表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/30

第二十九話

魔物たちの長く分厚い壁が迫ってくる。

俺とシアとセレスは3人だけで、その壁に向かっていった。


近づくほどに威圧感が増してくる。

俺は立ち止まってしまいそうになる足をなんとか進めていた。


無謀な突撃のように見えているだろうか?

仕方がない、そういう作戦だ。


魔物たちの波に飲み込まれそうになる少し手前。

俺とセレスは、二人でシアを守るように立ちふさがった。


このくらいの距離でいいだろう。

さて、上手くいくといいのだが……


「シア!」


「了解しましたわ」


つい先ほどまで、自分の世界に入り込んでいたシア。

ようやくこちらに目を向けた。


手のひらを胸の前で重ね合わせる。

炎の魔法を使う時に、何度か見たポーズだ。


しかし、今回は表情が違う。

眉間に深いシワが寄っていた。

魔力を変換するイメージが難しいのだろう。


頼むぞ。今日はお前にかかっているんだからな。


手を重ね合わせたまま、シアは唸り続けていた。


すると……


右手から小さい火がポシュッと飛び出る。

左手からは水がチョロチョロと流れ出る。



あの?シアさん?


真剣な表情とは裏腹に、なんとも情けない光景だった。

ガクッと肩が落ちる。その時。


魔物の波がついに目前に迫った。


それは巨大な敵意の塊だった。

凄まじい迫力に圧倒されてしまう。

俺は不覚にも立ちすくんでしまった。


そんな俺を尻目にセレスが刀を振るう。

昨日、コボルト部隊の首を落とした横薙ぎだ。


最前列を走っていた何匹か崩れ落ちる。

少しの間、敵の波は止まったが……


今回は数が違う。


一瞬ひるんだ魔物の群れは、すぐに落ち着きを取り戻す。

そして俺たち3人を取り囲むように移動した。


ヤバい。

俺はこういう戦いは苦手なんだ。


目の前にオークの槍が突き出される。

なんとかかわしながら叫んだ。


「おい、シア!無理そうなら早めに言えよ!」


「いえ。ここで昨日の失態を取り戻しますわ」


そう言ってシアは再び集中し始めた。




カチリ、と何かがハマる音がした気がする。


シアは鋭く目を見開いて、上を向いた。

両手を重ね合わせて頭上に高くかかげる。


その直後。


目の前が真っ白になる。

すぐ近くにいるはずの魔物の顔も見えなくなった。




やった。成功だ。


今、シアの手からは『霧』が吹き出しているはず。


火の魔法で水の魔法を温めて水蒸気を発生させる。

2つの魔法を扱えるなら、できるんじゃないかと思っていた。


「シア!よくやったぞ。」


「は、話かけないで下さい。思ったよりコントロールが難しいですわ」


出しっぱなしというわけにはいかないらしい。

霧を留めるためにシアは集中を続ける必要があるようだ。


しかし、これは想定の範囲内。


「セレス!作戦通りいくぞ!」


真っ白な霧の中で叫ぶ


「了解した」


返事が返ってくる。



……さて。


俺は霧の中で再び目を凝らしてみる。

何も見えない。


右手を顔の前に近づけて、ようやく薄っすらと形が分かるくらいだ。

思っていたよりもずっと濃い。



意識を耳に移してみる。


魔物たちのどよめきが聞こえてくる。

いきなり視界を奪われて錯乱状態にあるようだ。


よし。


俺は音からも注意を外し、目を閉じる。


魔界の森で会得した技。

視界が無くても、気配を感じることのできる力。


……分かる。

霧の中でも問題なく分かる。


あちらにゴブリンが5匹固まっている。

向こうではオークが逃げ惑っている。


俺たちを取り囲んでいた魔物たちは既に散らばってしまっていた。


一つだけ心配していたことがあった。

魔物は霧の中でも意思疎通ができるんじゃないか?と。


しかし、その心配は杞憂だった。


まとまって動いている魔物は一匹もいない。



そばで何かを切り裂く音がした。


セレスだ。

セレスがシアに近づいてきたオークを斬り倒していた。


あのお姉さんも俺と同じ様に、視界が無くても戦うことができる。

なんでも目を閉じて、敵の影を斬るとかなんとか言っていたな……


理屈はよく分からない。

が、実際にできている。


周りにいる魔物をバッタバッタと斬り倒している。

恐ろしいスピードと……間合いだった。


あれ、刀の長さの2倍くらいまで届いてないか?


……まあいいいか。

後で聞いてみよう。


ともかくセレスが近くにいる限り、霧を出し続けているシアは安心だ。


二人だけに働かせるわけにはいかない。

そろそろ俺も仕事をしないとな。


セレスの刃は広範囲にまで届いている。

しかし、動きながら斬ることはできないらしい。


そのため、霧の中で散らばった魔物を倒すのは俺の役目だ。



少し離れたところに、孤立したゴブリンがいた。

どちらに進むでもなく立ちすくんでいる。


俺は音を立てないように近づく。

ゴブリンは相変わらず動けない。


背後に回り込み、首に短剣をまわす。

ゴブリンは俺の存在に気づいてもいない。


そこで、再び迷いが生じた。

心が痛む。


俺は頭を軽く振って、先ほど固めた決意を思い出す。



……いや、この期に及んで考えることなんて無い。


俺は短剣をゴブリンの首筋にあてる。

触れるか触れないかのところで一気に横に引いた。


命を刈り取る感触。


直後にゴブリンは首から血を吹き出して、前のめりに倒れ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