第十三話
盗賊
洗礼の儀式で職業を告げられた俺はまず思う。
農民でなくてよかった。
さすがに農民が魔物と戦うのは厳しいだろう。
もしかしたら国境地帯で防衛にあたることくらいはできるかもしれない。
実際に冒険者の中にはそういった変わり者もいるらしい。
しかし魔王を倒すところまではとても行けないだろう。
そうなると俺の目標は早くもここで終了だ。
両親が農民だった俺にとって可能性は低くなかったはず。
まずそれを避けられたのは喜ぶべきだろう。
それにしても盗賊か……
第一印象はそれほど良くなかった。
できたら「戦士」や「魔術師」など分かりやすい戦闘職がよかったのだ。
そもそも盗賊は何ができるんだ?
人のものを盗むのが得意になるんじゃないのか?
強盗なんていう言葉があるくらいだから戦えないこともないだろうけど……
洗礼の儀式の帰り道。
俺はもんもんとそんなことを考えていた。
ーーー
道を開いてくれたのはまたしても警備隊の人間だった。
彼らはいろいろな職業とその戦闘適性を知っていたのだ。
なぜか?
彼らは一時期、国内から集まった冒険者と一緒に戦っていたからだ。
それは前線から警備隊が完全にいなくなるまでの短い期間ではあった。
防衛の役割を冒険者に任せると言っても、一気に入れ替わるわけにはいかなかったのだ。
冒険者にはいろいろな職業の人間がいる。
もしかすると盗賊と一緒に戦った人がいるかもしれない。
俺は盗賊という職業がどういうものなのかを警備隊の人に聞いてみた。
すると何人か、盗賊と一緒に戦ったことがある隊員がいた。
そして彼らの盗賊に対する評価はおおむね高かった。
確かに盗賊は魔物と真正面から戦うのは難しい。
しかし戦闘をサポートする能力は高いとのことだった。
索敵や撹乱。
時には魔物を罠にはめたりもしていたらしい。
警備隊の人間には戦士や騎士など戦いの前面に立つ職業の人間が多い。
そんな彼らにとってサポートに徹してくれる盗賊は非常にありがたかったようだ。
俺の胸は踊った。
なるほど。
確かに俺は性格的に戦闘の主役には向かないだろう。
そういう役割はアレンとかがやればいいのだ。
それよりパーティの戦闘が上手く回るよう、調整する役割の方が向いている気がする。
職業は生き方によって決まる。
そういう意味では盗賊という職業は俺に合ったもののように思えた。
ーーー
成人の儀式から1年後。
俺は盗賊として戦うことを想定して特訓を続けていた。
そしておぼろげながら戦いに行くイメージができつつあった。
そろそろ旅立とうか、と思っていたそんな時。
国王から勅令が発布される。
「聖剣を操る勇者が現れた。
勇者は魔王討伐へ赴く。
ともに旅立つ仲間を募集する。」
国中は興奮に包まれた。
これまで防戦一方だった王国がついに反撃に出る。
それも勇者と聖剣という希望の象徴を伴ってだ。
国民にとって勇者というのは伝説の職業だった。
歴史上、記録に残っているのはただ一人。
王国の初代王、リンドブルム・ウィングフィールドだけだ。
約500年前。
リンドブルム王は聖剣を片手に群雄割拠していた国々を平定していく。
勇者と聖剣の力に敵は無く、一代で島の南半分を統一。
ウィングフィールド王国に長い平和をもたらした。
今でもその偉業は語り継がれている。
毎年各地でリンドブルム王の統一を祝って祭りが行われる。
聖剣のレプリカは今でも一番人気のおもちゃだ。
その勇者が魔王軍の侵攻に震える王国に再び現れた。
俺はタイミングの良さに歓喜した。
そして迷わず王都へ向かうことにする。
もちろん勇者とパーティを組むためだ。
ーーー
意外にも国王の勅令に応じて集まった人間は少なかった。
冒険者たちがたくさん集まるかと思ったが、それらしい人間はほとんどいない。
どうやら前線で戦っているやり手の冒険者は、国境を支えるので手が離せないらしい。
またいくら勇者と一緒だとはいえ、魔王を倒すためには魔界へ行く必要がある。
命を捨てる覚悟が必要になるだろう。
さすがにそこまでの決意を固められる人間は少ないようだった。
少し肩をすかされた格好になったが、この状況は俺にとって好都合だった。
ライバルは少ない方がいい。
そして勇者パーティの選抜試験が始まる。
どうやらこの中から3,4人が選ばれるらしい。
応募者へ向かって国王自ら説明をする。
隣に立っているのが勇者か…
……
なんとなくそうなんじゃないか、とは思っていた。
そこにいたのはアレンだった。
身長は伸び、体はガッシリとしている。
顔つきも大人びていた。
しかし間違いなくアレンだ。
勇者はアレンだったのだ。
俺は国王が話しているにも関わらず、アレンの前に進み出てしまった。
アレンはニヤリと笑った。
子供の頃の面影が蘇る。
「幼馴染だからって特別扱いはしないからな。」
向こうも俺に気づいたようだった。
いろいろな感情がごちゃ混ぜになって湧き上がってくる。
「わかってるさ。まぁ見てろよ。」
俺は必死に自分を抑えてそう答えた。
……気づくと隣にもう一人立っていた。
「ラルス君。私もいるんだからね。」
その言葉遣いだけで分かった。
顔を向けるとそこには見違えるほどの美少女に成長したクレアがいた。
年頃の少女というのはここまで変わるものなのだろうか。
アレンも少し驚いているようだった。
そんな二人を見てクレアはニコリと微笑んだ。
昔と変わらない表情だった。
別れの日から何年経ったのだろう。
しかし今、俺達は3人揃ってここに立っている。
アレンもクレアも俺と同じように努力してきたのだろう。
だからここにいるのだ。
俺は涙を抑えるので精一杯だった。
キョトンとしている国王の横。
俺たちは昔のように三人で輪を作っていたのだった。




