9.Forth dimention Palace (中-1)
「それでは、皆様グラスは持ったでしょうか」
黒江さんの司会で、おのおのが注いだグラスを掲げる。私達はもちろんお酒ではなくただのジュースだけど・・・・・・。
「それでは、明日以降の皆さんの成功を祈り、乾杯」
乾杯と皆でグラスを小気味良く響かせる。勢いよく、中身を飲み干す。既に出来上がっている人も居けどが、さっきまでの剣呑な雰囲気はどこへやら、心なしか穏やかな表情をしている。
テーブルには所狭しと、おつまみの揚げ物やちょっとしたスナック菓子、チーズやピーナッツ、サラダなど色々なものが置かれていた。大きな鍋に入っている赤いスープはなんだろう?そう思っていると、赤音さんがこそっと教えてくれた。これは外国のボルシチという料理らしい。なんでも、アレクセイさんのリクエストだそうだ。
酒が入った皆は思い思いに喋り始めた。きっとみな知り合いではなく、始めて会う人も居るのに、不思議と仲よさそうに喋っている。これが、大人の世界なのかと不思議と納得した。しばらく、すると黒江さんがやってきた。
「それでは皆さん、改めましてご挨拶させていただきます。このたびは「ラビリントスの館」へお越しいただきありがとうございます。このたび皆様のお世話をさせていただくことなります、「チャペルハウスキーピング」の黒江と申します。後ろの二人が、補佐の赤音と青子でございます。滞在期間は何なりとお申し付けください。」
そういって、手を胸元にあて、深々と頭を下げる。それにあわせて後ろの二人もメイド服の端をつまみ、仰々しく頭を下げる。いまさらながら、本物の執事とメイドさんを見たような気がした。良く街中でビラを配ってるメイド喫茶のメイドさんとか見るけど、本物は気品と言うか、オーラが全然違った。
「それでは、勝手ながらこちらの席の方から順に自己紹介の方お願いしてよろしいですか?」
そういってふわりと右手を刺しだす。私達の座る位置から見てテーブルの対面、さっきまでビールとピザを食べていた二人がいい感じに酔いながら立ち上がる。
「OK! 始めまして皆さん。私の名前はジェフィール エイブラム デス。こっちは妹のアンナ エイブラハムデース。今回は、幽霊退治のために、僕達「ゴーストハンターズ」が来ました。見事この館に居る幽霊をやっつけて見せマース」
と高らかに宣言した。私はびっくりしつい、持っていた箸を落っことしそうになった。ゴーストハンターなんて本当に居るんだ・・・・・・。っていうか、いまさらだけど本当に幽霊っているの?最近幽霊が見えるようになってしまった私だが、私以外にも幽霊を信じている人がいて、驚きを隠せない・・・・・・、だって幽霊よ!
「ちっ、幽霊なんか居るわけねーだろ」
舌打ちと共に、小さくぼやく護衛屋さんの声が聞こえた。そりゃそうよね・・・・・・。その声が聞こえたのか。ジェフィールさんは、皆に向かって大げさに指を振るアクションを見せる。
「チッチッチッ、皆さんゴーストなんて居ないと思っていますね。甘いですねー、ピーナッツバターよりも甘いデース。ゴーストは居るんですよ。私達は何度も見てきて、そして退治してきました。今回も私達が退治して、賞金はいただきデース」
高笑いを浮かべながらそのまま席に座った。隣のアンナさんは一言も喋らず、気だるそうに頭を下げるだけだった。次に立ち上がったのは、アンナさんのすぐ横の老人。さっきから、ウォッカをがぶ飲みしている人だ。顔を既に真っ赤にしている。もうかなりの量を飲んでいるような気がするが、全然平気。
「ワシらは、西方教会の「エクソシスト」じゃ。ワシは神父のアレクセイ、こっちの二人はシスター イリーナとエレーナ。双子の姉妹じゃ。今回悪霊退治のために、わざわざ北方から来たんじゃ。よろしく頼むのぅー。それにしても、この国の「日本酒」は本当に美味いのぅ。メイドさん、お土産に何本か包んでくれないかのぅ」
自己紹介と一緒に、お土産の要求をちゃっかりするアレクセイさん。北方から来たようで、お酒にはめっぽう強いようだ。横の二人も立ち上がり、口を開く。
