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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
3章/真っ赤に染まったブルーオーシャン
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5.Five Land Coast in Inn (中)

それから、一週間泊り込みで芳野先輩の実家でのアルバイトが始まった。先輩の話では、今の時期は海に来るお客さんが多く、旅館も大賑わい。あちこちで手が足りなくなるから、そのサポートをするのがメインの仕事らしい。様は雑用係みたいなものね。最初の三日、私達は仲居さんの手伝いで、部屋の掃除や布団の上げ下げ、料理を出したりと目にも留まらない忙しさだった。一方響也たちは、食材の買出しや風呂場の掃除、切れた電球の取替えと、あっちはあっちでなかなか大変な仕事だったみたい。

 

 海辺で旅館のバイトと聞いた時は、隙間時間に海で遊ぼうとか思ったし、芳野先輩だって「体力があったら全然いいよ、出来るんならね」と笑いながら言っていたが・・・・・・。

 

 絶っー対無理!

 

 一分でも長く休憩しないとやってられないわ・・・・・・。夜だって、外に出る余裕はおろか、部屋から出るのも本当に億劫で、お風呂に行く気も失せる。一回、本当に湯船で寝ちゃったわよ。

 

 バテバテな私を他所に、芳野先輩はテキパキと仕事を指示し、お客さんの接待をし、しくじった私のフォーローをする。まさに八面六臂の大活躍だった。しかも、作り笑いの私と違って本当に楽しそうにやっている。こりゃあ、一生かかっても芳野先輩みたいには慣れないわ。

 一方私の中で以外だったのは桜先輩だった。体が弱いと評判だったから、結構早めにギブアップするかもと、勝手に思っていたが、むしろ芳野先輩に負けない位そつなくこなしていた。

 

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花

 

 流れる髪の毛を後ろで短く結んで、背筋を伸ばし仕事をしたり、腰を落として接客する姿は、カッコいいを通り過ぎて美しくも見えた。きっと、できるキャリアウーマンはこんな感じなんだろう。まあ、良く考えると、剣道部にいるくらいだし、体力もあるのだろうけど・・・・・・。

 

 「あー、もうだめ。疲れたー」

 

 休憩時間の隙をみて、掃除中だった部屋に飛び込み、縁側に寝転んだ。一日一万という、破格のバイト代は高校生にはすごいおいしいと思ったが、その分仕事もはっきり言って・・・・・・きつーい。先輩たちもいい人だし、周りの仲居さんもおしゃべりで気さくな人が多いから、その点は恵まれてるけど、体力的にはホントきつい。改めて、自分の体力のなさを実感した。

 空を見上げると雲がゆっくりと南風に流されている。そんなゆっくりと何にも縛られない雲を眺めていると、あくせく働いていることが馬鹿らしくなってしてしまう気さえする。風も気持ちいいし、残り一時間くらいここで寝ようかしら・・・・・・。

 

 風に揺られて擦れる葉音と、鳥達の鳴き声、山の奥から聞こえる日暮達の鳴き声だけが、静かに庭に染渡る。空は笑ってしまうほど青く広がっており、こんな天気なのに部屋の中で一生懸命働いているのが本当に馬鹿らしい。

 瞼を貫く夏の陽光を遮る様に腕で目を覆い、ゆっくりと息を吸っては、大きく吐きだす。空気がおいしいなんて、感じたことは今まで一度も無いけれど、この時だけは夏風を胸の中に感じたような気がした。そのまま気持ちを良くした私は、周りなんて全く気にしないで、臙脂色の仲居服の胸元を緩め、足元を思いっきりまくった。

 

 「気持ちいいわー」

 

 疲れた体を癒してくれるこの縁側に感謝しながら、夏風の揺りかごに身をゆだね、自然の音色を子守歌につかの間の休憩時間をまどろむことに決めた。

 

 

 

 

 

 懐かしい夢を見ていた気がする。私がまだ子供で、お父さんやお母さんと手を繋ぎ、どこかの田舎道を楽しそうに歩いている。今と同じように、透き通るような真っ青なキャンバスに、一陣の真っ白な飛行機雲が描かれている。不意に駆け抜けた夏風に私の麦藁帽子が空に舞った。それを追いかけた私は、躓いて転んで泣いてしまった。泣いた私を心配するお母さんと笑うお父さん。最近めっきり会っていないが、そんな二人の顔を見ようとして目が覚めた。目が覚めたときに見たのは、青空ではなく、冬の曇り空より冴えない響也の顔だった。

 

 「・・・・・・、アンタ何してるの?」

 

 「紗夜こそ何をしている。もう休憩時間はとっくに終わっている」

 

 「マジ! って痛った!!」

 

 驚いた私はつい、そのまま体を起こしてしまい、のぞいていた響也のおでこに私の鼻が直撃してしまった。響也を払いのけ、空を見る。さっきよりも太陽がわずかに傾いてしまった気がする。ぶつけた鼻を手で押さえながら、周りを見るが響也のほかは誰もいない

 

 「今何時!?」

 

 「丁度一時半だ」

 

 寝過ごした! そう思って慌てて崩れていた仲居服を正そうとして、気がついた・・・・・・。

 

 「アンタ、見た?」

 

 「何をだ?」

 

 多分、きっと、いや絶対、コイツは見たはず。肩からはだけた私のブラと、思いっきりまくった足からでたわたしの下着を・・・・・・。。全然心あたりがないといった、表情で顎に手を当て考え込む響也。言いたいことはいっぱいあるが、これ以上仕事をサボるのは流石似にまずい。急いで縁側から立ち上がり、部屋の中へ戻る。・・・・・・、おっと、一つ忘れてた。

 

 「響也! いい、寝過ごしたことは、黙ってなさいよ」

 

 ああ、と気のない返事をして振り返り、持っていた箒で庭の掃除を始めた。私はなんて言い訳しようかと考えながら、できるだけ何事もなかった顔で、廊下を進む。仲居部屋へ戻ろうと角を曲がったときに、芳野先輩に見つかった。すると、唇が釣りあがり、悪戯を見つけた母親の様にわざとらしく、指を私に向ける。

 

 「紗夜っちぃ、寝てたでしょー」

 

 「なんで、わか」

 

 そこまで言いかけて、とっさに口を塞いだ。自分の間抜け加減を恨めしく思いながら首を引っ込めた。まあ、いまさらかもしれないけど。そんな私を指差して大声で笑う。

 

 「だって、紗夜っち。自分の顔を鏡でよーく見てみなよ。目元にくっきり跡がついてるよ! 仲居服だって、変に折り目がついちゃってるし!」

 

 携帯を取り出し、画面に映った自分の顔を眺める。ああ、こりゃだめだわ。目を腕で覆った時についてしまった、後が目元にくっきりと残ってしまっている。もう一時間もすれば消えるだろうけど、寝起きだと思われるのは必死だ。

 

 「ごめんなさい」

 

 両手を合わせて頭を下げる。流石の先輩でもこれは怒るかもと冷や汗をかいたが、そんなのな全然気にしていないといった感じで、私の手をひっぱりる先輩につれられ、廊下を歩いた。気が抜けていた自分の頭を叩いた、バイト三日目の出来事だった。

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