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二度あることは/三年生一〇月

「え? 綾瀬さん借り物競争じゃないんですか?」

「うん、そうなんだよね」

 教室移動で偶然行き会った桃香と由香子が話している様を後ろから見ながら。

「……残念です」

 残念、って一体どういう意味だろう? そう思うが。

「だよね」

「桃香が吉野君引っ張ってくの、この際だから三年連続見たかったよねー」

 琴美と絵里奈が見事に言語化してくれる、し由香子もそれです、と頷いていた。

 そんな風物詩のように扱わないで欲しい、とは素直な隼人の心境である。

「アレよね、その直前の席替えで吉野君を隣に繋ぎ止めていたからそこでパワー使い切ったのよね」

「桃香がくじを引き損ねるから、こうじゃない」

 琴美が窓に打ち付けている土砂降りを見ながら肩を竦める。

 確かに、隼人でも桃香が籤を外したのを見るのは随分と記憶を遡る必要がある。

 ともあれ、それが文化祭も終わり体育祭へと流れていく季節の出来事だった。




 ***




「宮岸、ダメみたいぞ」

「何っ!?」

 そして体育祭当日。

 登校時に駅の階段で転んだというクラスメイトの容体が伝わり待機席が騒めく。

「捻挫でちょっと走れないみたいだ」

「ありゃ」

「ま、別に良いんじゃね?」

「何で?」

「アイツの彼女、保健委員だし」

「「「あー……」」」

 じゃあお幸せに。

 そんな一頻りを終えた後。

「確か、あいつの出場競技って」

「借り物競争」

「誰か代走、代走」

 視線が錯綜した後。

「吉野じゃね?」

「せやな」

「それがいいだろ」

「……」

 予感はしたが、隼人に視線が集中する。

 何故なら。文化祭での出来事に触発されたのかは知らないが、借り物を指定する紙の中にとあるものが書かれたのが入れられているとの噂がまことしやかに囁かれているからである。

「吉野君、一応クラス対抗リレーだけど?」

「別に隼人なら一本余計に走るくらい余裕じゃないかな?」

「持久走陸上部に混ざってトップ争いする奴だぜ?」

「それもそうね」

 一応問題提起をしてくれた花梨もあっさり友也と勝利の声に頷く。

 桃香が笑顔と全身のアクションで応援してくれるから頑張って走っていたのが完璧に裏目に出た。

「それに、隼人が一番ダメージ少ないって言うかノープロブレムでしょ」

「むしろ日頃散々見せつけてるくらいだしな」

「……いや、それは」

 結果としてそうかもしれないけれど、けど。

 抵抗の構えを取ろうとしたところで。

「吉野君吉野君」

「うん?」

「あれ見て」

 美春に背中をつつかれる。

「……見るまでもないんですが」

 期待に満ち溢れたオーラが、女子席の方から漂ってくる。

 背中に注がれる熱い視線。

「じゃあいいじゃねぇか」

「頑張んなよ、カレシ」

「…………」

 隼人に出来ることといえば、首を縦に振ることのみ。




 通り掛かった蓮に「え? やっぱ出んの? マジで?」と爆笑されてから待機列に着き、三年生の順番が来る。

 なお、後輩たちの順番の中では例の紙はまだ出ていない模様で……確率は、上がる。

 そんなことを考えながらスタートラインに向かいつつクラスの方を見ると、どうぞどうぞと言わんばかりに一番前に押し出された桃香が元気に手を振っていた。

 借り物候補、というよりかは景品扱い。

「吉野ぉ」

「うん」

「頼むから地雷、処理してくれな」

「ははは……」

 去年クラスメイトだった男子からそんな声を掛けられつつ、スタートの合図で一気に駆け出す。

 そこに手抜きは出来ない性格から真っ先に紙を手に取り開いて。

「……」

「!」

 目線を向け、自分のクラスの待機席目掛けてダッシュする。

「桃香!」

「うんっ!」

 更に一層笑顔になって脛くらいの高さのロープを飛び越えて来た桃香の手を、必要はないけれどもう考える前に取ってしまい……そうしたならすぐさま握り返されて。

 離すなんて考えられなくなって。

「来て欲しい」

「もちろん」

 言い終わる前に並んで駆け出す。

 歓声が上がる中、グラウンドを突っ切りトップでテープを切った。




***




「結局」

「うん」

「流石に駄目だろう、ということで直前で却下されたらしいな」

「そうみたいだね」

 街路樹の帰り道。

 頷いた後、テンポと歩幅を上げて桃香が前に出てターンをする。

 隼人のお題だった、長い髪がふわりと舞う。

「ちょっと、残念」

「……それは、俺にはどうしようもないし」

「でも、はやくんと一緒に走れてうれしかった」

 それは俺が選択しました、と心の内で手を上げる。

「ね、はやくん」

「ん?」

「もしもそっちだったら」

 どうしたの? と尋ねる瞳に。

「勿論それは桃香だろ」

「そなの?」

「それ以外有り得ないだろ」

「えへへー……」

 タイ記録で今日一番眩しい笑顔の後。

 定位置に戻って、また手を握られる。

「はやくん」

「ん」

「もう一回、走ろっか」

「わかった」

 日中のそれより少し控えめなスピードで。

「楽しいね」

 その分の余裕全部で、心のメモリーに焼き付けた。




 実質、引いたようなもの。




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