死んだふりの勝利
「……まさか、漢方が役に立つなんて」
清姫との戦い、それをなんとか死んだふりで乗り切った。
その際、漢方の悪臭と血の匂いを混ぜ、死臭を作り上げ、成功率を上げることに成功。
相手の誤認を利用した作戦なんて、完全勝利とは程遠いぜ……。
清姫を殴った、右手の甲は重度の火傷を負った。
そこは、痛み……というか、感覚がない。
治癒魔術師にこの火傷を見せたら、治すのは困難だと言われた。
ただ、困難なだけで、治癒魔術を定期的に受ければ、跡すらも消えるらしい。
……その分、料金はかさむが。
いや、この際それには目をつぶろう。
これからも、今の仕事を続ける場合、感覚がなくなるのは、かなりまずい。
ちなみに、体の至る所にできた、火傷と脇腹の傷は治癒魔術であっさり治してもらった。
軽い火傷なら、簡単に治せることを知って、ホッとしたぜ。
きっと、今後も火傷を負う機会があると思うからな。
「……なんで俺にまで、ダメージがあるんだよ」
人差し指を立て、試しに清姫のアビリティを発動してみる。
すると、指先に微弱な小さな炎が灯される。
もちろん、もっと高火力で広範囲の炎を出すこともできる。
だが……
「……アッツ!!」
思わず手を振り払う。
指先は赤くなり、爪は黒く焦げていた。
「……俺の炎なのに」
ま、世の中そんなに甘くない、ということか。
***
「……なんでこんなこと、しなきゃならないんですか」
「文句言ってんじゃねぇよ。怪我人の俺までやってんだぞ」
「……空賀のせいで、この状況になったんだけどね」
「仕方ねぇだろ……」
――清姫との戦いから、数日後。
俺たちは草刈り(?)をしていた。
なんでこんな状況になったかって?
以前受けた依頼である、草刈り。
俺はこの手じゃ、行うことはできないと判断し、休みをくれるように、依頼主に言った。
まぁ、本音はただ休みたいからなんだけどね。
すると、なんて言われたと思う?
こう言われたんだよ……
「うるせぇクソガキ!! こっちは完遂をずっと待ってたんだよ!!
なのにタラタラやってるお前を、大目に見てきてやったんだよ!!
だからなぁ、お前も怪我くらい、大目に見ろや!!」
こう言われた瞬間、炎の試し撃ちに使おうか悩んだよ。
……まぁ、我慢したんだけど。
だって、ここまで頑張ったんだもん。
最初は野球場八個分くらいの、草木が広がっていたのが、今じゃ一軒家くらいだよ!!
……この六ヶ月間、よく頑張ったと思うよ。
「……こ、腰が痛い……」
「そうですね……中腰の姿勢はかなりきついです」
「おい! 手を動かせ! 今日中に終わらせなきゃ、依頼主が何をしでかすか、わかったもんじゃない」
「手伝ってもらっている立場で……」
「それは感謝している。それもすごく。でも、どうせお前ら暇だろ?」
――返答は無い。
図星だな。
「……わかりました。手伝います。でも代わりに全力で素早く終わらせてくださいね」
「任せてくれ。伊達に六ヶ月も通ってないぜ」
――その時、微かに焦げた匂いを俺の鼻が感じ取る。
***
「……君、そんな髪型だった?」
「……触れないでください」
俺の頭の左サイドは焦げ、歪な髪型へと変貌していた。
……アビリティの誤作動なんて、起きると思わないじゃん。
「じゃあこれ、報酬……」
――いちいち、髪を見るな。
依頼主から、小さな小包が手渡される。
金貨三枚……正直言って、上乗せして欲しかったが、まぁ、良しとしよう。
「それじゃあ、お疲れ様」
そう言って依頼主はこの場をあとにする。
……裏表激しいな。
「では、報酬を山分けしましょうか」
「なんでだよ! ほとんど俺の手柄だぞ!」
「手伝ったんだから、見返りを貰うのは当然ですよ」
「だとしても、山分けはおかしいだろうが」
「それじゃあ、ご飯奢ってよ」
そうか、もう夕方か。
まだ、この空に慣れないな。
「そうですね。そうしましょう。もちろん、お店はこちらが決めますよ」
「高い店を選ぶんじゃねぇぞ」
そのような会話をしながら、この場を後にする。
いずれ、世界の終わりが来るというのに、意外と楽しめるものだな。
俺は死にたくない。だから、戦う。
――そして、絶対に偽りの空を止めてやる。




