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9

その夜。

アレンは窓から空を見つめていた。


月が出ている。

雲ひとつない夜空。

ほんとうに綺麗な月しかない空。


しかし、アレンの胸の中には靄がかかったまま。


「解除」


響いた、そのジークの言葉。

それを呟き、アレンは唇を噛み締める。


解除?

ジーク。それ、どういう意味だよ。


それじゃまるでーー


「お前が。ジークが、魔物たちになにかしてたみてぇじゃねぇか」


溢れるアレンの声。

その声は震え、どこかジークに畏れを抱いているようでもあった。


同時によぎる、崩壊の結末。

血で濡れたマリアの身。倒れ伏し、業火に包まれたゴウメイ。燃え盛る、世界。

そして、ひび割れた空から覗く。ナニカの目。


「俺は」


自らを奮い立たせる言葉。

それを、アレンは呟かんとする。


拳を固め。


だが、そこに。


気配を感じる。


自らの背。

それに感じる、視線。


振り返る、アレン。


果たしてそこに立っていたのはーー


「アレン」


「なにか考え事か?」


そんな声をあげ、笑うジーク。


それにアレンは答えた。

笑顔を繕い、動揺を見せないようにして。


「ジーク。どうした? 眠れねぇのか?」


「はやく眠ねぇと明日が大変だぜ?」


「はは。それは、アレンも同じだろ?」


「そ、そりゃそうか」


頭をかく、アレン。

そして続けようとした。


「じゃっ、俺は寝る。ジークもはやく」


刹那。

部屋の空気がわずかに軋む。


「アレン」


「なにか考え事か?」


三度、同じトーンで響くジークの声。


踏み出そうとした足。

それを止め、アレンはジークを見る。


顔は笑っている。

だが、その表情はまるで仮面のよう。


「な、なんだよジーク」


「ん?」


「その顔、やめろって」


なんとか平静を保つ、アレン。


「顔?」


「その変な笑顔。やめろって」


冗談っぽく。

アレンは震えを抑えながら、言い放つ。


自然と握られる拳。

引き攣る、アレンの顔。


それに、ジークの顔から笑みが消える。


そして。


「ごめん」


「俺、そんなつもりじゃなかったんだ」


染み渡るジークの声。

そこに宿るのは、無機質。


更に響く、声。


「アレン」


「俺。なんか変なんだ」


頭を抑える、ジーク。


「頭の中に浮かぶんだ」


「浮かぶ?」


柔らかく。アレンはジークに問いかける。


「自分が。どこか違う世界の自分。その、楽しそうな自分の姿。それが浮かぶんだ」


「こ、このパーティーを追い出されて。そ、それで。魔物たちに囲まれて。洞窟の中で、少女と出会って……そ、それで」


ジークの瞳。

そこから光が無くなる。


「このパーティーを貶めて、喜ぶ自分。その姿が浮かぶんだ。へ、変。俺、変だよな」


「み、みんなが死んで」


そのジークに、アレンは答える。


遮るように。意思を強く持ち、己の震えを抑え込んで。


「ジーク」


「んなこと気にすんなって」


「ジークは。俺たちの大切な仲間だ」


言い切る、アレン。

それにジークの瞳に光が戻る。


「そうだよな。そ、そうだよな」


「あぁ、そうだ」


力強く頷く、アレン。

だが、そのアレンの心の中にはわずかな揺らぎが波紋になって広がっていたのであった。

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