第二十話
城塞都市ゲルトから、中央のミューゼへは馬車で3日程度だ。
ちょうど俺が魔界の森を歩いたルートと、平行に進むことになる。
当たり前だが、移動は格段に楽だった。
整備された道を、馬車が運んでくれる。
座っているだけで、目的地へ着いてしまう。
文明に感謝だ。
順調に行けば今日の夕方ごろには、ミューゼの町へ着くだろう。
この2日の間、馬車の中でシアとセレスとはたくさんの話をした。
内容は主に戦いについて。
これからミューゼでやることを考えれば、当然だろう。
俺は主にアレン達と、魔界へ行ってからのことを喋った。
盗賊ラルスがどういう風に戦うかを知ってもらうには、それが一番だ。
向こうでは、どうやって戦っていたか。
勇者のパーティには、どんな役割分担があったのか。
その中で俺は、どんなポジションにいたのか。
魔王軍のこともたくさん喋った。
魔界には、どんな魔物がいたのか。
東軍の拠点には、何体くらいいたのか。
どんな防備がされていたか。
それに対して、俺たちがどのように対処したか。
先のことを考えれば、向こうのことも少しは知っておいて欲しかったのだ。
話からでも少しはイメージができるはず。
孤児院時代に、警備隊の人間から話を聞いて鍛錬を積んだ俺にはそれが分かる。
シアとセレスは、真剣に俺の話を聞いてくれた。
そして必要があれば質問をしてくる。
こうした方がいいんじゃないか、と自分の意見を言うこともあった。
ふざける時もあるが、締めるところは締めてくれる。
こういうところは好感が持てた。
馬車の中での3日間というは無駄な時間かと思っていたが、結果としてそうでは無かったようだ。
他にできることもないので、俺たちはひたすら話をする。
それはパーティの第一歩として、悪くないことのように思えた。
自分のことを理解してもらい、相手のことも理解する。
一緒に戦っていくうちに、なんとなく分かってくることではある。
しかし言葉を介して行うと格段にスムーズなのを感じた。
アレンとも、もっと話をしておくべきだったのかもな。
そうすれば、追放なんてことも無かったかもしれない。
俺は今だになんでパーティを追放されたのかを、よく分かっていない。
邪魔だから、と最後に言われた。
どういう意味だったのだろうか?
そこには何か、アレンの感情や意図があるはずなのだ。
もう少し、話をしておけば良かったのかもしれない。
俺は幼馴染ということに甘え過ぎてていたのかもな。
少し後悔をした。
そして、ミューゼの町ではパーティの誰かが、ケガをして治療にあたっているらしい。
話を聞く限りアレンでは無さそうだ。
ミリアムだろうか?アルガスだろうか?
……それともクレアだろうか?
今さら誰と会ったところで、どうにもならないだろう。
しかし、それでも俺は無事かどうかだけは知りたかった。
ーーー
昼食をとった後、再び馬車に乗り込む。
10人くらいは乗れそうだったが、俺たちの他に客はいなかった。
この馬車は、ゲルトからミューゼへの定期便。
少し前までは、魔物のいなくなった東部から中央へ向かう冒険者で溢れていたらしい。
今もなんだかんだと人や物が流れているという話だ。
乗客が3人だけというのは、かなり珍しいようだった。
向かい合わせの席。
俺はいつもの場所へ座る。
向かって左にシア、寄り添うようにセレスが並んで座る。
これが定位置となっていた。
一息つくとすぐに話が始まった。
「ねぇラルスさん。一つ聞いてもいいですか?」
シアは俺のことを、「ラルスさん」と呼ぶようになった。
これまでそんな風に呼ばれたことはないので、なんだかむずかゆい。
「ああ。なんだ?」
「最初にお会いした時、あなたは私の火の魔法をかわしたじゃないですか?」
あの時のことは覚えている。
セレスに斬りつけられた後、間髪入れずに高速で火の玉が襲ってきたのだ。
俺はそれを地面に転がってかわした。
「ギリギリだったけどな」
「あの時、私は死角から魔法を放ったつもりだったのです。
なぜ見えていたかのようにかわせたのですか?」
「あれか。ちょっと説明しづらいんだが……
俺はな。見えてなくても、なんとなく見えるんだよ」
「? どういう意味ですか?」
「なんて言ったらいいのかな。
目でとらえてなくても、気配や空気で分かるというか」
シアはまだ不思議そうな顔をしている。
もう少し詳しく説明する必要があるだろう。
フフフ。
これは俺の新しい能力なんだ。
「魔界の夜は、真っ暗だったって話は覚えているか?」
「はい。森を歩いていた時のことですよね」
「あそこは日が落ちると、本当に何も見えなくなるんだ。
怖かったよ。たまに近くで変な音が聞こえたりしたからな。
そんな時、俺は暗闇の中で必死にあたりの気配を探っていたんだ」
シアはふんふんと頷いている。
「見えないなりに何があるのかを知ろうとしたんだ。
音だったり、臭いだったり、気配だったり、そういうものからな。
それをずっと続けていたら、なんとなく辺りの様子が分かるようになったんだ」
「なるほど。それで見えない角度からの攻撃もかわせたのですね」
「そういうことだ」
俺は得意げに頷いた……、が
アレ?
意外と反応が薄いな。
シアとセレスは普通に話を聞いている。
けっこう凄い力だと思うんだけどな……
「確かセレスも、似たようなことができませんでしたっけ?」
「はい。そうですね」
え?
アナタもできるの?
「ちょっと形は違うようですが。
私の場合は、自ら目を閉じて心の目であたりを探るのです。
心気を研ぎ澄ますと、近づいてくる影が見えてくるのです。
そこを斬る。そういう技です」
なんかカッコウいいな。
俺の新能力……
「しかし、どちらかというと『待ち』の技ですね。
ラルスのように、動きの中でかわしたりはできないと思います」
お。
そうでしょう、そうでしょう。
さすがセレスさん、よく分かっていらっしゃる。
それにしても似ているのは間違いないな。
見なくても見える。
パーティに二人もそんなことができる人間がいるのか。
……
俺は一つの考えが、頭に浮かんだ。
実現するかどうか分からないが、試してみる価値はある。
「なぁシア。火と水の魔法って同時に使えるのか?」
「? そんなことしてどうなるのですか?
火が消えてしまうだけですよ」
「いいからできるのか、できないのか教えてくれ」
「そんなことやったことありませんからね。
ちょっとお待ち下さい」
そう言ってシアは、右手を見つめて力を込め始めた。
「うーん。片手では難しそうですね」
今度は両手で試してみるようだった。
ひとしきり唸った後に、こちらに顔を向けた。
「練習すればできそうですわね」
「お、そうか。それ暇な時にやっておいてくれないか」
「何か考えがあるようですね」
「ああ。それはな……」
ミューゼまではもう少しのはずだ。
俺は手短に自分の考えを二人に説明した。




