15.雨物語(下)
頬に落ちる雫で目を覚ます。
周りを見渡すと、木々がうっそうと生えている。
痛む頭を抑え、記憶をたどる。乗客が脱出する中、俺は紗夜の手を離し、それから・・・・・・。
そうか、バスから衝撃で放り出されたのかと理解し、開けた場所を探す。
しばらく坂を下った場所で、バスを見つける。ほっとしたのも束の間、後ろの草むらから音がする。
「誰だ!」
近くの木に身を隠し、持っていたナイフに手を掛ける。一向に動く気がないが、気配は確かにしている。
雨音に混じって、呼吸音がする。
気づかれないように近づき、草むらの隙間から、奥をのぞく。
木陰で横たえている、影が見える。ゆっくりと近づくと、ずぶぬれのパーカーを着た同い年くらいの男が
息も絶え絶えで、目だけこちらを見ていた。喉から血を流し、うつろな目をしている。
「ははは、まさか。こんなところに人がいるとは」
近くには、犯人が持っていた銃が落ちており、目からはおびただしい量の血が流れでている。俺がトンネルの中で投げた硝子が当たった犯人だろうと予想はついた。しかし、それより目立つのは腹部から生える三本の大きな鉄片。爆発した車体の一部が運悪く突き刺さったのだろう。長年の経験から、彼の命が長くないことは容易に想像がついた。
なんと言葉をかけるべきか、悩んでるうちに、口から血を出しながら話しかけてきた。
「なあ、アンタ聞いてくれよ」
「何をだ」
「決まってる、そりゃあ、俺の、・・・・・・、バスジャック犯の最後の言葉さ。」
自分自身でも、最期が近いことを悟っているのか、静かな口調で、見ず知らずである他人である俺に、話しかける。
「俺でいいのか」
「何言ってんだ、オメーしか、ここにいねーよ」
「・・・・・・」
沈黙を俺の回答と取ったのか、彼は小さくつぶやくように話し始めた。彼の名前は青葉台 健二、ここ王座村出身のらしい。
もう一人の犯人、伊井 照子とは幼馴染で、仲がよかったが、ダム建設により離れ離れに。彼らの家族は引越しを機に離婚、
家庭不和が続き、学校にもなじめず、いじめに会い、受験も失敗、それが原因で今回事件を起こしたらしい。
「彼女とはどこで再会した?」
「聞いて驚くなよ」
そう笑った彼は、最後の力を振り絞るように、笑顔で話す。聞けば、自殺サイトを通じて、自殺の当日に出会ったらしい。
その日は彼ら含め数人の自殺志願者が、深夜の山奥に集まった。最初は互いに気がつかなかったが、最期の身の上話をしているときに出身の話となり、気がついたらしい。
結局彼らは、その日は死ぬのをあきらめ、後日会うことに。
「まるで、運命みたいだろ」
自嘲気味に笑う。
「なぜ、こんなことをした。ダムを作った国へ復讐か?親や友達への反抗か?」
「そうだな。それもあるけど、やっぱり。・・・・・・。」
「なんだ」
何かを言いかけて、なぜか口をつぐむ。
「ははは、そりゃ秘密だ。墓場まで持っていくさ。もう目の前だがな」
そう嘯いて喋るのをやめてしまった。
「凄いな」
「ははは、何がだよ」
「自分の意思で、こんな大きなことをするということがだ」
「まさか、こんなところで尊敬されるとは思わなかったぜ。ははは、俺の人生も捨てたものじゃなかったかもな」
言い終わって、これまでで一番大きな咳をして、大量の血を吐き出す。
焦点の合っていない、目をこちらに向ける。
「今まで失敗続きの人生だったが、まさか生まれたここで死ぬとは、へへへ、悪くな・・・・・・ぃ」
言い終わった彼は、力なく咳をした後、ゆっくりと息を引き取った。見届けた俺は、バスに向かって降りていた。
「響也!」
バスに近づくと、紗夜が駆け寄ってきた。バスの中に入り窓を眺める彼女に向かって話す。
「アンタが、伊井 照子だな」
名前を呼ばれ、びくりと体を震わせる。
「そうよ。私の名前を知っているということは、・・・・・・、そう、健ちゃんは死んだのね」
「ああ」
「最期になんて言ってた?」
「ここで死ぬなら悪くないと」
「そう、じゃあ、」
彼女が何かを言おうとした瞬間、甲高いサイレン音が回りに鳴り響いた。
「何よこの音!!!」
動揺した、紗夜が大声で叫んで周りをきょろきょろ見渡す。。
サイレン後に、何か女性の声が聞こえる。雨音でかき消されよく聞こえない。
俺達は、その声を聞くため外に飛び出した
「ダムの水位が危険域を超えたため、放流します。下流にいる方は至急指定の場所に非難してください」
絶望的な声が、俺達の耳に響き渡った。




