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未亡人ミストの相談手帖 ー迷い鳥たちの記憶録ー 消えた辺境伯夫人編  作者: 炬燵猫
本編

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3話 王都聞き込み

 翌日。

 さて、まずは辺境伯領に向かう前に王都で聞き込みを行いましょうか。



◇◇◇



 ラズは旅の準備を、ヴェラには私に付き添ってもらってクレイン辺境伯夫人について情報を集める手伝いをしてもらう。朝食の後、それぞれ準備をしてから二手に別れ仕事に取り掛かる。


「クレイン辺境伯夫人は隣国ヴァルスト王国の侯爵家出身だったわね。そして婚姻は和平を目的とした政略結婚。なら、まずは王都に入ってからクレイン領に向かうはずよ。王妃様か王太子殿下主催の小規模なお茶会で自国の貴族と顔合わせを行うのが通例。なら、王都在住の中位から上位貴族なら出席しているはずだわ」

「さすが先生です! きっと夫人捜しもあっという間に解決ですね!」

「あら、それはまだわからないわよ?」


 キラキラ目を輝かせて称賛してくれるヴェラは、まるで子供のようにはしゃいで興奮している。だけど苦笑いを浮かべて否定しておく。実際、辺境伯家が総力を挙げても何も見つからなかったというなら相当に難しい案件だもの。


 だとしても依頼を受けた以上、やれることはやらなければならない。


「まずは当時の事をご存じそうな方にお手紙を送りましょう。ヴェラ、後で届けてね」

「お任せください!」


 それからしばらくは手紙を書く作業に没頭。少しのミスも許されないから集中して丁寧に。季節の挨拶から始まり、丁寧な言いまわしで”クレイン辺境伯夫人についてお会いして話を聞きたい”と書いて締めくくる。インクが乾いた事を確認してから封をしてヴェラに持たせ配達をお願いした。


「さて、次は……」


 同じく話を聞きたい方なのだけど……。まぁ、そうね。多忙な方だもの、お手紙でお返事をいただければ必ずしも会う必要はないわね。あとはちょっと融通していただきたいお願いを……図々しいかもしれないけれど、辺境伯閣下に残された時間はそう多くはなさそうだから。とりあえず、書くだけ書いておきましょう。


 書き終えた手紙に封をして作業終了。ここでお昼の時間が近い事に気づく。

 ヴェラはあちこち回ってもらっているからもう少し戻るのに時間が掛かりそうだ。その間にお昼の仕度でもしておこうかしら。


 2階から1階の厨房に下りると丁度ラズが帰って来たところだった。干し肉に干し果物に乾パンに……たくさん買い込んでくれたのね。


「ご苦労様、ラズ。ありがとうね、お昼は私が作るから休憩してていいわよ」

「ん、平気。手伝う」

「あら、休んでくれてていいのよ?」

「……やだ」


 エプロンを着けながら休んでいるように促すけれど、買ってきた保存食を片付けたらすぐに手伝いに入って来た。ピタッとくっついてくるあたり、今はとてもご機嫌ね。今はヴェラもいないし甘えたいのかもしれない。


「そう、ならお願いしちゃおうかしら。私はメインを作るから、ラズはスープを作ってくれる? あとはパンを温めましょうか」

「わかった」


 ちょっと嬉しそうなラズは手をしっかり洗ってから早速スープ作りに取り掛かった。さて、私もやりましょうか。


 今日はハーブチキンと野菜のソテーにしましょう。


 まずは鶏肉の厚みを均一にするために切り込みを入れる。お肉を広げて、味をしみ込みやすくするのと、火の通りをよくするためにお肉全体をフォークで刺していく。

 フライパンに油とタイムとローズマリーを入れて火にかける。香りが出てきたら塩をふっておいた先ほどのお肉を皮目の方を下にして焼いていく。こんがり焼き色が付いたらひっくり返して同じように色が付くまで焼いたら、白ワインを少量入れて蓋をして蒸し焼きにする。火が通たらお皿に盛って完成。


