第十九話
シア達は俺とパーティを組むにあたり、一つだけ条件をつけた。
それはいきなり魔界へ行くのではなく、王国でパーティとしての実戦経験を積むことだった。
本音を言えばすぐに魔界へ向かいたかった。
あちらでも戦うことはできる。
それどころか嫌だと言っても、魔物はやって来る場所だ。
経験を積むという意味では、王国で戦うよりてっとり早いだろう。
しかしだ。
危険なのは間違いない。
向こうは魔物の領地。
王国と違って、安全な場所など無い。
体を休めるにも、神経を使わなければならない。
回復魔法で、完治させることのできないケガを負う場合もある。
そうなったら命の危険も出てくるだろう。
アレン達とはいきなり魔界に乗り込んだが、最初は大変だった。
幼馴染の3人がスムーズに連携できたから、何とかなったようなものだ。
全く見知らぬ人間だけだったら、早々に全滅していただろう。
王国で実戦経験を積む、か。
普通に考えて、この提案には同意せざるを得なかった。
パーティを組んでから、日の浅い状態で魔界へ行くのは確かに無謀だろう。
ただ、一つ問題がある。
どこで魔物と戦うか、だ。
その問題を解決するために、俺たちは冒険者ギルドにやってきた。
「私たちがパーティを組んだのは、いずれもう少し強い魔物と戦いたかったからなのです」
受付の男と話を進めるシア。
魔王を倒しに行く、とは言わなかったな。
ここではその方が無難だろう。
全く、頭の回る奴だな。
「なるほどね。確かに二人だけじゃできることは限られるな。
普通、冒険者は4、5人でパーティを組むしな」
「はい。それでこの方を仲間に加えたのですが……」
おい。
頼んできたのはお前らだろ。
というツッコミはやめておく。
ややこしくなるだけだ。
「3人での戦いには、まだ不安があるのです。
私とセレスの息はピッタリですが、この方は得体がまだ知れないのです」
先ほどから何か悪意を感じる。
なるほどね。
シアさんっていうのは、そういうお嬢さんなわけね。
俺は心にしっかりと刻み込んだ。
「それで、実戦経験を積もうという話になったのですが……
この辺りに魔物は、あまり出ないじゃないですか?」
「そうだな。
嬢ちゃん達の活躍もあって、魔物はさらに減っちまったようだ」
「そんなことはありませんが…」
またシアはこちらを向いてきた。
さっきからお前は何が言いたいんだよ。
「今の私たちにとって、魔物がいないのは困りものなのです。
それで中央の国境地帯へ行った方がいいんじゃないか、という話になったのです」
この提案をしたのはシアだ。
まぁ順当と言えば順当だろう。
ただ、俺には一つ懸念があった。
アレン達が魔界で中央軍の拠点を、落としているかもしれない。
そうなると中央の国境地帯に行っても、無駄足になる可能性がある。
俺と別れてから、すでに10日以上経っている。
時間的には充分に、考えられることであった。
俺とシアは、中央へ行く、行かないで少しだけ押し問答を繰り広げた。
しかしお互いすぐに、この議論は無駄なことだと悟った。
結局二人とも中央がどうなっているか、なんて分からなかったからだ。
ここへは確かな情報を得るために来たのだった。
「中央か。そいつはちょうど良かったな。
実はミューゼの町から、応援の要請が来てたんだよ」
応援の要請?
なんだそれは。
「中央を攻めている魔王軍は健在なのか?」
俺は横から口を出した。
「あぁ。健在どころか勢いを増しているようだぞ。
ミューゼの冒険者ギルドによればな。
腕利きの冒険者を送ってくれ、という連絡がさっき来たところだ」
「勇者アレンはどうなったか分かるか?」
「その情報も一緒に来た。
何でも中央軍の軍団長にやられて、王国へ帰って来てるらしいぜ。」
ショックだった。
まさかアレンが……
「アレンの仲間はみんな無事なのか?」
「一人、大ケガをしてミューゼで療養中らしいぞ」
「誰だ?それは?」
「そ、そこまでは分からねぇよ」
まさか、クレアじゃないだろうな。
一体どうなっているんだ。
「まぁまぁラルスさん。
そんな剣幕で問い詰めたら受付の方も驚いてしまいますわ」
シアの言葉で我に返る。
気づくと俺は、男の胸ぐらを掴んで話していた。
ハッとして手を離す。
「すまなかった」
「あ、ああ。大丈夫だ。
お前は見ない顔だが、一体どうしたんだ?
勇者のパーティに知り合いでもいるのか?」
…… 即答できなかった。
仲間ではないのだ。
なんと言えばいいんだろう。
「彼には勇者のパーティに、古い友人がいらっしゃるようなのです。
それでちょっと興奮してしまったようですわ」
俺の代わりにシアが答えた。
「いずれにせよ、私たちには中央に行く理由ができたみたいですね」
シアは微笑みを浮かべてそう言った。