「「よろしくー」」
へべれけに成りつつあるアレクセイさん、かわいらしい笑顔をみせるイリーナさんとエレーナさん。彼らはいくつくらいなのだろう。シスターさんたちは多分同い年位だろう。その証拠に乾杯のグラスに入っているのはオレンジジュースだ。私が彼女達を見つめると、つい目線があった。白い人形のような彼女が琥珀の瞳を妖しく光らせ、くすくす笑う。
「フム、次はワタシアルね。ドーモ皆さん。道師の九垓ネ。今は道教の素晴らしさを広めるためにこの国で布教活動中ネ。神道なんて古臭い宗教はやめて、一緒に道を究めるヨロシ」
両腕を袖に通し、綺麗に背を曲げる。どこかで見たことのある、大陸の挨拶だ。そして、彼がなんとなく隣の女性を敵視しているのが読み取れた。
「次は私ですね。京の「護方神社」の巫女。成宮 深言です。御祓いを専門としており、悪霊払いのため参加しました。お手柔らかにお願いいたしますね」
それだけ言って長い髪をたなびかせ、静かに座る。護方神社といえば、かなり有名な神社だ。私も中学の頃に修学旅行で行ったことがある。着ている巫女服も言われてみれば、その時見たものと同じ気がする。
「どいつもコイツも、法螺吹きばかり。ふん、碌でもない奴らと一緒になったな」
そういいながら立ち上がったのは今度は私達側の席の一番端。
「僕は送理探偵事務所の送理 弥勒。こっちは助手の向井 芳志だ。この際だから僕ははっきり言って置く! 僕は貴様らのような、非科学的な妄言を語るオカルトマニアが大嫌いだ。せいぜい見えない幽霊どもと遊んでるがいいさ。くれぐれも、僕らの邪魔はしないでくれよ」
「わははははは、元気のいい若造じゃて。」
アレクセイさんが持っていたボトルを乱雑に机に置く。その衝撃で飲み口からお酒がこぼれる。
「何がおかしい」
「決まっておろう、自分の見えないものを理解しようとしないお前さんのことじゃ。世の中には、分かっていないことが、山ほどあるんじゃ。なぜ霊がいないと決める。」
「じじい、馬鹿か。科学が発達したこの世界で、既に証明されている。幽霊なんて非科学的なものは居ないんだよ。この世に居るのは人間だけ。幽霊が人間を連れ去るなんてありえない。」
「若いのぅ」
少しさびしそうにつぶやいた声が広間に消える、何か思うところがあったのだろう、そのまま思いっきりウォッカを仰ぐ。その様子を笑いながらおちょくるシスター達。
「それから、全員居るから丁度いい。僕らは、先ほどからこの館の到るところに監視カメラを取り付けた。くれぐれも酒に酔って壊すんじゃないぞ。壊したら弁償だからな」
忠告だけして、もはや興味なさげにすわり、ビールを仰ぐ。助手の向井さんはさっきから飲んでいるのはウーロン茶。彼も同い年くらいかな?
「ふふふ、次は私の番ね。ちなみに私は幽霊なんて信じていないわ。でも居るなら見てみたいわ。だって、素敵じゃない。死んだ人に会えるなんて。おっと、私は占い師の春夏秋冬 巡よ。しゅんかしゅんとうと書いて、ひととせ。占いでこの館で運命の出会いがあると出たから来たの。黒江さん達には悪いけど、あまり行方不明者探しに興味はないわ。よろしく」
この人もどこかで見たこともあると思ったら、今テレビで話題沸騰中のカリスマ占い師の巡さんだ。大企業の社長さんや芸能人、政治家なんかが彼女の占いを頼りに来るらしい。最近は本なんかも書いている。たしか、姫野が電車の中で必死にその本を読んでいた気がする・・・・・・。そして、彼女がそのまま座る。あれ?隣の男の人は彼女の連れじゃないの?この前あった、護衛屋さんが不機嫌そうに立ち上がる
「護衛屋の不動 宗助だ。今はこの女に雇われている。よろしく頼む」
そう言って座ってしまった。・・・・・・、えッ、それだけ?私だけがそう思ったのではないようで、皆も他に何か言うのではないかと視線を送り続けるが、目を瞑り腕を組んだ彼は微動にしない。
「護衛屋さん、困るわ。そんなぶっきらぼうな挨拶をされては、あなたを雇った私の面目丸つぶれよ。もっとみんなと仲良くしないと。ハイ、もう一回」
