自己紹介(?)/三年生四月+α
「……?」
「どうしたの?」
桃香の家の玄関から教室の扉まで。
いつも通り一メートル以上離れることなく到着すると、二名ほどの女子が嘆き悲しみそれを三名くらいで慰めている様が嫌でも目に入り二人で首を傾げる。
「綾瀬さんに吉野君おはよ、ほら」
そこに他の女子グループが苦笑いしながら伝えてくれたあらましは、隼人も朝食の場で点けっぱなしだったテレビで何となく聞いていた人気スポーツ選手の結婚。
「あの子たち、スタジアムで出待ちするくらいガチだったから」
「そうなんだね」
桃香の相槌の後、件の生徒の一人が雄叫びを上げる。
「小学校からの幼馴染って……どうしろっていうのよー!!」
いや、どうにもならないだろう……と内心で思っていると、あらましを教えてくれた女子が盛り上がっている彼女たちには聞こえないように手で隠しつつ。
「綾瀬さんと吉野君も、そうなんだよね?」
「まあ……」
隼人としては間違いはないので軽く頷く、が。
「えっと、ね」
微笑みながら桃香が口を開く。
あ、と思った時にはもう遅い。
「一応そうなんだけど、誕生日もおんなじだし、家も近いから、生まれた時から……かな?」
「わ」
「そうなんだ」
別に言わなくてもいいだろ、と内心で頭を抱えつつ隼人も解っている、桃香としては問われたなら絶対に譲れないポイントなのだと。
そこを誰と張り合っているんだ、とも思うけど。
「そりゃ、吉野も好かれるよなー」
「ラッキーな奴」
そこに近くの席で居合わせた男子たちからのそんな声が掛かる。
あ、と思った時には再びもう遅い。
「それも間違いじゃないけど」
そちらを向いて、さっきまでよりもっと笑顔を濃くして。
「大きくなって、はやくんの素敵なところはもっと増えてるから、わたしはそれだけじゃないよ?」
「……桃香」
「はやくんだって、それを大事にしてくれてるでしょ?」
「…………ああ」
それは大切にしているし間違いじゃないし、それで若干桃香に面倒を掛けた自覚もあるので窘めることも出来ず頷くことしかできない。
同様にその男子たちも「そうなんすね」と異論御座いませんという感じに首を縦に振り、そして女子たちは。
「聞いてた以上にラヴラヴなのねー」
何だよ、聞いてたの……って言いたくもなるが、心当たりは幾つかある。
幾つも、ある。
「もっと教えてよ~」
「え、えっと……どうしよ、かな」
「今度のお休み、遊びに行かない? あ、デートとかの予定なかったら、だけど」
「いっそのこと、吉野君同伴でもいいよー」
良い訳あるか、と額を抑えていると。
「相変わらず、ね?」
静かに教室に入って来ていた花梨の呟きが耳に入る。
「いや、これは桃香が……」
「あの子がそうなるくらい愛でて甘やかしてるの、どなたかしらね?」
「……」
「私としては親友が幸せそうで何よりだけど」
そこで予鈴が鳴り、どのグループも解散し席に向かう。
その後で。
「……」
「……」
「「「……」」」
窓際一番前の桃香が軽く後ろを向き、廊下側一番後ろの隼人に向けて笑顔で手を振る。
そんな、二度目の自己紹介をした四月のとある日の出来事。




