返却
「……まさか、返ってくるとは」
翌日。もう一度白雪は、俺の部屋へと来ていた。
「流石に、全額使うほど厚顔無恥じゃないわよ」
ん? 『全額使うほど』ということは……
小袋を白雪から受け取ると、やはり重さに以前とは違う違和感を覚える。
「……使ったのかよ」
「……少しだけよ」
「ま、元々返ってこないと思ってたし、いいんだが」
やっぱり、いつも通りではないか。
……そりゃそうか。逆に元気いっぱいだったら、こいつのメンタルが怖い。
「何に使ったんだ?」
「言うわけないでしょ」
「なんで言うわけないんだよ。元は俺の金だぞ」
「その時は私の物だったから、何に使うかは私の自由でしょ」
「確かにそうだな」
いや~。生活費が戻ってきて良かった。
……本音を言うと、不安だったんだよな。
「……それじゃあ、帰るから」
「ああ」
そのまま、白雪は俺に背を向け、ドアの前へ行く。
だが、ドアノブに手をかける前に……
「帰してくれるんだ」
「まぁな。帰さないほどクズじゃない」
「……そう」
白雪はドアを開け……
「……ありがと」
そう言い残し、この場をあとにする。
これで良かったと思う。
あいつなら、いつか自分の力で立ち上がれる。
――それに、他人の人生を背負うほど、俺には余裕がない。
***
「断られた、ということですね」
「まぁ、言われたわけじゃないが、そうだろうな」
「止めなかったんだね」
「ああ」
あれから数日後、俺たち三人に白雪の話題が浮上する。
「意外ですね。女性ならば見境なく、無理やりにでも入れると思っていたのですが」
「それはイマジナリーフレンドのことだよな? だって、俺に何一つ当てはまらないし」
「一応言っておきますが、あなたは初対面の私にパーティーを組む提案をしてきたのですよ」
「その時は……余裕がなかったんだよ」
「それじゃあ、今は余裕がある、ということだね」
「まあ、そうだな」
あの頃の俺は……いや、やめよう。きっと、思い浮かぶのは、どれも俺が傷つく場面だ。
……うっ! 最悪だ、思い出してしまった。
どうにかして、紛らわそう。
「そういえば、もうすぐで『青龍の塔』も最上階だな」
最上階が九十九階層なのに対し、現在が八十三階層。
ここまで約一年。異例のスピードで俺たちは塔を登っていた。
……まぁ、普通ならば、寄り道をするのにも関わらず、俺のわがままで何もせずに来たのが理由だが。
一応言うが、ブラック企業じゃないぞ。休みは定期的にくれてやってるからな。
「そうですね。意外とあっという間でした」
「聞きたかったんだけど、最上階に到達したら、その後はどうするの? パーティーの解散とかしないよね?」
二人は俺を同時に見る。
どうやら、俺の意見が尊重されるようだ。
「その時次第って感じだな。正直言って、まだ想像できない。けど、最上階に到達した後の目標があるから、もしかしたら俺は一時的に抜けるかもな」
偽りの空の降下を止める。塔の攻略はこの目標へ通ずるルートでしかない。まぁ、攻略したところで、何一つ情報が得られないという場合もあるが。
……いや、やめよう。最上階に何かしらがある。今はそう考えるべきだ。
……それくらいしか、俺にはできないのだから。
「私はお二人に合わせます。けど、どちらかと言うと、このパーティーは続けたいです」
「僕も同意見だね。もしよかったらなんだけどさ、『四柱』の全てを攻略してみない?」
四柱の内の一つを攻略した、というパーティーは意外といるらしい。だが、全てを攻略したパーティーは存在しないと聞く。
難易度は変わらないと言われているのだが、なぜか存在しない。それに、一つの塔を攻略したパーティーが別の塔で壊滅したという噂も聞いたことがある。
これは油断が理由か、あるいは何かしらのギミックがあるのか。
「私は賛成ですが、空賀さんは?」
「……考えておく」
申し訳ないが、ここでは濁らせておく。
俺は四柱を巡ることよりも、降下を止めることを優先しなくてはならない。
「そういえば、空賀さんの目標って、何ですか?」
「達成したら、身の上話として話すさ。それまで待ってろ」
この目標を達成し、笑い話として話す。そんな未来が来ることを、この場では祈ろう。
――そんな未来を実現するためにも、頑張らないとな。




