閉ざされた村の誘拐事件
「つまりは、誘拐犯がここにいるから、何とかしてほしい、ということですか……」
「それもですが、どちらかと言うと、救出を優先してほしいのですが……できますか?」
「ま、できるんじゃないですか? 自分はそれなりに強いので」
今回の俺への依頼は誘拐犯探しと被害者の救出。
暇だったから受けた依頼だが、今回も長くなりそうだ。
ここは首都から離れた小さな村。
冒険者をするとなると、不便だ。そのため、戦闘面に自信のある者たちはここを出ていってしまう。
そのせいで、今回の事件に対応ができないらしい。
――そこで、俺が来たというわけだ。
どうせ、お山の大将に決まってる。戦闘面では何の問題もないだろう。だが、相手は人間。誘拐犯の捜索がメインになりそうだ。
「それで、伝えておきたい情報とかはありますか?」
「……連れ去られた全員が女性ということくらいです」
「……女性か」
これは誘拐犯の思惑か、はたまたスキルの条件かはわからない。
……この情報の有効活用は難しいか。
「ちなみに、何人ほどが誘拐されたんですか?」
「大体、十名ほど……」
「どれくらいのスパンで?」
「……不定期でした。ただ、この十名はここ一ヶ月で攫われてしまい……」
「意外と現れたのは最近なんですね」
「……はい」
一ヶ月で十人。……かなりの手練れと考えるべきか。
俺は探偵じゃないし、そういったことはまだ未経験。
――大丈夫だろうか……。
「一応聞きますが、あなたが村長ですよね?」
「……はい。私はこの村の村長をしております」
やっぱりな。
杖で体を支え、長く白い髭を生やしている。そして頭はつるっパゲ。
……コテコテだ。それもすごく。
「じゃあ、この村の住人のことをよく知っていますよね。そんなあなたに聞きますが、この村に誘拐犯が居ると思いますか?」
「はい。私は居ると考えております」
村長は迷いなく、そう答える。
ということは……
「容疑者の目星はついているようですね」
「はい。……ただ、複数人おります」
「……複数人ですか……まぁ、何とかしますよ」
――さて、探偵ごっこを始めてみるか。
***
容疑者はいるようだが、まずは被害者のご家族の話を聞いてきた。
なんていうか……家族依存……なのかな? 気迫がとんでもなかったよ。
ただ、いい情報も手に入った。
被害者のご家族には必ずこのような手紙が届いたそうだ。
『誘拐されましたが、彼がいるので私は大丈夫です。心配しないでください』
文は異なるが、同じ内容のものが各家庭に届いたそうだ。
――それも、被害者本人の筆跡で。
これは、『脅されて書かされた』、『スキルで誘拐犯が被害者を操り、書かせた』、『スキルで誘拐犯が被害者の筆跡を真似た』のどれかだろう。
――ただ、筆跡には一切の揺れがなかった。
それを踏まえると、『脅されて書かされた』は難しいだろう。
誘拐犯のスキルは『操る』、『真似る』のどちらかの可能性が高い。
俺は次にこの村の外に出た人物を調べた。だが、ここ一ヶ月、そのような人物は現れていないらしい。
つまり、誘拐犯と被害者はこの村にいる可能性が非常に高い。
最後にこの村の建物を調べた。
十人も誘拐したため、拠点が必要になるはず。
――調べた結果、この村には十人を監禁できるほどの広さの建物は、住宅のみということがわかった。
だから俺は今、容疑者の自宅を回っている。
容疑者は全員男性。
そしてここは、容疑者1人目――平島豊成の自宅。
自宅は広く、十人を監禁することは可能だろうな。
村長からの情報によると、人間不信で引きこもりだそうだ。
そんな人間が俺を家に上がらせてくれるのだろうか。
いや、ネガティブなことを考えるのはやめよう。
……軽くノックをする。
数秒待ったが、反応なし。
もう少し、強く叩いてみる。
――また返答なし。
引き下がるのも選択肢に入れるべきか……。
その後も返答がなかったため、ここは戦略的撤退だな。
ま、他がものすごく怪しいかもしれないし、なんとかなるでしょ。
そう考えながら、敷地を出ようとすると……
――どこからか、視線を感じる。
背中に感じる視線は二階の窓から。
……なんか、すっごい怪しい。
けど、見てたから犯人、なんてのはただの決めつけ。だからここでは、怪しいで留めておくべきか。
俺は視線を返し、相手に気づかれていることを伝える。
そうすると、奴は身を隠す。
顔を詳しくは見られなかったが、輪郭と体格から男ということだけはわかった。
***
容疑者二人目――中川豊。
中川豊と娘の二人暮らしというのが、村長からの情報。住民からの情報によると、父親である中川豊の顔は最近見なくなり、逆に娘が外出するのをよく見かけるそうだ。
――たとえ、誘拐犯でなくとも裏はありそうだな。
自宅はあまり広くなく、十人を監禁するには難しいように見える。
俺は扉の前に立ち、軽くノックする。
すると、中にいた人物が、ドタバタと音を立てながら、こちらへ向かってくる。
足音が扉の向こう側で止まり、扉が少しだけ開く。
その隙間から、顔の右半分を突き出し俺を見る、小さな少女が現れる。
容疑者は父親。そのため、できれば中川豊本人が出てきてほしかったんだが……まぁいいか。
「えっと……お父さんは居るかな?」
「居ない」
「それじゃあ、どこに居るか知ってる?」
「……遠く」
遠く……この村から出た人間はいなかったはず。
つまりは、この子にとってはこの村はとても広い、中川豊がこの子にそう言った、この子が嘘をついている、のどれかだな。
「いつから?」
「……忘れた」
「寂しくはないの?」
「うん。村長さん、先生、近所の人たちが優しくしてくれるから、私は大丈夫」
「そっか。……一つ、お願いを聞いてもらってもいいかな?」
「なに?」
「家に上がらせてくれない?」
そう俺が言うと、バタンッ! と音を立てながら、勢いよく扉が閉まる。
この行動は俺を怪しいと感じたからなのか、はたまた別の理由があるからなのかはわからない。
ただ、開いた扉の隙間からの匂い。
あれはきっと……
――死臭。
ま、あれが死臭だという確信はないんだが。
これまた、怪しい止まりだな。




