8.Forth dimention Palace(上)
「すいません、こんなときにお邪魔して、夕飯までいただいちゃって」
目の前のテーブルには、瑞々しさが光るサラダや金色の衣が眩い熱々の唐上げ、赤々しい見るからに辛そうなマーボー豆腐、半ば透き通ったつやつやのご飯、他にもスープや果物などかなりの数の料理が出されていた。
「遠慮せずお召し上がりください。先ほども言ったように、余りものですから。」
そう言うのはこの屋敷の執事しているという「黒江」さん。短くそろえた白髪に、しわが混じった額。鼻下から口元にはふさふさの髭が生えている。黒縁めがねに黒の高級そうな燕尾服、その下には灰色のベストを着て手には真っ白の手袋をしている。まさにTHE 執事と言った服装で私達を快く迎えてくれたダンディなおじ様だ。
「黒江さん、三人の部屋の準備終わりました」
そう言いながら部屋に入ってきたのは、深い紫色のスカートにフリルがついた大きな白いエプロンを着た、二人のメイドさん。「青子」さんと「赤音」さんだ。二人は、黒江さんと一緒に、私達を迎え入れてくれた。・・・・・・、あ、この唐上げホント、おいしいわ。
そういえば、ビーチバレーから何にも食べていなかったことを思い出しながら、思いがけない歓待に頬を緩ませ、出された料理を口に運ぶ。右の席では響也が頬にご飯粒をつけながら、ものすごい速さで料理に手を伸ばしている。一方、左に座る桜先輩は、まるで会席料理を食べているかのようにゆっくりと、静かに料理を口へ運ぶ。こういう場に慣れているのか、食べるしぐさもなんか神々しかった。
私も広い食堂で、少し緊張しながらもご飯を口に入れた。うん、やっぱりおいしいわ。
「空いたお皿下げちゃいますね」
やわらかい小さめの声で私達に確認をとり、ふわりとお皿をお盆に載せ運ぶのは小柄な赤音さん。真っ赤な赤いロングストレート腰まで伸ばし、優雅な動きで皿を下げる。声も小さめで動きも小動物チックでかわいらしいのに、なぜ髪の毛はそんなに自己主張が激しい色をしているのだろう?
「じゃあ、アタイは先に夕食の皿を洗っちゃいますね」
ゆっくりと歩き出すのは目の覚めるような真っ青なマリンブルーの髪の毛を、髪留めで止めてツインテールにし、たわわな胸を揺らす青子さん。長身でそれなりの格好をしたら、男性に見えなくも無い、中性的な顔立ちをしている。
「皆さんはごゆっくりお召し上がりください」
「本当にありがとうございます。」
黒江さんも他に仕事があるのだろう、礼をしてからどこかへ行ってしまった。私達三人だけにので、ちょっとだけ食堂を見渡す。真紅のカーテンがついた、綺麗なひし形の窓。年代を感じさせる古めかしいけど、綺麗な壁、きらびやかなガラスでできた小ぶりなシャンデリア、赤と白のチェックが入った高級そうな絨毯。
「お金持ちの家ってこんな感じなのね」
余りも場違いな場所に来てしまったと思い、ついつい素直な感想が出てしまった。しかし・・・・・・、怪しすぎる。こんな時間に見知らぬ高校生を泊めようとするかしら、普通。私なら絶対にお断りね。
最初は電話だけ借りるつもりで門を叩いたが、彼らが言うには、ここは街から距離があり、こんな遅い時間にはタクシーを呼んでも来ない。こんな山奥で、一晩過ごすのは危険だから泊まっていってと。人が良すぎる。
「先輩どう思います?」
「どうとは?」
「この屋敷のことです。怪し過ぎません? 突然お邪魔したのに、泊まっていけなんて。話が出来すぎています。」
「そう?」
私は結構真剣に話したのだけど、なぜか先輩からは緊張感は感じられない。なんかいつもの先輩らしくない気がする。
「響也はどう思う?」
「ふむ、彼らの意図は不明だが、こちらとしても選択肢はない。一晩野宿する覚悟があれが話は別だが・・・・・・。しかも明日は雨だ。ここはひとまず、彼らの厚意を甘んじて受けたほうがいい。この屋敷から逃げ出すのはいつでも出来る」
確かに一理あるわね。危なくなったら、ここを飛び出せばいいか。響也が居れば飛び出すくらいなんとでも成りそうだし。抱いた不安をかき消すように私はまた食事に箸を伸ばした。それにしても、そういうふうに疑いながら見るとなんとなく部屋のすべてが不気味に感じた。棚においてある人形は不気味に笑っているようにも見えるし、額縁のひげを結わえたおじさんも私達を監視しているように見えてくる。
「この部屋が珍しいですか?」
箸を泊めて部屋を不用意に見ていると、黒江さんが戻ってきた。手にはワインボトルが一本握られていた。
「え、ええ。ウチは昔ながらの民家なんで、こんな立派で広い食堂が珍しくて、ちょっと落ちつかないなって」
