第二十六話
すっかり日が落ちきって、辺りが暗くなり始めた頃。
俺達はようやく、ミューゼの冒険者ギルドにたどり着いた。
扉の中からは騒がしい声が聞こえてくる。
すでに他の冒険者たちが戻ってきているのだろう。
俺達はシアの介抱やらで、大分遅くなってしまったようだ。
当のシアはまだセレスの背中でグデーっとしている。
全く、いいご身分だな。
ギルドの扉を開ける。
すると再び俺たちは視線を集めた。
しかし、最初にここへ入った時のあの刺すような感じは一つも無い。
「お、今日のヒーローがご到着だな。」
俺たち3人は歓声で迎えられた。
何人もの冒険者が近寄ってきて、肩を叩いてくる。
「よくやったな」
「やるじゃねぇか」
等々の声を浴びせられる。
……そこまでの事をしたかな?
確かに少しは活躍できたかもしれない。
でも、こんなに歓迎されるほどではないんじゃないか?
そばにいた男に聞いてみる。
「すごく喜んでくれているみたいだが、俺たちは3つの部隊を追い返しただけだぞ」
「まぁまぁ、いいんだよ。最近、やられっぱなしだったからな。
少しでも明るい話題がある時は目一杯、騒いでおくんだ。」
「そういうものなのか」
「それに、お前たちが結果を出してくれたのは紛れもない事実だ。
明日からもよろしく頼むぞ」
そう言って男は戻っていった。
なるほど。
冒険者は経験ではなく実力。
ゲルトの冒険者ギルドで言われた言葉を、身をもって実感した。
どうやら冒険者の世界というのは、実力を示せば即座に受け入れてくれるようだ。
とても分かりやすい……が、シビアでもあるんだろうな。
今日だって何か失敗をしていたら、どうなっていたか分からない。
俺たちはギルドの扉を入った所で、ひとしきり冒険者たちの歓迎を受けた。
しばらくすると、彼らは俺たちをほうって宴の輪を作り出した。
ひとしきりその輪をボーッと眺める。
シアが加わりたそうな目をしていた……が、今日はやめておけ。
また今度な。
騒ぎを続ける冒険者達を横目に、俺たちは当初の目的を果たそうと受付へ向かった。
―――
カウンターにさきほど集めた魔物の首輪を広げる。
受付の男も心なしか愛想がよかった。
「合計20個だな」
上機嫌で数え終えた男はそう告げた。
その時、右側に再び気配を感じた。
再び?
そう、確か昨日も、この場所で同じような気配を感じた。
嫌な予感をしながらも顔を向ける。
すると、やはりあの男が立っていた。
斧男ガイストだ。
……なんだよ?今日は文句ないはずだろ。
「たった20個か。お前ら真面目に戦ったのか?」
案の定、イチャモンをつけてきた。
シアさんなら的外れな受け答えで、すぐ追い払ってくれるんだが……
残念ながら今はお休み中だ。
仕方ない、俺が相手をするか。
「悪いな。全力を尽くしたんだがな。」
ガイストはチラッとシアの方を確認した。
昨日のことを思い出したのだろう。
良かったな。お前の天敵は今ヘバッているよ。
「聞くところによると、お前たちは3つも部隊を追い払ったらしいな」
「ああ。リーダーを倒して撤退させたんだ」
「なぜ逃げている部隊の背後を襲わなかったんだ?」
? コイツは何が言いたいんだ?
「別に逃がすだけでもいいだろう」
「お前たちは、やはり東部のぬるま湯につかった間抜けだな。
魔物たちは追っ払っても、明日にはまた新しい部隊を組んでやって来るんだぞ」
ん?そうなのか?
「今は魔物を追い払って、国境線を回復してもほとんど意味はないんだよ。
明日には奪い返される可能性が高いからな。
それよりも必要なのは相手の戦力を削ることだ」
……わりとスジが通っているような気がする。
この男、ただの筋肉バカかと思っていたが、そうでもないらしい。
「今、ここの戦況が悪いのは戦力差が大きいからなんだよ。
そんなことも分からないお前たちは、敵の数を減らすチャンスをみすみす逃したってわけだ」
やばいな。
言い返せない。
「お前たちは中央の状況を全く分かっていない!
俺たちがやられてしまったら王国は滅びるんだぞ!」
ガイストはカウンターに拳を叩きつけながら叫んだ。
騒がしかったギルドの中が一瞬静まりかえる。
全員がこちらを向いた。
しかし、俺はガイストの言うことに何も答えられずにいた。
敵の数を減らす……
確かに、リーダーだけ倒して他はなるべく撤退させる、というのは俺の立てた作戦だ。
これは効率よく戦闘を終わらせるため、という意図があるだけではない。
「魔物をあまり倒したくない」という俺の理想が含まれてしまっている。
この考えを、甘い、と言われているような気がした。
足元が見えていない。
今は魔物のことなんか考えている場合か。
と。
……中央、いや王国の現状を考えると、もっともなことかもしれない。
……
俺が固まってしまっていると、横からセレスが出てきた。
「指揮のできる魔物を減らすのは意味があるんじゃないか?
それに、早めに一つの部隊を撤退させれば全体の戦局は有利にできる」
代わって、セレスが反論をし始めた。
「指揮をする魔物なんて、わんさか出てくるんだよ!」
「指揮レベルは落ちてくると思うがな。
それに戦局をこちらに傾ければ、相手の数も減らしやすくならないか?」
「……グ」
セレスは一瞬で言い負かしてしまいそうになった。
しかし。
「いや、セレス。このオッサンの言うことも一理ある」
セレスは出かかっていた言葉を止めた。
「俺たちが……というより、俺が甘かったのは事実かもしれない」
「ハハ!ようやく認めたか!お前らはしょせん東部の甘ちゃんパーティなんだよ!」
セレスに押され気味だったガイストは、一転して、得意げに笑い始めた。
いいのか?という顔でセレスは見てくる。
俺は黙って頷く。
そしてセレスの背中にいるシアの方に視線を移した。
「おい、シア。お疲れのところ悪いが、馬車の中で頼んだ魔法は明日できそうか?」
「た、多分、大丈夫ですわ」
「よし」
静まり帰ったギルドの中、ガイストの笑い声だけが響いている。
この男はミューゼの冒険者ギルドではそれなりに力を持っているようだ。
先ほどまで騒いでいた人達も、何も言えずに黙ったままだった。
せっかくの空気が悪くなってしまったな……
ここは俺が捨て台詞でも言って、立ち去る所だろう。
昨日は、このご機嫌な先輩に言わせてしまったからな。
「おい、オッサン。貴重なアドバイス、ありがたく受け取っておくよ。
お返しに一つ忠告しておこう」
ガイストは笑うのをやめて、俺の方を向いた。
「明日、俺たちには近寄らない方がいいぞ」
それだけ言い残して、俺たちはギルドをあとにした。




