第二十五話
太陽が西に沈み始めた頃。
魔王軍は一斉に国境線から後退していった。
何か合図があったようにも思えない。
どうやって全体に知らせているのだろう。
ともあれ、俺達の中央での初戦がやっと終わったか。
あらためて戦場となった草原を見渡してみる。
すると隣で戦っていたパーティが近づいて来た。
「おい!あんた達、助かったよ!おかげで左側はかなり押し返せた!」
満面の笑みで声をかけてくる。
まぁ、助けたということになるんだろうな。
俺達は最初のコボルト部隊を打ち払った後、セレスの提案でそのまま前進した。
そして、隣のパーティと戦っていた敵部隊に横から攻撃を加えたのだ。
作戦は同じ。
シアが部隊全体に魔法を放ち、ヘイトを集める。
向かってきた敵をセリスが切り払って、足を止める。
そのスキに俺が部隊のリーダーを仕留める。
ミューゼに来る馬車の中で話をするうちに、なんとなく思い描いた作戦だった。
これが思いの外うまくハマった。
最終的に俺たちは3つの敵部隊を撤退させることに成功したのだ。
「ああ。気にしないでくれ。新参者だが役に立ったなら良かったよ」
「明日も頼んだぞ!」
隣のパーティはブンブンと手を振って、町へ戻って行った。
喜んでくれたのなら良かった。
……が、正直言って、俺は他のパーティのことなど気にしていなかった。
というより、気にかける余裕が無かった。
目の前の敵を叩くことに集中していただけで、誰かを助けるということまで意識は回っていなかったのだ。
あの冒険者達がお礼を言うなら俺ではなく、セレスの方だ。
隣で戦っていた部隊に、横槍を入れようと提案をしたのはセレスだ。
本来なら状況を分析するのは俺の仕事だろう。
……明日以降の反省だな。
しかしだ。
俺以上に反省が必要なヤツがいる。
「……うぅ」
シアは呻きながら、草原にうつ伏せでぶっ倒れていた。
セレスが介抱しているが、さっきから動けそうにない。
……あれだけ特大の炎を連発していればそうなるだろう。
暴走モードに入っていたシアは、魔力が溜まる度に炎を放っていた。
毎回、「冒険者になる!」とかなんとか叫びながら。
「……頭がクラクラしますわ」
そりゃあれだけ魔力を使えばな。
今後のために、一言いっておいた方がいいだろう。
「おい、シア。お前が魔力を使い切ったら、誰が回復をしてくれるんだ?」
「う……」
顔を地面にうずめたまま、シアは固まった。
「今日は誰もケガをしなかったからいいけどな。お前の役割は攻撃だけじゃないんだぞ。
戦闘が終わった後のことも考えて魔法は使えよな」
セレスも苦笑いをして聞いていた。
普段、俺がこんなことをシアに向かって言えば怒り出すところだろう。
しかし、今回は必要なことだと割り切ってくれたようだ。
「わ、分かりましたわ。あ、明日は気をつけます」
素直だな。
こういうところは好感が持てる。
「まぁ、全体的には悪くなかったんじゃないかな。
明日はちゃんと考えて魔法を使えよ」
シアは地面に向かってコクリと頷いた。
―――
シアがへばっている間に、俺は一人で魔物から首輪を集めて回った。
これをギルドへ持って帰らないと報酬がもらえない。
まずは最初に倒したコボルトの首輪を集める。
どれもほとんど同じ模様がついていたが、俺が倒したリーダーの首輪だけ少し違っていた。
この首輪で部隊の中での役割をハッキリさせているのか。
やはり魔物達は統制が取れているようだな……
結局、俺達3人で倒した魔物の首輪は20個ほどになった。
最初に襲いかかってきたコボルト達が逃げ出すところを、後ろから攻撃していればもっと集まっていただろう。
しかし、今回は俺の希望もあり、撤退させる方向で作戦をたてた。
シアもセレスも反対はしなかった。
首輪を全て回収した俺は二人のところに戻る。
「シア。立てるか?」
「……うぅ。まだ無理そうですわ」
魔力は血を使うって言うが……こりゃ完全に貧血だな。
そろそろ日も落ちてくる。
どうしたもんかな。
すると、セレスがシアを背中にかつぎ始めた。
とても大事そうに、壊れ物でも扱うような動きだった。
さきほどの鬼のような姿からは全く信じられないな。
「セレス……すみませんね」
「いえ。気になさらないで下さい」
やはりこの二人は何かしらの主従関係にあるのだろう。
シアの失敗があったとは言え、今日の戦いで二人の実力は充分に見させてもらった。
だから、何者だろうと気にしない。
俺はあらためて心に留めたつもりだったが……
いつか話してくれないか。
そういう思いも少しだけ浮かんできていた。




