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第十四話

勇者アレンと僧侶クレアとの再会。

男はそこまで話して一息ついたようだった。


宿屋の食堂には相変わらず私達の他には誰もいない。


男の語る声だけが低く、ゆっくりと響いていた。

私とセレスはそれを黙って聞いている。


男は……確かラルスと言ったか。


ラルスはテーブルに置いてあるグラスを手に取り、少しだけ口をつける。

その様子は冷静そのものだった。



なぜそんなに平然と語ることができるのだろうか?


平和な村に突然やってきた魔王軍。

両親の無残な死に様。

孤児院での孤独で長い鍛錬の日々。


話の中で唯一、幼馴染の存在だけに救いがあった。

ただ、それ以外は壮絶な出来事の連続だった。


確かに今の王国には悲劇が溢れている。

同じような話はこの10年で数えきれないほど聞いてきた。


冒険者が何人も殺された。

あの村は全滅だ。


国境地帯に来て数日、実際に滅ぼされた村の跡もいくつか見てきた。

現場を見てもあらためて思う。


これは悲劇である、と。

そして悲劇性を持って語られるべき出来事である、と。


しかし


この男はそういった出来事を淡々と語った。

自分の感情すら含めてだ。

それはまるで他人事のように聞こえてくるのだった。


おそらく全ての出来事を、自分の中で消化しきっているのだ。

辛い記憶も含めて、何度も何度も頭の中で反芻を繰り返したのだろう。


その度に身を引きちぎられる思いを味わったに違いない。


いつしかそれを現実のものとして完全に受け入れた。

そして前に進む力へと変えていったのだ。



この男からは学ぶことがある。


私はそう直感した。


この国にこれから必要なのはこれだ。

悲劇を、前へ進む力へと変えること。



ラルスはワインをゆっくりと飲みながら何かを考えている。


こちらから何かを言うべきだと思った。


何でもいい。


会話を繋げる何かであれば。


「勇者アレンと僧侶クレアとは幼馴染だったのですか」


確認するまでも無いことを聞いてみる。


「ああ」


男は再び意識を話に戻したようだ。


「だからかな?

パーティを追放されても俺は心の底からアレンを憎むことはできないんだ」


「そうなのですね」


相槌を打ってみたが、あまり理解はできなかった。

本人にしか分からないことだろう。


「王都で再会できた時は本当に嬉しかったんだ。

なにせ俺の身内と言える人間はあの二人だけだったからな」


「……そして無事に選抜試験は通過されたわけですね」


「ああ、正直言ってアレンに会った瞬間に確信はしていたけどな。

俺が落ちるわけが無いって」


ラルスはここで初めて笑顔を見せた。

それはようやく見せた年相応の表情だった。


「選抜試験で見たクレアの力にも驚いたよ。

考えてみれば僧侶はあいつにピッタリの職業だ。

昔から思いやりがあって、優しかったからな」


そう言ってラルスは少し複雑そうな顔をした。

比較的新しい出来事に関してはこの男も感情を見せる。


「結局、俺たちの他には戦士アルガスと魔術師ミリアムが選ばれた。

二人の実力もなかなかのものだったよ。

そして5人で魔王討伐へ向かうことになったんだ」


ラルスは再び淡々と語りだした。

誰に語るでもない。

一つ一つ起こったことを自分で確認しているようだった。


視線はずっとテーブルの中央の何もない空間に固定されている。


「見送りには本当にたくさんの人間が集まっていたな。

俺は照れくさくてずっと下を向いていたんだが……」


その場面は私も覚えている。

勇者のパーティは国民の期待を一身に背負って、盛大に送り出されたのだ。


「俺を見たのはその時だろう?」


突然、ラルスはこちらに目を向けてきた。


「え、ええ。まぁ」


不意に飛んできた視線、そして質問。


少し焦りが出てしまった。

私としたことが……


「遠目からしか見えなかったはずなんだがな」


「目はいいほうですの」


「そうか」


探るような瞳。


お前たちは何者なんだ?

なぜ俺の顔がすぐに出てきたんだ?


そう問いかけているようだった。


ラルスとしばし見つめ合う。


ロマンチックな雰囲気では全くない。

どちらかと言うと視線はぶつかり合って、張り詰めている。


さて、どう誤魔化したものか……



緊張した空気を壊したのはセレスだった。

彼女は剣だけの人間ではない。


「故郷の村と両親の仇。

結局、お前が一人になっても魔王を倒しに行こうとする理由はそれか?」


ラルスは質問に答えずに私の方を見続ける。


沈黙が3人を包む。


長い……



不意にラルスは緊張を緩めて、私から視線を外した。



フー、なかなかやりますわね。



「そういえばそれを聞きたいんだったな。

俺がパーティを追放されてもまだ魔王を倒しにいく理由か……」


ラルスはまた自分の世界に入り込んだようだった。


緩急が凄いですわね。

盗賊というのはこういうものなのでしょうか。


「故郷の村と両親の仇。

確かにそうだ。間違いなくまだそれもある。」


ラルスは自分で確認するように呟く。


「ただ今はそれだけじゃないんだ。

俺は魔界に行っていろいろ考えが変わったんだ」


ここも口を挟まない。

私もセレスも次の言葉を待った。


「多くの魔物は戦いを望んでいないんじゃないかってな」

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