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第十六話

席を立ったセレスはこちらを鋭く見ているようだ。

頬に視線が刺さるのを感じる。


私は目を合わせずに立ち上がった。

そして黙って階段へ向かう。

何事もなかったかのように。


セレスは何も言わずに、私の後ろをついてきた。

私も引き続き、何も言わない。


コツ、コツ、コツ。


規則的に二人の足音だけが鳴っていた。

この宿屋は、こんなに足音が響くのか。


階段を登り、一つの部屋の前で立ち止まる。

扉を開けると、中にはベッドが2つと簡単なテーブル、椅子が2脚あった。

私たちがすでに何日も泊まっている部屋だ。


壁は薄いが、今の時間、宿屋にいる人間などほとんどいないだろう。

誰かに話を聞かれる心配はない。


私は椅子をスッと引く。

そして浅く腰を掛け、背筋を真っ直ぐに伸ばして座った。

礼法にのっとった動作、幼い頃から何度も教え込まれた座り方だった。


セレスは若干たじろいだようだった。


それでいい。

私は本気なのです。


しかしセレスの動揺は一瞬だった。


意を決したように、前の椅子を乱暴に引いて、席についた。

テーブルを挟んで向かい合う。

セレスは真っ直ぐに私を見つめてきていた。


私は毅然とした態度を崩さなかったが、そんなセレスを愛おしく思っていた。


口では私に敵わないことは分かっているでしょう。

しかし彼女はこれからやるべきことをやろうとしているのだ。

そういう人間は、立場を越えて好きだった。



視線がぶつかる。


……


私が声を出そうと、息を吸い込んだその瞬間。

図っていたかのようにセレスが口を開いた。


「姫様。さきほどのご発言は何だったのですか?」


出鼻をくじかれ、先手を取られた。

「姫様」というのも、あえて言ったのだろう。


セレスも上手くなったものですね。

無骨さしか無かった頃が懐かしいですわ。


しかしここで引くわけにはいきません。


「私があの方と一緒に魔王討伐に行く、と言ったことですか?」


「そうです。あなたはご自分の立場を分かっていらっしゃるのですか?」


「冒険者シアですわ」


おどけて言ってみる。


「今はふざけないで頂きたい」


強い声だった。


「ふざけていません。先ほども言ったとおり私は今シアなのです。

あなたの方こそいい加減分かって欲しいですね」


こちらも強めに返す。

言葉や視線、いろいろなものが私たちの間でぶつかっていた。


セレスとこんな風に言い争うのはいつ以来でしょうかね?


「国境を守る冒険者でしたら、まだいいのです。

しかしです。

さすがに得体の知れない男と、魔界へ行こうとするのはやりすぎです。

あの男とは先ほど会ったばかりじゃないですか」


一番言いたいことだったのだろう。

ハッキリとした口調だった。


「確かに、いきなりパーティを組もうしたのは、唐突すぎたかもしれません」


「でしたら」


「けど、あなたはあの方のお話を聞いて、何も感じませんでしたの?」


セレスは視線を外して、少し考える素振りをした。


「…… 確かに興味深い話でした。

魔物が攻め込んでくる理由など私は考えたこともありません。

それに、あの男が中々の人物であることも認めます」


やはり見るところは見ている。

ここでも反対するだけだったら、私はセレスを連れて来なかっただろう。


「しかし、それとあなたが魔界へ行くことは別です。

もう一度言いますが、あなたには立場があるのです。」


「立場を考えればこそ、私が先頭に立って戦うべきじゃありませんか?」


私は先ほどラルスの話を聞いてから視野が一気に広がった。

この島全体を俯瞰するようになったのだ。


そう考えてみると、私こそが魔王を倒しに行くべきだと思えた。


「歴史を思い出しなさい。

私にはそういう血が流れているのです」


セレスはまだ王国のことだけしか見えていない。


大抵の議論は、広い視野を持っている方に説得力が出る。

セレスは私の言葉を返すことができなかった。



私は立ち上がり、部屋についている小さな窓を開けた。

暖かい風が吹き込んでくる。


いつもと変わらない穏やかな気候。

戦争なんて無ければ畑の作物はスクスクと育つだろう。


やはり早く終わらせるべきなのだ。


私は再び席に戻り、セレスと向かい合う。


「あの男とパーティを組むことは認めましょう」


短い時間でセレスは考えをまとめたようだった。


「ただ、いきなり魔界へ行くことだけは止めて下さい。

それはあまりに無謀です。

行くとしてもどこかでパーティとして、実戦経験を積んでからにするべきです」


小さいところを引いて、大きなところで引かない、というわけか。

これをそのまま受け入れるのは負けたような気もしますね。


……


ただ、セレスの言うことももっともです。

私もラルスのことはもう少し知る必要があるとは思っていました。


別に喧嘩をしているわけでもありませんし、まぁいいでしょう。


「分かりましたわ。

まずはラルスとパーティを組んで経験を積みましょう。

魔界へ行くかどうかは、あらためて話しましょうか。」


緊迫した空気が一気に緩まる。

セレスはほっと胸をなでおろした。


「ありがとうございます」


「別にあなたがお礼を言うことではありませんわ」


「私は姫様のことが心配なのです。」


先ほどとは打って変わって柔らかい視線を向けてくる。

やはりセレスを連れてきて良かった。


「分かっております。私もあなたのことは信頼しています。

これからもよろしくおねがいしますわ」


「ハ。」


セレスは居住まいを正して短く答えた。

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