「この館は100年ほど前に日本に来た外交官の方の別荘として、建てられましてね。今では珍しい、ガスストーブやステンドグラス、地下には大きなワインセラーもあるんですよ」
そう言って、この屋敷の説明をしてくれる黒江さん。この屋敷は「エミール123番館」というらしい。今となっては貴重な洋風建築で、建築学的にも珍しいつくりらしい。ステンドグラスなんかもあるらしく、後で案内をしてくれる。とてもいい人そうな黒江さんだけど、その分ますます、私の黒い疑念は深まっていく。
「あの・・・・・・、ひとつ聞いてよろしいですか。黒江さん」
「なんでしょうか」
「ぶしつけな質問ですが、ここまで私達を歓待してくれるのはなぜですか?」
私は思っていた質問を直球でぶつけた。ちょっと考えたけども、変化球で話を聞くのは私には似合わないっていうか出来ない。桜先輩なら出来そうだけど、なんとなく今回は頼りなさそうな気がした。この質問で黒江さんの反応を見ようとしたが・・・・・・。だめ、全然分からない。
「それはですね、こん「HEY HEY どうやら新しいお客さんが来たようだね!」」
質問の答えを聞く前に大声で食堂に入ってきたのは、金髪の二人の男女だった。男のほうは金髪のショートヘアに太い眉毛、顎に生えたちょび髭うっとおしいくらいに光る白い歯を見せながら笑っている。赤いシャツにでかでかとGBと書かれて、白のぴっちりしたパンツにごつい茶色のブーツを履いている。女のほうは金髪のポニーテール室内でもサングラスをかけ、赤のパーカー黒のシャツにGBと書かれている、デニムのショートパンツをはいている。灰色のショートブーツを履いている。
「そうみたいね。でも、ミスター黒江。さっきもらったリストに三人組なんて無かったと思うけど」
少しイラだった口調で、話す彼女に、その雰囲気を和ませえるように柔和な口調で語る黒江さん
「ジェフィールさん、アンナさん、彼女らは、やむを得ない事情でいらしたお客さんでして、申し訳ないのですが明日には町まで送るので、今夜はご一緒ください」
ふーん、と不機嫌そうな声を出して、腰を落としてサングラスをずらしこちらを値踏みするように見る。なんとなく、嫌な感じだった。
「まあ、消えないようにせいぜい頑張ることね」
そういって、手を振りながらアンナ達は奥の部屋のソファーに二人で腰掛け、黒江さんにお酒とつまみを注文し、テレビを見始めた。しかし、気になることを言っていた・・・・・・。消えないように?そんな単語をどこかで聞いた気がする。そして、その瞬間を思い出し、響也を見る。
「響也、覚えてる?」
「ああ、多分ここは芳野先輩が近づくなと言っていた、四次元異人館だろう」
やっぱり、響也も同じ事を思ったらしい。「四次元異人館」芳野先輩が言っていた、地元の人は近づかない大きなお屋敷。しかも、何人かがこの屋敷に入って消えてしまったっていう・・・・・・。
「「くすくすくす、消える人数が増えたね」」
入口からは再び声がした。しかも、今回は透き通るような綺麗な声が完全にハモるように聞こえる。見ると二人の少女がゆっくりとこちらをじっと見ている。
「コラ! ばか者、下手に煽るようなことを言うんじゃない」
その後ろに居た老人が、少女らを叱るように頭を小突く。
「「暴力はんたーい」」
そういって走り出した彼女達が、こちらに近づいてくる。不思議な雰囲気がする。
「始めまして、お客さん。私はイリーナ」
「私はエレーナ」
そう言って、二人が同時に頭を下げる。それにしても、すごい格好だ。イリーナと言った少女は野暮ったいほどの白髪を伸ばし右サイドポニーでまとめ、右目には白薔薇をあしらった眼帯をし、白いワンピースに白いロングブーツを履いている。一方、エレーナと言った少女はエレーナちゃんとは逆に黒髪を左のサイドポニー、左目に黒薔薇の眼帯黒のワンピースに黒のブーツを履いている。双子なのか外見は瓜二つで、琥珀色の瞳をしている。声だって少なくとも私には聞き分けれない。
「すまんのお、お客さん。二人が変な事言って」
そう言って、三人は対面の席に座る。老人は真っ黒な神父のような服の内ポケットに手を伸ばしなにやら余り見たことの無い、銀色の細長いボトルを取り出し、栓を開け中身を飲み始める。いつの間にか二人は窓のほうへ行って、外を眺めている。
「やっぱり仕事の後は、ウォッカに限るのう。」
服で口元を豪快に拭き、ボトルを机の上に置く。
「アレクセイ様、こちらをどうぞ」
「おお、すまんのう」
黒江さんが手拭と一緒に、オレンジジュースの入ったカップを手渡す。それを一気に飲み干す。
一気に酒気の入った息を吐き出す。
「あのう、黒江さんもしかしてここって、人が消えることで有名な「四次元異人館」だったりします?」
私の質問を聞いていた黒江さんは、気まずそうな顔をしながら大きくうなずく。それを見たアレクセイさんが大声で笑う。
