Call/三年生五月
「!」
ドアノブとラッチの音に反射的に顔を上げる。
こちらの純和風の部屋は襖なのでその音はお向かいの部屋のものになる……夕方より少し前の商店街に偶然下りた静けさの中で空けた窓同士から偶に届くことがある。
考える前に向けた視線の向こうでお手伝い上がりの恰好をした桃香がそれに気づいたか、それともそうなるのを知っていたのかあちらも窓際に寄って手を振ってくれる。
そうした後、振っていた手と反対側に持っていたものから全く同じ形状のものを抜いて両手にそれぞれ持って軽く揺らす。
自宅の青果店でカットしたものなんかを試食用に出す時に使っているものの半端分、だろうか。
水色とピンク色の紙コップだった。
「?」
それを手品師のように示してから順番に窓際に置いて、今度は勉強机の引き出しの音をさせて千枚通しを持ってくる。
ちょっと前に流行った動画のように大袈裟に示しながら二つの紙コップの底を貫通させてから、また窓際に置いて得物の方を仕舞ってくる。
そうしてからデニム生地のスカートのポケットからこれも店舗の備品の半端分と思しき束ねられた紐を取り出して、また妙なジェスチャーを交えつつ底に空けた穴に通して結び目を作る。
それから紐を引いて結び目をそこに密着させた後、抜けないことを確認して……窓際で立ち上がり水色の方を手に持ってピッチャーよろしく振り被る。
「……」
果たして。
それじゃダメだろうの予想通り空気抵抗に阻まれたコップは二人の部屋の中間点で停止した後、結ばれた紐に従って振り子のように曲がって桃香の家の外壁に乾いた音を立てる。
やっちゃった、の顔をした後。するすると紐を引いて回収したコップを再度振り被る桃香に手の平を出して一旦それを制する。
胸から上を窓から出して腕を伸ばしつつ、下手投げでコップの底を向けながら投げるようにジェスチャーで伝える。
「!」
指で丸を作った桃香がそれに従って再度紙コップを放るも、隼人の指先に軽く当たって空中を舞い、再度家の外壁に軽く衝突した。
また紐を手繰って回収した桃香が一旦コップを置くと、右肩をぐるぐると回して気合を入れるポーズをした後、再度モーションに入る。
果たして。
「♪」
今度もギリギリの飛距離だったものの、上手いこと曲げた薬指に引っ掛けて水色のコップが隼人の手に渡る。
用途は言わずもがな、だけれどそれを耳に当てるように指示してくる桃香の様を楽しんでから素直に耳に当てるとにっこりと笑った桃香がピンク色のコップに口を寄せて。
「はやくん」
「ん」
「今からそっち、行くね」




