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第十五話

「魔物は戦いを望んでいない、ですか?」


ラルスは私の方を見ずにコクリと頷いた。


「だって、おかしいと思わないか?

10年前、魔物は突然攻めてきた。

それまで魔界からなにかが来ることなんて無かったんだろう?」


……確かにそうだ。

王国が統一された500年前から、この国には正式な歴史が記録されている。

そこには魔物がリリム山脈を越えて来たなんていう記載は一切無い。


「なぜ数百年間も大人しかった魔物が急に攻めて来るんだ?」


ラルスは誰かに問いかけているようだった。

しかし答えを求めているわけではなさそうだ。

私は黙って聞く。


「飢饉でも起こって飢えていたのか?

いや、それにしては食料を狙っているように思えない。

そもそも人間と魔物は味覚が大きく違うようだしな」


味覚が違う?

ラルスはどこでそんなことを知ったのだろう。


まぁいいか。

早く話の続きを聞きたかった。


「単純に領土を広げたいと思ったのか?

いや、それも違和感を感じる。

俺が見てきたのは魔界の森だけだが、それでも土地が足りないなんて全く感じなかった」


魔物が王国へ攻め込む理由か……

そんなことは考えたこともない。


「まぁ理由なんてなんでもいい。

所詮は憶測でしかない無いからな。

いずれにせよ、俺にはそこに個人の意志を感じるんだ」


「個人の意志…… ?」


「普通に考えれば魔物のトップ、魔王の意志だな。

今回の王国への侵攻には魔王の意志が大きく働いてるように思うんだ」


「魔王が心変わりしたということですかね?」


「あるいは新しい魔王が出てきたかだな。

俺はこちらの可能性が高いと思っている」


魔王の交代。

それに伴う王国への侵攻。

なるほど、自然な流れだ。


「多くの魔物はその新しい魔王の命令で仕方なく戦っているんじゃないか。

もし普通の魔物に王国へ攻め込む野心があるなら、これまでも頻繁にやって来ていたと思うんだ」


確かに魔王軍には強い指揮管理の力が働いているようだった。

実際に王国へ攻め込んできた魔物たちはかなり統制された動きをしているという話だ。


……


ラルスの言っていることはあながち間違っていないかもしれない。



「間違いなく今回の戦争で王国にはたくさんの悲劇が起こっている。

ただそれは魔物も同じなんじゃないか。

魔物にも俺たちと同じような生活があって、家族がいる。

それが上からの命令で壊されているんじゃないか。

俺のように両親を失った子供なんかもいるんじゃないか」


ラルスはそう言って、身につけている短剣にチラリと目を落とした。


「人間も魔物も関係ない。

俺は早くそういった悲劇を終わらせたいと思っているんだ。

そのためには魔王を倒すのが一番早いと思っている」


「それがパーティを追放されても、あなたがまだ魔王討伐を諦めない理由なのですね」


「もちろん両親の仇っていう意味もあるがな。

今は俺の中でそう単純な話でも無くなってきてるんだ」



……面白い。


この男の頭の中にあるのは人間のことだけではない。

魔物を含めた広い視点でものを考えている。

王国の運営に携わる知識人の中にもこんな人間はいない。


「それであなたはこれから何をなさるおつもりですか?」


「あぁ。まずは仲間を集めようと思っている。

盗賊一人ではなにもできないからな」


ラルスの言葉に私は反射的に反応してしまった。


「それでは私とパーティを組みませんか?

私もあなたの魔王討伐に加えて下さいませ」


テーブルの上を見つめていたラルスがこちらを向く。

さきほどのように疑いを込めた視線ではない。

多少驚いているようだ。


しかしラルス以上に動揺を見せた人間がいた。


「ひ、姫様。何を。」


それまで大人しく話を聞いていたセレスが狼狽を隠さずに口を挟んできた。

私はセレスに対して珍しく苛立ちを覚えた。


「セレス」


「はい」


「シアです」


冷たく言い放つ。


「今、私は冒険者シアなのです」


「……」


セレスはうつむいてしまった。


その姿を見ても私はセレスに対して攻撃的な姿勢を崩さない。

彼女もいい加減割り切るべきなのだ。


不穏な空気が二人の間に流れる。


一人取り残される形になってしまったラルスが口を開く。


「まぁ何か事情があるみたいだな。

まずは二人で話しあった方がいいんじゃないか

そのうえで一緒に行きたいっていうなら俺もあらためて考えてみるよ

あんた達が何者かは分からないが、腕はよさそうだ。」


セレスを冷たく見つめながらラルスの言葉を聞く。


……


なるほど、確かにちょっと焦りすぎた。

ラルスの話を聞いていたら居ても立ってもいられなくなってしまったのだ。


とりあえず場を取り繕おう。


「そうですね。

いきなり失礼致しました。

私達もあらためて考えみることにします。

この町にはしばらくいらっしゃるのですか?」


「あぁ。魔界から戻ってきたばかりで俺もクタクタだ。

しばらくはここで休んでいこうと思っているよ」


「分かりました。

ではまたお会いすることもあるでしょう。

その時にあらためてお話させて下さいませ」


「あぁ。待ってるよ」


「それでは私達はこれで失礼致します。

先ほどは突然襲いかかってしまいすみませんでした」


「もう充分に謝罪は受けたよ。気にしないでくれ」


ラルスはそう言ってグラスを持ち上げた。

私は軽く微笑んでそれに答えた。


同時にセレスが立ち上がる。

決意のこもった動きだった。


そう。


私達はこれから軽くない話をしなければならない。

セレスも覚悟を決めたのだろう。


しかし私も折れるつもりは全く無かった。

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