節の夜。




