17.命の価値(下)
アナウンスしてしばらく、遠くで水が流れる音がした。
「全員バスに戻れ、早く」
そう、響也が叫ぶと皆、バスの中に入った。すぐに鉄砲水が押し寄せる。
見るとタイヤが水に浸かるほど、水嵩が増していた。
「どうするのよ」
「・・・・・・」
ゆっくりとバスの通路を後ろへ向かって歩く響也に、先ほどから座っている席から微動だにせず、下を流れる水を眺める彼女。
二人ともこの状況に全く焦っていないように見える。私はというと、泣きたい気持ちを抑えて、ただただ響也の後をついて歩いていた。
「落ち着いてください」
刑事さんがゆっくりと立ち上がる。まだ歩くと痛いのだろう、体を揺らすたびに顔をしかめる。
「次は、屋根へあがる準備です。」
言われて響也は、割れた窓から身を乗り出し、身軽な体で屋根の上へ進んでいた。
私達は、響也に引き上げられ、屋根の上へ。
しばらくすると、いよいよ水嵩が増してきて、後、1Mもすれば屋根まで水が来る。
「もうだめ」
私は死を覚悟した。涙なのか雨なのか分からない雫が、永遠と私の頬に流れ続ける。
「諦めないでください」
そういって、彼女は胸ポケットに手を突っ込み何かを取り出した。
「これを・・・・・・」
取り出したのは、ホイッスルだった。それを響也の手に渡す。
「仕事で使った呼子笛です。まさか、こんなところで役立つなんて思いもしなかったですが・・・・・・」
何に使うのか分かったのか、小さくうなずき、それを咥えて、大きく息を吸い、雨音を切り裂くように、大きな音を山に響かせる。斜面を、木々を水を反射し、甲高いホイッスルの音が当たりに響き渡る。
どれ位吹いていただろうか、不意に響也が吹くのをやめる。
どうしたのかと思い、耳を塞いでいた手を離し、響也に話しかける。
響也は何も答えることなく、森のある斜面を指差す。
見るとそこには暗闇に光る中、いくつかのライトが見えた。
「助かった!!!」
そう叫んで安心した私は、気がゆるんだのか。気絶してしまったらしい。
そこから先は、響也と刑事さんに聞いた話になるが、私達を見つけた、警察は
救助ヘリを飛ばして、私達3人を乗せて近くの病院まで運んでくれたらしい。
私は、子一時間して意識を取り戻した。病院で簡単な検査を受けて、異常が無いことを確認した。
しばらく頭はぼうっとしていたが、運ばれた病院食を食べたら、元気が出てきた。
遅れたやってきた、芳野先輩に思いっきり抱きつかれた私は、安心したのを覚えている。
この長い一日がやっと終わった。そんな気がした瞬間だった。




