蛇の執着
20
「なんで死なねえんだよぉぉぉーー!!」
俺は走っていた。――奴から逃げるために。
本当に俺しか眼中にないな。
ずっと走らせるから、体力きついんだけど。
しかも、二人との距離がかなり開いた。
……なんで俺なんだ。
永久輝と海隅には一切、攻撃しない。それどころか、目線すら送った場面を見ていない。
――バチバチッ!!
後ろを見ると、口元に火花が見える。
「……くっ! 防御を……」
いや、これ以上は倒れる。
……だったら、こっちだ。
奴から炎が吐き出される。
――アッツイ!!
……けど、全然耐えられるぜ。
青銅の鐘、舐めんな。
「……ブッ!?」
俺の背中に、鐘が突然勢いよくぶつかってくる。
……マジかよ。鐘ごと突進してきやがった。
予測不能だったため、受け身に失敗し、無様に地面に叩きつけられる。
追撃が来ない内に、早く逃げろ。
案の定、追撃が飛んでくる。
また、突進。
それを間一髪で避け、走り出す。
――一瞬、俺の目に寺が映り込む。
……見覚えがあるんだよな。……あの寺。
――それも、前世で……。
今ある情報は……
・着物姿の女性→蛇
・蛇は炎を吐く
・蛇は俺だけを見ている
・この空間には寺と鐘が置かれている
・寺には見覚えがある(前世で)
これらの情報から、何か……
「……っ!!」
深く考えたい。……だが、余裕はない。
次から次へと、俺めがけて攻撃が飛んでくる。
……数秒だけでいいんだ。俺に、余裕をくれ……。
何か……アイツの動き止められる策は……。
……待てよ。アイツは蛇……だったら、これが効くんじゃ……。
<<アビリティ>>
大鯰:半径10メートルに地震を発生させる
一気に距離を詰めて、これをぶち込む!!
蚤の弾性力なら、いけるはずだ。
足はバネのように弾け、一瞬で地面から離れる。
風を切る音が耳を打ち、奴の元へと連れて行く。
――範囲内!!
俺が地面に手をかざした瞬間、地面は音を立てながら、震え始める。
すると、奴はよほどの苦痛だったのか、のたうち回りながら、苦しみ出す。
手に入れた猶予を無駄にはしない。
女性……蛇……炎。
寺……鐘。
……追うのは俺だけ。
一人に執着し、炎を吐く。
寺と鐘に関連のある。
――もしや、コイツは……
「……清姫」
この際、自身の憶測を信じる他ない。
清姫は確か……
男に裏切られた清姫は、蛇に変化し、男を追いかける。
その後、鐘ごと男を焼き殺した。
……だったと思う。
……まさか、鐘から出てきた俺をその男と勘違いしたのか?
いや、今は討伐方法だ。
えっと……清姫の最後は……
男を殺した後、自害。
この状況では、男の立ち位置が俺に置き換えられる。
――そうなると、俺の死が……
……いや、違う。それは勝利じゃなく、敗北だ。
――だから、実際には死なずに、死んだ”こと”にすればいい。
俺は迷わず脇腹に、短剣を刺す。
出血はする。だが、死にはしない。
体の力を抜き、倒れる。
息を止める。
この状態では、奴を見ることはできないが、そこはアビリティで補える。
反響定位で奴が向かってくるのがわかる。
すると、俺の側まで体を持ってくると、その場で止まる。
――今だ!!
奴が舌を出す瞬間――俺は風を送る。
これは攻撃じゃない。匂いを送っただけ。
その風には血と漢方の匂いが混ざっている。
――簡易的に作った、死の匂い。
そこには、血の匂いと俺に染み付いた悪臭が混ざっている。
奴の舌は空気を舐めるように伸びる。
それを何度も続ける。
……頼む。騙されてくれ。
――数回、続けた後、奴の動きは止まる。
あの匂いをどう感じ取ったか、それで俺の命運は決まる。
奴に変化はない。だが、突然、熱気が舞い始める。
……どういう状況だ。
反響定位では、何が起きているかわからない。
……こうなったら!!
俺は顔を上げ、奴を見る。
奴の体には変化はなかった。だが、頭が異常だった。
頭は膨れ上がり、赤く染まっていた。
……そういえば、コイツ……喉から炎出してたよな。
つまりこれは……
「……自爆」
……とりあえず、距離を……いや、間に合わない。
「だったら、こっちだ」
既に、わかってるんだ。
これが炎に耐えられることを。
***
視界が真っ白に染まる。
それと同時に世界が揺らされるような衝撃が、辺りを襲う。
次いで、熱気と爆音が通っていく。
「……安珍も、俺みたいなスキルをもっていたら、生き残っていたかもな」
炎の動きが止まるのを見た後、鐘の中でそのように呟く。
体を守れるアビリティを全て使って、なんとか耐えたが、それでも至る所に火傷ができた。……強すぎるだろ。
……あいつら、無事だろうか。
「……ま、大丈夫か……大丈夫だよな?」




