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第二十一話

「う~ん。やっと着きましたわね」


馬車から降りたシアは、背伸びをしながらそう言った。


「ここが中央の防衛拠点、ミューゼの町ですか。

ゲルトより大分広そうですね」


シアに続いて馬車を降りた俺は、ミューゼの町を眺めてみる。

確かにゲルトの3倍以上はありそうな町だった。


気づくと後ろにセレスが立っていた。

俺の頭を越えてシアに話しかける。


「やはりこの町には、城壁や門も無いようですね。

城塞都市ゲルトに比べると頼りなさそうですが、大丈夫なんでしょうか?」


「もともと商業の町ですしね。

人や物がうまく流れるよう、行き来がしやすく作られているのでしょう」


シアの話ではミューゼの町は、王国の北部で生産された農作物が売り買いされる場所として、発展した町らしい。

町の多くは市場として利用されている。

その他に裕福な商人などが暮らす一角なども、あるということだった。


馬車で話していて思ったが、シアはこの国の地理や歴史にやたらと詳しい。


一体お前は何者で、そんなことどこで勉強したんだ?


という疑問はもうやめておこう。


「しかし今は中央防衛の要ではないですか。

多少の防備は欲しい所ですね」


「中央防衛だけではありませんね。

今やミューゼは、王国防衛の中心と言っていいでしょう」


俺の頭の上で会話が進んでいる。


参加できない……


ずっと魔界にいた俺は、あまりこちらの情勢を把握していない。


いいさ。

せいぜい勉強させてもらおうじゃないか。


「王国防衛の中心、ですか。

確かに東部を攻めていた、魔王軍はいまだに沈黙。

西部の魔王軍はもともと、あまり動いていない。

なるほど、今や戦場は中央のみとも言えますね」


「ですから魔王軍も、戦力を中央に集中させているのでしょう。

ミューゼからゲルトへの応援要請というのも、頷ける話ですわ。


「しかし、なぜこの町が拠点に選ばれたのでしょうか?

私の感覚では、やはりこの町では心もとないです。」


「位置が良かったのと……

あとは、町の作りが冒険者にとって使いやすいんじゃないでしょうか」


「どういうことですか?」


「今のところ、冒険者の報酬はギルドから受け取るお金のみです。

冒険者たちはそれを使って、戦いの準備や生活をしていかなくてはなりません」


シア先生の授業は続く。


そろそろ俺も手を上げて、質問をした方がいいかな……


「食料や生活必需品、武器や防具を取り扱う商店が必要になってくるわけです。

この町にはそれらの設備が充実しております」


「なるほど。かつて農作物の取引がされていた市場で、今は武器などが売られているわけですね」


「そういうことです。商人が泊まっていた宿なんかもたくさんあるようですしね」


話が少しだけ途切れた。

ここだ!


