表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者の兄から魔王の配下へ  作者: みなみ 陽
第十六章 とリカごカら飛ビ出シて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

241/244

なンでモすル

 歪みを抜けると、巽はその場で足を止めた。

 目の前に広がる空間を見て、驚愕の表情を浮かべている。外から見た時は、ただ暗く淀んだ空間にしか見えないため無理もない。


「おい、何してたんだ。さっさとついてこいよ。姉貴が死ぬぞ」


 オースは、呆れたように舌打ちした。


「す、すみません。少し戸惑ってしまって……あの、この場所は」

「あぁ? ここに来たことねぇのか? 魔物になったのに」

「寝て目が覚めたら、全て終わっていて。この場所に来た記憶はないんです」

「ふーん。ここは、お前を改造した奴の部屋だ。じきに現れるはずだ。あいつは敏感な奴だ」

「じきに、って。そんな……もう美月は……」


 腕に抱えた美月を見て、巽の顔に焦りが浮かぶ。人間にとっては一分一秒が惜しい状況なのだ。待たされる時間など、受け入れられるはずもない。


「ほら、もう来る」


 気配を感じ、視線を向けると、鬼のような形相で佇むテウメがいた。


「勝手に人を招待するとは……どういうつもりですか?」

「緊急なんだよ。見てみろよ。人が死にかけてる」


 死にかけた美月を見て、テウメは僅かに首を傾げた。慈愛を装う気配すらない。冷たい瞳だった。


「……だから? それって、私に関係ありますか。彼のことは知っていますよ。宝生 巽さんですね。リュウホウさんに頼まれ、魔物細胞を移植しました。それだけのことです。それ以降のことは、リュウホウさんにお任せしています」


 吐き捨てるように、テウメは言った。


「冷たい奴だ。魔物細胞の移植って、中々成功しないんじゃねぇの? こいつは五体満足じゃん」


 今は亡き友、レイナルの言葉を思い出す。魔物細胞に耐えられず、右腕が壊死してしまったと言っていた。彼は、そのような事態には陥っていない。


「何故、適合できたのか謎なくらいですよ。未だに能力も開花しませんし。そんな彼と、死にかけの彼女は何の関係が?」


 彼女にとっては、巽は失敗作だった。リュウホウの管轄であり、面倒を見る義理はないと考えていた。


「こいつの姉貴なんだよ。こいつが腕を切り落としてよ。魔術でくっつけるだけくっつけたんだが、血は元に戻らなくてよ。そこで、だ。こいつに魔物細胞を移植してやってくれ」

「お願い致します。お手を煩わせてしまうのは重々承知しております。しかし、姉さんがいなくなるのは……耐えられません」

「自分でしておいて? しかも、お姉さん? いよいよ私には関係ないじゃないですか。ちょっと意味がわかりません。煩わせるとわかっているのなら、諦めることです。それでは」


 呆れた様子の彼女は、そう言って話を終わらせようとする。


(テウメの言うことは最もだよな。殺しかけておいて、死なないようにしてくれなんて。だが、美月がいなくなるのはマズい。武蔵国が機能しなくなる。そうなれば、リュウホウに何を言われるか……)


「姉貴は、もっと上手くいくかもよ?」

「は? 唐突に何ですか」

「一応、こいつは適合した人間だろ? 適合すること自体、珍しいんだろ。今までにない例じゃないか。適合者の近親者、それも姉弟だ。興味ねぇか? 近親者にも適合者が出るのかどうか」


 テウメは、ぴくりと耳を動かした。どうやら、研究者としての性をくすぐられたらしい。


「こいつの姉貴は、こいつとは違ってメンタルも強い……意外と使えるかもよ」

「面白いことを言うようになりましたね。これも社会経験というものでしょうか。いいでしょう、彼女に移植手術をして差し上げます。ですが、対価は必要です。さて、貴方は何をしてくれるのですか?」


(まぁ、そうだろうな。ただ、今のこいつにまともなことが言えるかどうか……)


