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第二十七話

ミューゼに着いてから3日目の朝。


俺たちは昨日と同じ様に、ミューゼの町を出て国境線へ向かった。

そしてこれも昨日と同じ様に、周りを気だるそうに冒険者たちが歩いている。


昨晩はギルドで少しだけ盛り上がっていたが……今日はまた元気が無さそうだな。


そりゃそうか。


盛り上がったと言っても、新人が部隊を3つ撤退させただけだ。

長く続いている中央の戦局に大きな影響を与えたわけでは無い。


誰かが言っていたように、久々に騒げそうな出来事があったから騒いだ、というのが本当のところだろう。


一晩明けてしまえば、また憂鬱な戦場が待っていることに変わりはない。

彼らの足取りが全てを物語っていた。


こんなことを毎日続けているのか……


ひとしきり冒険者たちを眺める。

少しだけ中央の事情が分かった今、昨日とはまた違った見え方がするな。


ふと、後ろを見るとシアが一人でブツブツ言っている。

今日は緊張していたり、暴走していたりするわけではなさそうだ。

俺が頼んでいた魔法の練習をしているのだろう。


……邪魔をしないでおこう。

今日の戦いの鍵はお前が握っているからな。

頑張って、予習に励んでくれ。


再び前を向いて歩こうとすると、セレスが横に並んできた。

セレスの方から近づいてくるなんて珍しい。


「……追い払うだけでも充分だと思うがな」


セレスは短くそう言った。



昨日のギルドでのやり取りのことを言っているのだろう。


ちょうどいい。


俺も戦いの前に、もう一度考えを整理したかったところだ。

セレスは格好の話し相手だ。


「確か昨日、部隊を撤退させれば全体の戦局が有利になる、って言っていたよな」


「もう一つ、敵部隊のリーダーを減らすことによるメリットがある」


二人とも前を見ながら話していた。

国境線まではまだ少しある。


「そういうことを考えて立てた作戦だったら、まだ良かったんだがな」


「どういう意味だ?」


セレスは鋭い、切れ長の目をこちらに向けてきた。


「俺はパーティの能力や連携だけを考えて、あの作戦を立てたんだ。

全体の戦局なんてまるっきり頭に無かったんだよ」


「……お前は中央に来るのは初めてじゃないか。

そんなことを考えるのは難しいだろう」


「確かにそうかもな。全体が見えていなかった、というのは仕方が無いかもしれない。

ただ、もっと根っこの部分で引っかかったことがあるんだ」


セレスは表情だけで、続きを促した。


「最初に会った時、こんな話をしたのを覚えているか?

魔物は望まない戦いを強いられているんじゃないか。

そして、魔物の中にも俺たちと同じような悲劇が起こっているんじゃないか。ってな」


「覚えている。

なかなか興味深い話だった」


「これは魔界を一人でさまよっている時に、けっこう強く植え付けられた考えなんだよ。

我ながらかなり変わっているとも思うんだがな。

ただ、王国側にも一人ぐらい魔物のことを考える奴がいていいんじゃないか、とも思う。

人間のことだけ見ていたら、戦争はいつまでも続きそうな気がするしな」


セレスは顎先だけで軽く頷いた。


「だけど、それはあくまで国対国とかの広い視点で考えた時の話だ。

この島全体を考えれば、魔物のことも考える必要は確かにあると思う。

……しかしだ。

今、俺たちがいる場所は戦争の最前線だ。

毎日、魔物と人間で殺し合いが行われている場所だったんだ。」


俺は少し間をおいて頭の中を整理した。

セレスは黙って聞いてくれている。


「しかも王国側は長いこと劣勢が続いている。

……そういう場所に敵のことを気遣う考えなんて、持ち込むべきではなかったんだ。

俺は作戦を立てる時にそれをやってしまった。

昨日、ガイストにはそのことを責められたような気がしたんだよ」


「なるほど。

末端で戦っている魔物をあまり殺したくない、だから逃がす。

作戦を立てる時に、そういう自分の理想が含まれてしまったことを気にしていたのか」


「そういうことだな。

長いこと必死で戦っている先輩達に失礼なんじゃないか、ってな」


「ふむ……」


今度はセレスが考える番だった。


「私は物事をあまり複雑に考えるたちではない。

だから正直言って、お前の言うことはよく分からない。

……理想があるなら、それを貫けばいいじゃないかと思ってしまう。

周りのことなんて気にする必要はないんじゃないか、とな」


続きの言葉がありそうだった。


「だが、これは私の考えが浅いのだろう。

状況に応じてより適切な行動をとる、か……」


「何が適切かなんて、実際のところ分からないんだけどな。

ただ、自分の中で何か引っかかる時がある。

そういうのはあまり無視したくないだけなんだよ」


「……お前はやはり変わった奴だ。

これまで私の周りにいた人間は、自分の正義を信じて疑わない奴がほとんどだった。

自分の考えを曲げるなんていうこともほとんど無い。

あるのは勝つか負けるか、だけだったな」


セレスは細い目を更に細めていた。


「もしかしたらお前みたいな奴が政治を行うのが良いのかもな」


「は?政治?何言ってるんだ?」


「いや、何でもない。忘れろ。

お前の考えは分かった。

それでは今日の戦いは例の作戦でいくんだな?」


「ああ。シア次第だがな」


後ろを振り返る。

すると、シアはまだ延々と両手を合わせてブツブツと唸っていた。

見たこともない真剣な表情をしている。


「まぁ……大丈夫だろ……」


一抹の不安を抱えながら、俺たちは昨日と同じ配置に着いた。

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