第十二話
俺が送られたのは王国の南部にある孤児院だった。
まだ魔王軍の影響は一切感じられない平和な地方。
そこには同じ年頃の子供がたくさんいた。
魔王軍がやってくるまで王国は平和そのものだったはず。
孤児なんてあまり想像できなかったが…… どうやらそうでもないらしい。
流行り病や事故で両親を失う子供は毎年、少なからずいるようだ。
そういった子供はやはり心に傷を抱えているのだろうか。
どこか他人に心を開かないというか、自分の世界に閉じこもっているというか、
そういう印象を受けた。
孤児院に来る前、少しだけ自分と同じ境遇の人間がいないかと期待をした。
しかし残念ながら俺たちのような復讐心を持った人間は見当たらなかった。
魔王軍の侵攻は徹底しているらしい。
一つの町や村に攻め込む時、そこにいる住人は全て殺している。
子供だけ生き残るということはほとんど無いようだった。
俺たちがあのとき森に遊びに行っていたのは幸運だったのだろう。
いや、いっそ一緒に殺されていた方が良かったのかもしれないが……
ともかく俺が行った孤児院には同じ目的を持てそうな子供はいなかった。
俺は一人で魔王を倒すための準備をすることにした。
魔王を倒すための準備。
それはまだ年端もいかない少年にとって途方もないことだった。
これまで大した経験をしたことも無い。
ずっと平和な村でのほほんと暮らしてきたのだ。
そんな俺が魔王を倒そうとしている。
限りなくちっぽけな自分。
越えようとしている壁の高さに目眩を覚える。
しかし
身体の内側から何かが湧き出てくる。
それは理屈で抑えられるものではなかった。
焼け焦げた村。
両親の無残な姿。
そして別れの時にアレン達と確かめあった決意。
それは「とにかく進め」と言ってくるようだった。
無謀だろうと構わない。
子供だからこその浅はかさもあるのだろう。
俺は深く考えることを止めてそのエネルギーに身を委ねることにした。
そして突き動かされるように身体を鍛えた。
まわりの子供たちは不思議に思っていただろう。
友達を作ったり、遊んだりもしない。
毎日一人でボロボロになるまで動いている。
明らかに浮いた存在。
しかしいじめられたり、何かを言われることもなかった。
孤児院の子供達は必要以上に他人に関心を払わない。
それは俺にとって都合がよい環境だった。
そうやって俺はひたすら一人で鍛錬を続けていた。
ーーー
孤児院に入ってから2年間。
俺の身体はだんだんと引き締まっていく。
思いつくことは全てやったと思う。
孤児院の周囲を延々と走り回る。
ひたすら棒を振り続ける。
大きな石を何度も持ち上げたりもした。
何か狙いがあってやったわけではない。
とにかく体をイジメるしかないと思っていたのだ。
結果、力は強くなり動きも素早くなった。
身体能力という意味では見違えるほどになっただろう。
しかし限界も感じていた。
このまま体を鍛えるだけでいいのか?
身体能力だけで魔物は倒せるものなのか?
残念ながらその答えを俺は持っていなかった。
そして他に何ができるわけでもない。
日々、疑問は大きくなりながらも俺は盲目的に体を鍛え続けていた。
そんな時。
俺に幸運が訪れる。
孤児院に警備隊の人間がやって来るようになったのだ。
国内の治安維持のため、前線から帰還させられた部隊だ。
彼らには魔物との豊富な戦闘経験がある。
なにせ2年に渡って数で勝る魔王軍相手に戦い続けていたのだ。
俺は警備隊の人間を見つけるたびに腕を引っ張って話を聞いた。
魔王軍にはどういう魔物がいるのか?
魔物はどうやって戦うのか?
戦うためには必要な技術は?
しつこく聞き続ける俺に対して警備隊の隊員は丁寧に答えてくれた。
中には稽古をつけてくれる者までいた。
俺が冒険者になって魔物と戦いたいことを告げると、彼らは親身に対応してくれるのだった。
国境地帯から無理やり帰還させられた彼らにもいろいろ思う所があったのだろう。
自分たちの代わりに魔物と戦おうとしている子供を誰もが可愛がってくれた。
こうして俺の特訓の質は飛躍的に高くなっていった。
ーーー
そして迎えた運命の日。
15歳の誕生日、成人の儀式だ。
教会で行われるこの儀式によって、この国の民は成人になったことを認められる。
同時に一生をかけて勤め上げるべき「職業」を告げられるのだ。
ここで与えられる「職業」は親と同じものであることが多い。
俺の両親は二人とも「農民」。
普通にいけば俺も農民だろう。
しかし絶対ではない。
親と異なる職業を告げられる場合もある。
職業は成人までの生き方によって決まってくるらしい。
子供は必然的に親と似たような生活になるのだろう。
だから農民の子は農民である場合が多いようだ。
俺も魔王軍が来るまでは農民のような生活をしていた。
しかし孤児院に来てからはひたすら魔王軍と戦うことを考えてきた。
どうなるかは分からない。
農民を告げられる可能性は間違いなくある。
後は願うしかなかった。
俺はひたすら願った。
戦える職業を。
戦士でも魔術師でも何でもいい。
とにかく戦える職業。
そして告げられたのが…
「盗賊」だった。




