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アンブレラマーカー/三年生七月

「はーやーくん」

「ん」

 ひょっこり、と店舗部分の扉を引いて桃香が顔を覗かせる。

「店番、おつかれさま」

「ああ」

 父が地方に出張で出ている中、母が買い物で出ている間、一応店内に居て文庫本を開いていただけだけれど、そう言って貰えるのはまあ嬉しかったりする。

 そんな中。

「母さんもう少しで戻って来るけど」

 何をしに来たのかは(そうでなくてもいつも一緒に居たがるのは置いておいて)わからないけれど、完璧な二人きりにもあんまりなれないぞ、と説明する。

「うん、だいじょうぶだよ」

 何だかよくわからないが確かに大丈夫そうな笑顔を浮かべてから。

「今はちょっとだけ、だから」

「?」

 小振りのレターパックをスカートのポケットから取り出して揺らして見せて来た。




「えへ」

 下校の通学路、午後から降り出した雨と一昨年から二人して愛用している傘の下で。

 新たに持ち手に嵌められたアンブレラマーカーの小さな星の飾りを突いて桃香が満足そうな声を漏らす。

「見つけやすくなったでしょ?」

「まあ、それは」

 男物の黒や紺、青系統及び変哲の無いビニール傘の白というの色合いの中で黄色いそれは存在意義を存分に発揮して見せてくれた。

 その十本近くの中から迷わず自分のものを手に取っている隼人に隣居たクラスメイトが「成程」という表情をしていたのもよくわかる。

 ……その後飾りのモチーフと隼人の顔を見てもう一度「成程」と心底納得するように言われたのはあまり気にしないことにしておく。

 そこまで直球ではないものの、誰が選んだかは丸わかりな物だとは隼人も思うので。

 ただまあ、素朴な疑問としては。

「このマーカー」

「うん」

「……桃には、しなかったんだな」

 直球の中の直球は投げ込まれなかったな、と。

「実際桃はなかったから、作ろっかな、ってちょっと思ったんだけど」

「ああ……」

 考えはしたのか、と口の中で呟く。

 どちらかというとその方が腑に落ちる展開だった。

「桃色じゃ黄色ほど目立たないし」

「確かに」

「それに、さすがにはやくんの傘にピンクはちょっとかわいすぎるかも、って」

「だな」

 その配慮はして貰えて助かる、と共に。

 そうじゃなかったらそのまんまなのにしたのか、とも思う……可能性は否定できない。

「あ、もちろん、はやくんの使っているものがちょっとかわいいのはとってもいいかも、だよ?」

「なのか」

「うんっ」

 趣味というか感性の問題なので異議は唱えないでおく、充分受け入れる範囲だし、桃香が嬉しそうな方が優先。

 そんなご機嫌な返事で頷くと同時に力強く、ぐっと胸元で握られた桃香の手が。

「あ、ごめんね」

「全然平気だけど」

 隼人の傘を持っていた手に甲同士で軽く接触する。

「……」

「どうした?」

 そんな手同士を見比べて。

「ちょっとだけ、失礼しまーす」

「ん」

 人差し指を立てて、空中に一つ円をくるりと描いてから、隼人の手首に内側から腕を組む様に軽く引っ掛けられる。

「どうしたんだ、これ?」

「えへ」

 理解しているものの尋ねる隼人に、冬なら白い綿菓子を作れそうな息を吐いてから。

「わたしの素敵な彼氏さんです、ってわかりやすくしてみました」

「……元々相当そう見えると思うけどな」

 雨が降れば、こうやって登下校をしているあたりとか。

 偶々傘を忘れた幼馴染を助けている頻度では到底ないあたりとか。

 それは時に今更とか言われることだけれど。

「ダブルチェックは大事だよ?」

「そんなもんか?」

「うん! それにね」

 軽く、桃香の頭が肩と二の腕の境に当たる。

「何回だって、そう言えちゃうのはうれしいから」

「……ん」

「だから、たくさん主張しちゃうのかも」

 ねー? という声に小さな星が弾んで揺れた。





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