不機嫌そうな不動さんとは対象的に、気さくな巡さん。あからさまに舌打ちをされるが、彼女はその笑顔を崩さない。仕方なさそうにため息を吐いて、彼女をにらみつけた後、頭を掻きながら口を開く。
「あー、・・・・・・、そうだな、うちのボスはコイツからかなりの額をもらった。俺はこの女の仕事を請けることは最後まで反対したがだめだった。今回の仕事の教訓は、「うまい話には裏がある」ってことだな。聞いた話だと、行方不明者の捜索の成功報酬もかなりのものらしいが、高いものには高い理由がある。せいぜい、命は大切にしとくこったな」
そう全員の顔を見渡し、今度こそ黙ってしまった。その横では、巡さんが何が面白いのか笑っている。さて、残るは私達の番だ。左を見ると桜先輩が丁度こちらを見ていた。私はただうなずき、先輩に合図した。
「最後は私達ですね。八雲高校2年の守屋 桜です。こっちは後輩の千代 紗夜さんと霧咲 響也君です。私の友人のバイトを手伝った帰り、タクシーに乗って気がついたら、この館の近くのベンチでした。明日にはタクシーを呼んでもらって、先に帰ることと成ります。短い間ですが、よろしくお願いいたします。」
「HEY Girl! タクシーに乗って気がついたら、この辺にってどういうことデスカー?」
「わかりません・・・・・・。私達が知りたいくらいです。」
そう言って、先輩がこれまでの出来事を掻い摘んで説明する。芳野先輩に誘われ、旅館や海の家出バイトしたこと。その後町で遊んだり、海で遊んだこと。芳野先輩たちと分かれ、タクシーに乗ったら、すぐに眠くなり、気がつけば森のなかのベンチに居たこと。
「「そのタクシーの番号は覚えていないの?」」
「残念ながら・・・・・・」
「その運転手、めちゃめちゃ怪しいのう。案外そいつが、悪霊なんじゃないかのう」
なんともいえないのが悔しい。そういえば、響也はどうなのだろう。どういう原理で私達が眠ったのかは分からないが、そうそう響也が眠るはずが無い。そう思って、響也に確認するが・・・・・・。
「わからない」
頭をハンマーで叩かれたような衝撃を受けた。まさか、・・・・・・。コイツから「わからない」なんて言葉を聞く日がくるとは・・・・・・。何でも綽綽と知っていそうなのに。
「ま、まあ、予定外のかわいらしいお客様がいらっしゃいますが、明日には帰られますし、事件には関係ないと思われます。いずれにせよ今夜は止まってもらう他ありません。それと」
黒江さんの滑らかだった口調が止まる。
「皆さん、絶対にこの館内で一人にならないでください。これまで行方不明になった方の共通点は、一人っきりになったことと聞いています。特に桜さん達は、絶対に守ってください。お願いします。」
真剣な口調で語る黒江さん。そういえば、行方不明になった人の中に、黒江さんの同僚も含まれていたらしい。何か思うところがあるのか、何かを訴えかけるような口調に圧倒される。
「それでは皆さん、ご歓談をお楽しみください。お休みになられたい方はお部屋へどうぞ。それから、先ほども言いましたが、この館で一人になることはお勧めできません。よって、一人でいらっしゃっている、春夏秋冬様と成宮様、不動様と九垓様のお部屋は相部屋とさせていただきたいのですが、いかがでしょうか?」
「私はいいわよ。巫女様と一夜を共にするなんて、なかなかできることじゃないわ」
「私もかまいませんよ。」
「ワタシは絶対にいやアル。こんな得体の知れない男と同室なんて」
「ケッ! そりゃこっちの台詞だぜ、このインチキ宗教野郎。テメーと一緒に寝るくらいなら、ここで寝るわ」
「あら、アンタは私の護衛なんだから、私の傍に居てくれないと困るわ。そうね、部屋の前の廊下で寝てもらいましょうか」
「ふざけんな! せめて、ソファーで寝かせろや」
わぁわぁ騒ぐ二人。結局、寝袋を借りて、部屋の前で寝ることに決まったらしい。そして、九垓さんは一人部屋となった。私達は三人部屋。響也と同室だと聞いて、どきりとした自分が居た。ま、まあ、桜先輩も一緒だし、な、何にも起きないわよね。