「あの、・・・・・・、本当にそういうことが起こるんですか?ただの迷信というか噂話じゃないんですか?」
「残念ながら・・・・・」
黒江さんの態度から、あの話が本当だということが分かる。私はまた厄介なところに来てしまったと手を額に当てる一方、桜先輩は目を輝かせ、話を聞きたそうにうずうずしていた。
「もう既に、六人は居なくなってるよ!」
もう少し詳しい話を聞こうと口を開こうとした瞬間にまた別の人達が部屋に入ってきた。今度は大人と子供の二人組みがこちらへ来る。
「あの、・・・・・・、六人ですか」
「そうだ、遊び半分で訪れた大学生が二人、ここに住み着いていたと思われる強盗犯が二人、それの捜査に来た警官が一人、そして、あんたの同僚が一人。そうだな」
男が入江さんを睨みつける。途惑いの表情を見せる黒江さんだが、一瞬こちらを見たかと思うと、大きくため息をついてうなずいた。
「そもそも、四次元屋敷の四次元はどこを指すか知って折るのかのう?」
「・・・・・・」
「四次元屋敷の四次元はあの世を指すのじゃ。だから、彼らを消したのは幽霊のしわさじゃと言われておる。」
「ふん、ばかばかしい。このご時勢に幽霊など。妄言もいい加減にしろ。このインチキエクソシストどもが!!」
「そうだ、そうだ。この事件は弥勒先生とこの僕、助手の向井が解決してやるんだからな!!」
そう言い放って、二人は窓際の小さなテーブルに腰掛、パソコンを開いてなにやら作業を始めた。なんとなく、嫌な雰囲気が立ち込める。私は完全に箸が止まった。食欲は完全に失せた。隣を見ると響也はそんなことは全然無いらしく、相変わらず口をもぐもぐと動かしていた。
「そうは言っていません。そんなことだから、あなたとは仲良くできないんですよ」
「言うに事欠いて! そういう古臭い考えだからお前達は島国の宗教で終わるアル。そもそも」
「はぁ? 何言ってるのかしら? お金をくれたら何でもしますって言ったのはそっちでしょう。金払ってんだから、しっかり仕事はしてくれないと困るわ。」
「口を開いては、あーでもねぇ、こうでもねぇ。と思ったらあれしろ、これしろ。口のへらねえ依頼主様だ。俺はあんたの召使いねえ!! 二度とてめーの仕事は請けねぇ」
今度は、騒がしい男女四人が入ってきた。なにやら、男女それぞれでもめている。
最初に入ってきた女性は、言うまでもない。うん。巫女だ。巫女さん。日本全国で見かけることのできる緋袴に白衣といった、オードソックスな巫女の格好をしている。巫女さんの髪型はストレートのイメージが強いけど、彼女は長い黒髪をハーフアップにしていて、下の方はそのままふんわりさせている。ここが神社なら、普通の光景だが、ここは西洋風の屋敷。全然風景とあっていない。その横に居るのはさらに風景に合っていない男性。襟が立った真っ赤な服の真ん中には金色の刺繍で、龍が描かれている。細い目に大きな体。特徴的なのは髪の毛、頭の天辺を以外は髪の毛が剃っており、天辺の髪の毛は一房に結わえられ、三つ網のように長く伸びている
次に入ってきた女性は薄紫色の髪の毛、伸ばしたストレートロングヘア、縁が金色のスカーフをかぶり黒のロングドレスを着ている。ロングドレスは生地が薄く、体のラインを機敏に映し出している。なんというか、水晶玉でも似合いそうな人だ。そして最後に入ってきたのは、金髪のウルフカットの男性。でもどこかでみたような・・・・・・。
「あ、海であった。護衛屋さん」
あぁん、と地元の不良みたいな声を上げて、私達の顔を見る。じろりと私達の顔を見つめ、思い出したかのように手を叩く
「あ、海の家にいたガキどもじゃねえか」
「あら、あなた。こんな子供にも知られてるなんて有名人ね」
うるせえと、言って、こちらに近づいてくる。
「なんで、おめえらが、こんなところに居るんだよ」
それはこっちが聞きたいのだけど・・・・・・。不意に、手を叩く乾いた音がする。同時に食堂に立てかけてある大きな振り子時計の鐘の音が部屋中に響きわたる。
「皆様お集まりいただき、誠にありがとうございます。先にお話させていただいたように、ただいま9時よりささやかながら、お酒と料理のほうを振る回させていただきます。リクエストがあれば、ご対応いたしますので、何なりとお申し付けください。なお、諸事情により、若いお客様が三名増えていますが、なにとぞご理解の程よろしくお願いいたします」
深々と礼をした後、台車の上にさまざまな料理やお酒それらを注ぐグラスを持ってメイドの二人がやってきた。さっきまでの雰囲気はどこへ行ったのかと思うほど一気に明るい雰囲気と場は変貌した。今思えば、全員がそろったのは後にも先にもこのときだけだったのだけれど・・・・・・。