「し、しかし賑やかそうな町だな」


「戦争の中心だけあって、たくさんの人と物が集まっているようですわね」


シアとセレスは、町を出入りしているたくさんの人に視線を移した。


よしよし、ようやく参加できたぞ。


満足した俺は、二人と一緒に行き交う人を観察する。


それにしても本当に賑やかだな。

町の中から溢れ出てくる喧騒も途切れることがない。


その勢いに俺たちはまだ、馴染めていなかった。

しばらく3人でボーッと人の波を眺める。


ひと目でよそ者だと分かるだろう。


「さ。まずは冒険者ギルドへ行ってみましょう

アレンさん達の情報も、何か手に入るはずですわ」


そうだ。

ここに来た目的の一つは、アレン達の情報を得るためだった。

冗談を言っている場合ではなかった。


……ただ。


少しだけ思っていた。

今の俺にとっては、シア達の話に付き合う方が大事なんじゃないか、と。



ーーー


俺たちは人の波をかき分けて、ようやくミューゼの冒険者ギルドへたどり着いた。

こんなにたくさんの人を見たのは、アレン達と王都から旅立った時以来だな。


ギルドの扉を開けると、中にはたくさんの冒険者がいた。

時間的に今日の戦いを終えて、戻ってきたところなのだろう。


ケガをしている人間が目につく。

全体的に空気は張り詰め、殺気立っている。


この雰囲気からだけでも分かる。

どうやら戦況は思わしくないようだ。


ギルドへ入ってきた俺たちを、何人かがチラリと見た。

新参者だということは、ひと目で分かっただろう。


しかし、とても歓迎されているというような雰囲気ではなかった。

視線には敵意すら感じられる。


俺とセレスは、気にせず受付へ向かった。

シアだけが何故か嬉しそうにしている。


そんな俺たちの態度を気に入らない奴がいたようだ。

ペッと唾を吐く音が聞こえた。


まったく、分かりやすいものだ。


構わず受付へと進み、ゲルトの冒険者ギルドでもらった紹介状を渡す。

この町での冒険者登録はこれだけで済むらしい。


……ふと横に気配を感じた。


「腕利きを送ってくれって言ったのに、来たのは小娘とガキか。

やっぱり東部は平和ボケしてんな」


見ると大きな斧を背負った、毛むくじゃらの男が立っていた。

カウンターに手をついて、俺が渡した紹介状に目を向けている。


斧男の後ろには、同じく中年くらいの男が3人立っていた。

どいつも蔑むような目で、俺たちを見ている。


おいおい、戦いのストレスを俺たちに向けないでくれよ。


「おい。ガイスト。せっかくゲルトから来てくれたんだ。

ちょっかいを出すのはやめろよ」


受付の男が止めに入る。


「うるせぇよ。俺たちに必要なのは戦力になる人間だ。

こんな奴らが来てもどうにもならねぇだろ」


隣でセレスが、少しイラついているのが分かった。

自分より、シアを馬鹿にされるのが気に障るらしい。


ただ当のシアは、なぜか目を輝かせている。


そして我慢できないといった感じで、斧男の前に立ちふさがった。


「あなた。今なんと言いました?」


「お前みたいな小娘に何ができるんだ?って言ったんだよ」


シアはこちらを振り返る。


「今のを聞きましたか?」


「ハ。黙らせてやりましょう」


「セレス。違いますわ」


シアはため息をついて首を振る。

刀に手をかけようとしていたセレスはキョトンとする。


「これこそが冒険者ギルドなのですわ。

新米冒険者が、ベテランに絡まれる。

ゲルトで出会えなかったイベントがついにここで…… 」


敵意を向けた相手。

その相手から、何故か憧れの視線を向けられる。


ガイストと呼ばれた男は、振り上げた拳の下ろす先を完全に見失ったようだ。

なんとも言えない、不思議そうな顔をしている。


俺は危うく笑いがこぼれそうになった。


せっかく新人相手に気晴らしに来たのに、残念だったな。


ウチのシアさんは、少しだけ頭にイかれた部分をお持ちなんだよ。

お前たちはソコに触れてしまったようだ。


「ケッ!遊びじゃねぇんだからな」


俺たちから期待した反応は引き出せない、と悟ったのだろう。

ガイスト達は、不機嫌そうにドスドスと足を鳴らして立ち去ってしまった。


「あぁ。なんて素敵な捨て台詞。

まさに理想的な方達でしたわ。

ガイストさん、覚えておきましょう」


シアはうっとりとガイストの後ろ姿を見つめている。


ゲルトの表通りを歩いていた時も、似たようなことがあったな。

どうやらシアには、冒険者に対する妙な幻想があるらしい。


眺めている分には面白いが、関わるのは面倒だな。

……無視しよう。


「あんな野蛮な男にバカにされるのは許せません」


セレスだけはまだ苛立ちを抑えられないようだった。


「まぁ口でなんと言われようと、気にする必要はありませんわ。

ゲルトの受付の方も、おっしゃっていたじゃないですか?

冒険者は経験より実力だって」


シアは緩んだ顔つきのまま、口角を少しだけ上げた。

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