 同じフライパンで付け合わせの野菜も焼いて行きましょうか。季節もののアスパラ、ニンジンと玉ねぎ。うん、我ながらよくできたわ。


「先生。味見して」

「ええ。……うん、美味しいわ。こっちもしてみてくれる?」

「あー」

「はい、あーん」

「ん。……んまい」

「そう? よかった」


 あらあら、存分に甘えて来るわね。最近じゃあ滅多に見られないからとても貴重な光景だわ。

 ラズはハーブチキンをとても気に入ってくれたみたいでフライパンをずっと眺めている。きっとこのメニューもいつか食卓に上がるわね。


「ただいま帰りましたーーー!! あっ、いい匂いがします!!」

「……うるさい」

「あら、元に戻っちゃったわね」

「……」


 唇を尖らせて拗ねている姿はまだまだ子供っぽいわね。


「ラズ、また一緒にお料理しましょうね」

「……うん」

「先生も作っていたんですか!? 今度はわたしも」

「「だめ」」

「ぅぇえ?」


 ふ、ヴェラ。あなたに料理をさせる訳にはいかないのよ……。あの日、私とラズとで固く誓ったの。ヴェラには何も作らせない、厨房に入れない、触らせない。そう決めたの。


「ご苦労様、ヴェラ。帰って来てすぐで悪いんだけど、お昼を食べたらまた手紙を届けてくれる?」

「はい! 勿論です。あと、その場でお返事をいただけたお家もあったので確認をお願いします」

「あらそうなのね」


 盛り付けの手を止めて手を洗ってから手紙を受け取る。その場でお返事をいただけたのは、以前ご依頼のあったご夫人二人。内容は同じで要約すると、


『クレイン辺境伯夫人の事は、私からは何もお話しする事はありません』


 というものだった。

 ご依頼以降も交流を続けて下さっている気さくな方々でとても友好的なのだけれど、何だか違和感のある対応ね。


「普段なら会って直接言って下さるような方達なのに、これは……」


 もしかしたら本当に手がかりすら掴めないかもしれないわ。

 何せ辺境伯家の家臣が動いても何も手がかりが掴めてないんだもの。それも10年もの間、何もない。

 そこに私が割って入ったって、そう簡単に手がかりを掴めるはずもないわ。


「……うん、先にご飯にしましょうか。ヴェラ、お礼のお手紙を書いたらまたお願い」

「はい! お任せください!」


 胸をドンと叩く姿が頼もしいわ。黙っていれば知的美女だけど、口を開くと愛らしい。細身の見た目より体力も腕力もあるし、体を動かすのが好きだからこういうお遣いは好きなのよね。


 お皿に盛りつけて2階の食堂に運ぶ。運ぶ作業はヴェラにも手伝ってもらって三人揃ってから食べる。無言で食べ進めるラズと美味しい美味しいと言いながら食べ進めるヴェラ。対極な二人だけど料理を食べ進めるスピードは同じね。


 あっという間に完食してしばらくお腹を休めてから午後の作業に取り掛かる。ラズは午前と同じように必要物資の補給。ヴェラは私が手紙を書き終えるのを待ってからまた手紙の配達。そして私はというと国立図書館を訪ねていた。二度目の配達には追加して知り合いの商人の方達や商人ギルドにも届けてもらっている。その返事が来るまでの間、こちらで調べものをする事にしたのだ。


 相変わらず大きくて荘厳、中はびっしりと数々の本が詰まっている。この中から探すのは大変なので、司書に13年前から現在までの広報誌がどこに保管されているのかを尋ねる。白髪で痩せ型の目つきの鋭い司書は、私の事を一瞥すると更に目つきを鋭くさせたけれど、ちゃんと教えてくれた。私はニコッと笑いお礼を言うとその場所に向かう。


(ふふっ、あの人睨まれている気になるけど実は目が悪いだけなのよね。厳しい顔付きも相まって怖がられるから騒ぐ人がいないのはありがたいわ。でも損ね。本当は子供好きなのに怖がられてお孫さん以外近寄らないって嘆いていたこともあったから)


 ほんの少し過去を振り返るうちに目的地に到着。13年前の広報誌を捜しだし、この年の分からすべてに目を通すとやはりあった。


「”ヴァルスト王国と和平交渉開始。クレイン辺境伯はこれまでの争いに終止符を打つため、ヴァルスト王国侯爵家のご令嬢と婚姻”ね」


 広報誌によると、王都入りをしてまずは国王陛下に謁見。翌日に王妃様と上位貴族を交えたお茶会が開かれ、その後クレイン領に向かったとある。予想していた通り、お茶会が催され上位貴族が招待されていた。


「”クレイン辺境伯領には近衛騎士団長を筆頭とする護衛隊が丁重にお送りした”」


 ……なるほど、ここで繋がるのね。


 病で追い詰められたバルナバスは伝手を辿って私の噂を知った。そして依頼するには紹介人が必要な事も知ったのだろう。縋る思いで過去、奥方を王都から護衛するためクレイン領に来ていた近衛騎士団長に願ったということだ。そして近衛騎士団長は願いを聞き、紹介人に口添えをしたことで今回の依頼が来たというところだろう。


 ―――ならやはり、近衛騎士団長にお話を聞きたいわね。


 その後の広報誌にも目を通すと、辺境伯夫人について7年前に小さく”死亡が認定された”とだけ書かれていた。その後、クレイン辺境伯に関連したものは一切見当たらなかった。


(これは……現地に行ってみない事には何も言えないわね)


 元から赴くつもりだったけど、面倒なことに関わっている気がしてならないわ。それからはクレイン領について色々調べてみた。立地や歴史、特産物に周辺の領地についても少し。そうして調べていると先ほどの司書がいつの間にか傍らに立っていた。


「……クレイン領について」

「はい。……あの?」

「お気をつけなさい。……手を引く事も、時には必要です」

「……」


 そうして司書は去って行った。窓から差し込む夕日は赤く、司書を染めている。やがてその姿は闇に呑まれていった。


 彼は何が言いたいのか。この件から手を引けという事? それとも純真に心配してくれているの?

 少なくとも、私の知らない何かを知っているのは間違いない。それが何なのかは分からないけれど、手紙で断られた件についても、そして今も何だか不気味さを感じているのは確かだわ。


 閉館時間となり玄関前でヴェラと合流する。今日一日走り回って貰ったというのに、まだまだ元気そうでむしろもっと走りたいと目を輝かせている。


「先生、近衛騎士団長なんですが」

「どうかしたの?」

「……明日時間を作るから来て欲しいって言ってました。手紙も預かっています」


 ぶすくれた顔も可愛らしいけれど、それよりお会いしてくださるのね。


「明日、裏門に若い騎士を派遣しておくのでそいつに案内させるようです」

「そう。ありがとうね、ヴェラ。明日もよろしくお願いするわ」

「! はいっ勿論です!!」


 明日は王城……か。


次回から週2回更新となります。よろしくお願いします。

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