7
「……っ」
アレンは、わずかに息を呑む。
今のはただの映像じゃない。
そう言い切れるほどに、生々しかった。
視線を上げる。
そこにいるのは、いつも通りのジークだ。
マリアから受け取ったスプーンを持ち、少し照れたように笑っている。
「ありがとう、マリア」
その声。
仕草。
全部が自然で、全部が“あの光景”と結びつかない。
なのに、あっちではジークは人間じゃなく、“魔物側”にいた。
それも囲まれて、感謝されていた。
助けた?
誰を?
何から?
「アレン?」
ゴウメイの声に、はっとする。
「さっきからぼーっとしてるぞ。どうした?」
「あ、いや」
言葉を濁す。
言えるはずがない。
“ジークが魔物側にいたかもしれない”なんて。
そんなこと、言えない。
「あれ? アレンって酒、弱かったか?」
「んなことねぇって」
軽く返す。
だが、笑いがぎこちない。
その間にも。ジークは、普通に会話に混ざっている。
「ゴウメイは本当に強いよな。今日も助かった」
「お、おう! ま、まぁな!」
「ココネの魔法もすごかった。あんな精密に制御できるなんて」
「え、えへへ。ありがと」
「マリアも、ずっと全体を見てくれてた。安心感が違うよ」
「ふふ、どういたしまして」
完璧だ。
誰一人として、不自然に思わない。
むしろ、ジークは“理想の仲間”そのものだ。
アレンは、無意識に拳を握る。
あまりにも出来すぎている。
あまりにも、都合が良すぎる。
まるで、“こうあるべきだ”と誰かが用意したみたいに。
「ジーク」
小さく、名前を呼ぶ。
今度は遮られなかった。
「ん?」
ジークが、こちらを見る。
その瞳。
柔らかくて、優しくて。
底が見えない。
「さっき言ってたことだが」
「ここにいていいのか、ってやつ?」
「ああ」
少しだけ、視線を落とすジーク。
「なんとなく思っただけだよ」
「俺なんかが。本当にここにいていいのかなって」
「なんでそう思う」
優しく問い返す。
その声は、思ったより低かった。
ジークは一瞬だけ驚いたような顔をする。
だが、すぐに苦笑して。
「だって俺、何もできないって言われてたし」
「役立たずだって」
「それなのに」
言葉を区切る。
そして。
「ちょっと、怖くてさ」
そう、呟いた。
「怖い?」
「ああ」
ジークは、自分の手を見る。
「この力。それが本当に“俺のもの”なのか」
「それとも」
そこまで言って。
口をつぐむ。
「それとも、なんだ? それはジークの力だって。心配すんな。なにかその。心配ごとでもあるのか?」
アレンが柔らかく問いかける。
だが。
ジークは、ふっと笑って首を振った。
「ごめん。変なこと言った」
「忘れてくれ」
その笑顔。
やっぱり、優しい。
だが、アレンは確信する。
ジークは、何かを知っている。
そして──
「なぁ、アレン」
今度は、ジークのほうから声をかけてきた。
「もしさ」
「俺がいなかったら」
「みんな。どうなってたかな?」
その何気ない問い。
だが、空気がわずかに冷えた。
「どうって」
ゴウメイが眉をひそめる。
「そりゃ、ちょっとキツかったかもしれねぇけどよ」
「でも俺たちならなんとか──」
「死んでた」
被せるように、アレンが言った。
はっきりと。一切の迷いなく。
「え?」
ココネが目を丸くする。
マリアも、言葉を失う。
「俺たちは、死んでた」
「全員な」
静まり返る、テーブル。
アレンは、ジークから目を逸らさない。
「だから」
「お前がいてくれて、助かってる」
「それは本当だ」
嘘は言っていない。
一周目の記憶が、それを証明している。
だが。
「そっか」
ジークは、小さく頷いた。
「よかった」
その声。
それはどこか、安堵しているようで。
同時に。
ほんのわずかに──“期待が外れた”ようにも聞こえた。
アレンの眉が動く。
今のはなんだ?
だが、その違和感を掴む前に。
「ほらほら! なんか暗くなってきたぞ!」
ゴウメイが無理やり空気を変える。
「飲め飲め! 今日は祝勝会だろ!」
「そうね。難しい話はまた今度にしましょう」
マリアも乗る。
「そ、そうだよね!」
ココネも笑う。
空気が戻る。
賑やかさが、戻る。
だが、その裏で。
アレンの中の“警鐘”だけが、消えない。
なにか。
なにかがおかしい。
しかしその【なにか】。
それをアレンには未だ、わからなかった。




