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第二十八話

冒険者たちが作る防衛ラインの左端。

昨日と同様、俺たちはそこで戦いが始まるのを待っていた。

魔王軍はまだ視界に入って来ない。


すると、隣で待機していたパーティが手招きをしてきた。


「ん?何だ?」


「……場所を変われ、ということだろう」


セレスが答える。


なるほど。

力のあるパーティほど中心寄りで戦う。

この戦場での暗黙のルールだったな。


俺たちは昨日が初戦闘だったとは言え、多少の結果を残した。

もう少し中ほどで戦え、ということなのだろう。


「素直に変わってしまってもいいのかな?」


「まあ大丈夫だろう」


再びセレスが答える。


……確かに断る理由も無いか。


俺たちは戦線の端から、一つだけ右へ移動した。



さて今日はここで頑張るか、と思った直後。


再び右隣のパーティが手招きをしてきた。


「おい、またかよ」


「……恐らく、姫様の炎の効果だろう」


「ああ。あれは確かに目立ったな」


昨日、シアは何度も巨大な炎をぶっ放していた。

それは時に戦場の時間を止めるほどの勢いがあった。

誰もが圧倒されたのだろう。


その結果が、この場所替えか。


当の本人はやり過ぎてダウンしてしまったんだがな。

まぁそんなことイチイチ説明して、拒否するのもおかしいか。


俺たちは譲られるまま、中心付近に場所を移していった。



―――


何度目の移動だったろうか?

すでにかなり中心近くに来た気がする。


そこで俺たちは見知った顔に出くわした。

ガイストとそのパーティだ。


あら先輩、会えて嬉しいですよ。

あなた方とはご縁があるようですね。


向こうもこちらに気づく。

しばらく面白く無さそうな顔でこちらを眺めてきた。

そして、何事もなかったかのように前を向いた。


場所を譲る気は無いようだ。


まぁいいんですけどね。

別に中心で戦いたいなんて思ってないですから。


とにかく、ようやく落ち着いたな。

今日の戦場はここか。


昨日より緊張感が漂っているのを感じる。

ガイストたちを含めて、明らかに周りのパーティの顔つきが違った。


後ろを見ると、ミューゼの町がハッキリと見える。

そろそろ市場が賑わい始める頃なのだろう。

朝の喧騒まで伝わってくるような距離だった。


なるほど。

俺たちがやられてしまうと町まではすぐだ。

文字通りミューゼの町を背負って戦うわけか。


一瞬、魔物が町へなだれ込む姿を想像した。


それは凄惨な光景だった。

今あそこに戦うことのできる者などほとんどいない。

一日と待たずに町は落とされてしまうだろう。



……これは起こりうる現実だ。



視線をミューゼの町から腰にさした短剣に移す。


忘れもしない。

俺と同じように、身軽な格好をしたゴブリンが身につけていた短剣。

俺はあの時、初めて魔物に対して強い親近感を覚えた。


すぐ後ろにあるミューゼの町。

あの町が訴えかけてくる王国の現実。


腰にさしたゴブリンの短剣。

この短剣が象徴している自分の理想。


相反する感情が頭の中にあるのを感じる。


しかし。


今やるべきことは分かっている。


俺は今、中央の冒険者だ。

ミューゼと王国を守るために戦うんだ。


迷いが出ないように、何度も頭の中で繰り返した。



―――


魔王軍は昨日と同じ様に、100歩ほどの所で一度止まった。

しかし、前にいる魔物の数は明らかに昨日より多い。


中心付近に戦力を集めているというのは嘘ではないようだ。


息苦しい。

空気が圧縮されているような感じがする。


しばらくその重苦しい空気に耐えていると、魔物たちは唐突に動き出した。

重みのある動きだった。


左端の魔物たちは小さな部隊に分かれて、機敏に向かってきた。

対照的に中心付近はどっしりと攻めてくるようだ。



……ちょうどいい。



「セレス!シア!行くぞ!」


俺は二人に向かって叫んだ。



―――


「おい、あいつら突っ込んで行くぞ!」


ガイストは仲間に向かってツバを飛ばした。


「馬鹿か。3人だけで突出してどうするんだ」


クソ。だから嫌なんだ。

この辺りのことを分かっていない奴らは。


中心付近は敵も味方も密集している。

一つのパーティが抜かれると、一気に崩れる可能性があるっていうのに……


新参者は端っこの方で大人しくしていろよ。

まったく、勝手なことをしやがって。


クソッ。昨日もう少し叩いておけばよかった。

そうすれば、調子にのってこんなところまで来なかっただろう。


イライラが収まらない。

足元の草を踏みつける……が、どうしようもない。


「おいガイスト、どうする?」


仲間の一人が話しかけてくる。


アイツらがやられるだけなら別にいい。

勝手に死ねばいいんだ。


しかし。


こんな序盤で、一つ穴が開くのは本当にヤバい。

太陽が沈むまでに、押し切られてしまうかもしれない。


どうするか……?


そう言えば昨日、あの小僧が俺たちに近寄るな、とかなんとか言っていたな……

バカか。近寄らないでどうするんだ。


「仕方が無い。俺たちも少し前へ出るぞ。

あのアホどもの横に並ぶんだ」


ガイストはそう吐き捨てて、仲間とともに進み始めた。

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