「えっと、えっと……その……何でも……します」


 対価を要求された巽は、簡潔だが危険な答えを口にした。そこに、王の風格はない。


「何でも? 何でも、ですか。それは悪くありませんね」


 テウメは笑みを浮かべて、小さく頷く。


「ならば、この移植手術が終わったら、貴方のやることは1つ。戦火を、他国へ振りまくことです」


 淡々とした声だった。


「人間は一枚岩ではありません。ですが、魔王軍という共通の敵を前に、ある程度の結束を保っている。非常に厄介です。ですから、人間達が持つ戦力を――なるべく分断したい。できますね?」

「……はい」


 断ることはできない。大切な姉の命が懸かっているのだから。

 これまで武蔵国が平穏でいられたのは、魔王軍と手を組みながらも、他国へ攻撃してこなかったからだ。

 だが、もし手を出せば、その瞬間に均衡は崩れる。武蔵国は、戦場に変わる。


「それなら、ちゃんと精度のいい魔物を寄越せよ。じゃないと、分が悪い。戦火を撒き散らす前に、制圧される。混沌をもたらしたいなら、それなりに協力して貰わねぇと」


 このままだと、現状の戦力で全世界を相手取って戦わなければならなくなる気がした。テウメは卑怯だ。言質を取っておくことの重要性を、よく理解している。


「わかっていますよ。一国で大国を相手にするのは大変なことです。協力は惜しみません」


(問題はまだあるが……これ以上は難しいな。あまり言い過ぎると、白紙になるかもしれねぇ。後は、俺と……リュウホウに頼るか)


「ついてきなさい。魔物細胞を移植します」


 テウメが歪みを生じさせ、新たな空間へと導く。そこは、大量の電子機器が置かれた薄暗い彼女の研究部屋であった。


「この台の上に乗せなさい」


 指し示された台は、これまでに何人もの人間が乗せられてきたものだった。横たわれば冷たく、鉄製の拘束具が容赦なく身体を縛りつける。


「早くしなさい。流石の魔物細胞であっても、確実に死を迎えた者は手遅れになりますよ」


 そう促された巽は慌てて、美月を台に乗せた。それとほぼ同時に、拘束具が彼女の全身を縛りつけた。


「美月……!」


 そこに、人間へのリスペクトはない。驚いた巽は、反射的に手を伸ばそうとする。それを、テウメが止める。


「触ってはいけません! 今、お姉様の情報を収集中です。触れると、情報が乱れます」

「す、すみま――」


 頭を下げようとする彼を、テウメは突然抱きしめる。


「……貴方は、お姉様を生かすために頑張ったんですね」


 巽は、突然のことに呆然としていた。魔物とテウメの繋がりは、切っても切れない。触れられるだけで、その母性に身を委ねたくなる。思考も、意識も、テウメに塗り替えられていくような感覚に陥る。


「彼女は、人より少々丈夫なようですね。しかし、人間に必要な血液を失って生命活動は維持できません。貴方が、この瞬間まで頑張らなければ……手遅れだったでしょう」

「何の話をしてんだ?」

「気付きませんでしたか? 彼は、ずっとお姉様のために生命力を注ぎ続けていたんです。しかしながら、例えるなら彼女はぽっかり穴ができているような状態。その穴は、時間が経てば経つほど広がっていく。よく頑張りましたね」

「だって……僕が……僕のせいだから……うぅ、うぅぅ!」


 巽もまた、縋るように抱擁を返した。とても大人とは思えない。まるで幼児に退行したかのようだ。


「大丈夫。私が助けてあげます。ですから……私の思いに応えて下さい。せめて、何か能力を開花させて欲しい所です。貴方ならできるはずですよ。私のためを想って、頑張ってみて下さい」


(見るに堪えないな……)


 オースがわざとらしく咳払いをすると、テウメ達はゆっくりと離れた。


「さて、これから始めますので2人は出て行って下さい」

「え~いいじゃん、いても」

「長時間に及びますし、色々と繊細なんですよ」

「……わかりました。美月をお願いします」


 元の世界へと繋がる歪みが開く。巽は深く頭を下げ、そのまま歪みの中へと消えていった。


「ふん」


 素直に従ったわけではない、というように振る舞いながら、オースもその後に続くのだった。

次回更新は4月12日です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