強と弱/三年生八月
「はやくん」
ふと思うこと。
夏休み中も学校に行っているときもあんまり一緒に居る時間の総数は変わらないな、ってこと。
是非はまあちょっと横に置いておいて、それはとても嬉しいこと。
お日様みたいな笑顔が襖を引いて顔を覗かせる……いや、むしろ最近頑張り過ぎな太陽にはこのほわっとした恋人のことを見習ってほしい。
「暑かっただろ」
「あ、ありがと」
花火柄の団扇を引き寄せて桃香の顔に風を流せば心地よさそうに目を細める。
「えへ……」
無防備に風を甘受する様に、それが嬉しくて手を動かす。
「はやくん」
「ん?」
「あんまり優しいと、溶けちゃうかも」
少なくとも表情はそうだぞ、と思いながら顔を二度抑えたタオルハンカチのクリームソーダのワンポイントに今度一緒に食べに行くか、とか考える。
「……なら、冷たくした方が良いのか?」
「やーだ」
笑顔で首を横に振った後。
内緒話の声量で、ちょっと挑戦的な顔になって。
「はやくん、できるの?」
「ごめん、無理だ」
即座に一度。
「桃香にだけは、無理だ」
「えへへ」
空いている手で、桃香の指先に触れながらもう一度。
そうしたら。
「知ってた、よ」
再び顔を蕩けさせて。
捕まえて握り返された。
「はやくん」
「ん?」
「もうそろそろ、だいじょうぶだよ?」
「なのか?」
確かに落ち着いてきた感じはあるものの、まだまだ風を心地よさそうに受ける表情に迷う。
「もー」
結局手を止められずにいると、さっきのまま触れている団扇と反対側の手を握り直される。
「?」
「かちっ」
そして、妙な擬音で蛇口のように捻られる。
「……」
「もー」
一拍置いて、意図を理解して……ただ、桃香にだけしてしまう天邪鬼で腕の上下運動のパワーを上げる。
「反対だった?」
「かもな」
「……かちかちっ」
可笑しそうに笑ってから、桃香が逆に二度。
「故障中です」
「えー」
それでも止めずに、止められずにいると。
「はやくん」
「ん?」
「そろそろ、ぎゅー、してほしいんだけどな」
「……」
甘える表情で両手を広げながら囁かれて、一発で団扇を置く羽目になる。
「ちなみにね」
「ん?」
「こっちは、ちょっと強めにお願いします」
その言葉には、自分でも呆れるくらい非常に素直に従った。




