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だが、アレンは感じる。ジークは笑っている。
しかし、その表情にどこか違和感を感じてしまう。
どこか。
「俺もみんなの為になれて嬉しい」
「これから、もっと。俺、がんばるよ」
響くジークの声。
それはどこか儚げに、アレンの耳には聞こえてしまった。
「ジーク」
なにかあったのか?
そう問いかけようとした、アレン。
しかしそれを、仲間たちの声が遮る。
「よーしッ、今日はぱーっと打ち上げだ!!」
ゴウメイ。
「そうね。なんだか新しい一歩を踏み出したような気がするわ」
マリア。
「これも、アレンとジークのおかげ」
そして、ココネ。
皆の楽しそうな雰囲気。
そしてジークの元に駆け寄っていく、仲間たち。
それに、アレンは言葉を飲み込む。
アレンの視線の先。
そこには変わぬ笑顔を浮かべる、ジーク。
首を振る、アレン。
考えすぎか。
そう自分に言い聞かせ、アレンもまた皆の後を追う。
その足を踏み出し--
顔に柔らかな笑みを浮かべながら。
〜〜〜
その日の夜。
街は、静かに賑わっていた。
魔物の巣をひとつ潰したことで、周囲の脅威は減った。それを祝うかのように、酒場には人の声と笑いが満ちている。
「ほらアレン! 飲め飲め!」
「うるせぇな、ゴウメイ。ペース考えろって」
木製のジョッキがぶつかり合う音。
料理の香り。
暖かな灯り。
すべてが、平和そのものだった。
「ふふ。こういうの、いいわね」
マリアが柔らかく笑う。
「うん。なんか安心する」
ココネも頷きながら、スープを口に運ぶ。
その様子を見て。
アレンは、小さく息を吐いた。
(悪くない)
いや。
むしろ、これが“あるべき姿”だ。
無理も無茶もない。
誰も欠けない。
そんな当たり前。
(あの世界では、こんなことできなかった)
ふと、思い出す。
血と絶叫に塗れた記憶。
だが、それはもう過去だ。
今は違う。
「ジーク」
視線を向ける。
テーブルの端。
そこに、ジークはいた。
皆の輪の中にいる。
いる、はずなのに。
妙な違和感。
笑っている。
ちゃんと、笑っている。
ゴウメイの話に頷き、ココネの冗談に少し照れ、マリアの言葉に礼を言う。
完璧な“仲間”の姿。
なのに。
妙に、遠く感じる。
まるで。
一枚、薄い膜を隔てて見ているような。
そんな感じ。
「アレン?」
不意に、目が合った。
ジークがこちらを見る。
その瞬間。
「どうした?」
にこりと笑う。
変わらない。
いつも通りの笑顔。
なのに。
アレンの背筋に、冷たいものが走る。
「いや。なんでもない」
誤魔化す。
そのまま、視線を逸らす。
疲れてるだけだ。
そう、アレンさ思い込もうとする。
だが、その時だった。
カラン。
ジークの手から、スプーンが落ちた。
同時に、ジークは呟く。
「俺。ここに居てもいいの…かな?」
どこか遠いところを見ているかのような顔。
しかし、それを。
「なに言ってるの? いいに決まってるじゃない」
落ちたスプーン。
それを拾いあげ、ジークに微笑むマリア。
アレンも頷く。
「ジーク。ジークはずっと俺たちといっしょだ」
「俺たちの大切な仲間だからな」
「あ、あぁ。そうだよな」
頷き、ジークはマリアからスプーンを受け取る。
その姿。
それに、アレンはまた違和感を感じる。
同時に脳内に微かに響く声。
それは、あの世界での結末のひとつ。
〜〜〜
「ありがとうございます。そ、そのジークさま」
「わたしたちを人間から助けていただいて」
あの洞窟。
その中で、追放されたジークが人語を話すゴブリンやオークたち囲まれ力強く頷いている。
〜〜〜
朧げな光景だった。
しかし、それは確かに。
アレンの中にわだかまる違和感。
それの原因そのものだった。




