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第三十話

中央に来てから2回目の戦い。

その日、最初の獲物を仕留めた俺は一つ息をついた。


相変わらず辺りは、シアが放っている霧の魔法で真っ白だ。

どれだけ目を凝らしてもほとんど何も見えない。


さて……



それからは一方的な展開だった。


魔物に近づく。

後ろに回り込む。

短剣を首にあてる。

横に引く。


ほとんど同じ作業を繰り返すだけで魔物たちは倒れていった。

ゴブリンもオークもコボルトも……

その他のありとあらゆる魔物の首を切って回った。


俺は何も考えずに、ひたする体を動かすことだけに意識を集中する。

もう何匹倒したのかも覚えていない。


霧から逃れようと動いている魔物も何体かいる。

しかし、真っ白な霧の中で方向感覚を失っているらしい。

見当違いな方向に進んで、お互いにぶつかったりしている。


ぶつかるだけならまだいい。


不運にもシアの方に近づいてしまった魔物は、立ち塞がるセレスによって斬って落とされている。


霧を出し続けているシアをどうにかできれば、向こうにも勝ち目は出てくるのにな。

どうやらそれはセレスがいる限り不可能なようだ。


よし、今のところうまく回っているな。



……ん?


妙な気配がする。

あれは魔物じゃない。人間だ。


俺はセレスの間合いに入らないよう気を付けて、その人間に近づいて行った。

この気配には覚えがある。



……ガイストだ。


霧の中を、頼りない足取りで移動している。


わざわざ味方を巻き込まないように、俺たちだけで突出したのにな。

このオッサンは何やってんだ。


「おい、そっちに行くと怖いお姉さんがいるぞ」


後ろに回り込んだ俺は、ガイストの頭をポンポンと叩いてやった。


「誰だ!?」


ガイストは手を振り払おうとした……が、空を切る。


すでに横へと回り込んでいた俺は、ガイストの耳に顔を近づける。


「昨日、俺たちに近づくなって言っただろ」


ガイストは手をブンブンと振り回して抵抗をする。


俺は少し離れてその様子を探っていた。



先輩には色々とありがたいお言葉をもらったからな。

少しお返しをしてあげなくちゃな。


霧の中、子供のように暴れていたガイスト。


やがて肩で息をし始める。

しばらくすると、座り込んでしまった。


大きな体を縮こまらせて、少し震えているようだ。


分かるよ先輩。

周りに敵がいるかもしれない場所。

そこで何も見えないっていうのはとんでもなく怖いよな。


……このぐらいでいいか。


俺はガイストの脇に手を差し込んで、優しく立たせてやった。

そのまま体の向きを変えて、背中を軽く押してやる。


「逃げるならこっちだ」


つまずきながらもガイストは何とか歩いていった。


さて、余計な時間を使ってしまったな。

魔物はまだ残っている。続けよう。



―――


数時間後


霧の中で感じ取れる気配が二つだけになった。

シアとセレスだ。


二人ももう動いている気配はない。


……戦いはどうなっているのだろう?


「シア。いったん霧を引っ込められるか?」


「お待ち下さい」


返事が聞こえてから少し後。

辺り一面をおおっていた霧が一気に晴れた。

どうやら霧は全てシアの手のひらに収まってしまったようだ。


ずっと閉じていた目を薄く開ける。

陽の光が差し込んでくるのを感じる。


俺は何度かまばたきをして、目を光に慣らしていった。


どうやら太陽はちょうど俺たちの真上くらいにあるようだ。

結構な時間が経ったかと思ったが、そうでもないらしい。


そろそろ光に慣れてきた。


俺は目を完全に開けて周りの様子を伺った。

すると辺りには一面に魔物の死骸が広がっていた。


……200匹以上はいそうだ。



……



……これ全部、俺たちがやったのか?


魔物の死骸はまるで湖のように足元に広がっている。

その中に俺と、少し離れたところにシアとセレスが小島のように立っていた。


二人もその光景をポカンと眺めていた。


分かる。俺もあまり現実感が無い。


しばらくボーっとしていた俺たちの意識を戻したのは、駆け寄ってきた冒険者たちだった。


「おい!なにボケっとしてんだ?魔王軍は撤退しちまったぞ!」


視線を少し遠くに移してみる。

すると、遥か彼方に魔王軍の姿が見えた。


「まだ日没まで大分ある。こんなことは初めてだ!」


興奮した冒険者たちが次々に声をかけてくる。


……状況がよく分からない。


「……俺たちは中心付近を倒しただけなんだけどな」


「その中心付近をほとんど壊滅させたんだ。

向こうの陣形は真ん中を破られて、メチャメチャになったんだよ」


中央の魔王軍は横に長い陣形を作っていた。

どうやら俺たちはそこに大きな穴を一つ開けたらしい。


「って言っても、まだ結構な数がいたと思うが……」


「左右に分断された魔王軍は思いのほか、もろくなっていたんだ。

いつもの半分の力も無かったんじゃないかな」


なるほど。

それで他の冒険者たちは、ここぞとばかりに押し込んでいったわけか。


魔王軍は統制が取れている。

それが向こうの強みだった。


しかしその統制を崩してしまえば、案外もろいということか。


……いろいろと勉強になるな。


「まあ今日も役立てたようで良かったよ」


「役立ったどころじゃねぇよ!お前たちは中央の救世主だ!」


俺たちを囲む冒険者の歓声は、しばらく止むことが無かった。

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