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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
2章/低速嫌いの高速バス
27/45

12.目的地(上)

「おいおい、なんつー無茶するんだ。アイツ」

 

 朝比奈の声で、中央分離帯を突っ切ると連絡が入った後すぐに、モニターの画面に移るバスは、中央分離帯を横切り、ガードレールにぶつかりヘッドライトの破片をを撒き散らしながら、反対車線を逆走する。まるで、さながら映画のワンシーンを見るかのような気分だったが、犯人からの連絡が入ったと聞いて、神経を集中させた。

 

 「我々の次の要求を言う」

 

 捜査員全員がその声を聞き漏らさないように、神経を集中させる。

交渉班が録音の機材を動かし始め、ゆっくりと返事をする。と同時に犯人の声を同時放送できるよう、マイクを調整する。

 

 「今日行われる、王座ダムの落成式を中止し、ダムを今すぐ取り壊せ」

 

 ざわめく声が聞こえる。そりゃそうだ。落成式の中止は何とかなるだろうが、ダムの取り壊しなんて、一朝一夕でできるわけが無い。交渉班が交渉を引き延ばそうとが犯人に呼びかけるが、犯人は要求だけ伝えて、無線を切った。

 

 「こりゃあ、交渉は無理だな」

 

 ふとテントの入口を見ると、一人のスーツ姿の男が部下を何人かつれて入ってきた。見たことのある顔は無く、少なくとも県警の奴らではない。

 

 「磯ヶ谷君はいるかね?」

 

 呼ばれた部長はゆっくりと、前に出る。感じの悪そうな、口調のコイツは・・・・・・。

 

 「私が磯ヶ谷です」

 

 奥にいた部長が、人を掻き分けて挨拶をする。いつもと変わらない顔をしているように見えるが、額には若干の汗が滲み、いつもより口調が早い気がする。そんなに焦っているということは・・・・・・。

 

 「始めまして、磯ヶ谷君。私は警視庁強行犯係の芳賀だ。よろしく頼む」

 

 そのまま、敬礼したため部長を含め、周りの部下達も仰々しく敬礼する。

 

 「お待ちしておりました。芳賀刑事」

 

 「歓待感謝する、早速だが状況を教えてくれ」

 

 中央の円卓に広げられた、地図を見ながら、これまでの状況を説明する。事件発生の経緯、被害者の状況、道路の退避状況、そして、犯人の要求。一通り、説明を受け、地図をぐるりと見渡す。

 

 「今後の計画については?」

 

 「ひとまず、上に落成式の中止を具申しようと考えています。乗客の命に比べれば、式の中止もやむ終えないでしょう。しかし、ダムの破壊は無理でしょう。これまでの様子から、こちらと交渉する気はないと思われます。したがって、強行突入もやむを得ないでしょう」

 

 「・・・・・・」

 

 話を聞きながら、じっと地図を見つめる。

 

 「犯人は目的は、どこに向かっていると思う?」

 

 不思議そうな声で、つぶやく。

 

 「目的は分かりません。そもそも、ダムの破壊など一朝一夕でできるものではなく、本気でそれが叶うなど犯人も考えてはいないでしょう。しかし・・・・・・」

 

 「しかし?」

 

 「これはあくまで、勘ですが、目的地は王座ダムでしょう。」

 

 「そこには何かあるのかね?」

 

 「なんにもありませんよ」

 

 「君は?」

 

 私はついつい、話に入ってしまった。

 

 「彼は万方刑事です。今回は捜査班で、犯人の特定をしていました。」

 

 「失礼しました、刑事。しかし、懐かしい名前が出たものでね」

 

 「ほう、話したまえ」

 

 「王座ダムは7年ほど前に、建設が始まったダムでしてね。当時は強い反対運動があって、自分も当時は反対運動のために駆り出されたものでしたよ。はははは。・・・・・・。今でも覚えているのが、子供たちの顔ですね。」

 

 「子供たちかね」

 

 「ええ、多分にもれず、国は少ない金額を住民に渡し、幾ばくかの生活保障をしました。住民のために、新王座村設立計画も出たんですが、時代からか、都会に引っ越す方も多くてね。結局計画は頓挫。住民も散り散りになりました。子供たちも分かっていたんでしょう、友達と会えなくなるということを。立ち退きの日に別れを惜しむ子供たちの姿、親や我々に向ける、なんともいえない瞳は、今でも忘れられません」

 

 「それが、今回の事件にどう関わるというだね」

 

 「いえ、特には。しいて言うなら、王座村は本当に何も無い村でした。ただ、その何も無いというのが自分には美しく見えました。特に村の名産だった、向日葵畑は圧巻でした。・・・・・・。もしかしたら」

 

 「もしかしたら?」

 

 「今回の犯人は王座村の出身者かもしれません」

 

 何の根拠もないが、長年の刑事に勘がそう言っていた。俺はそれだけ言って、部屋を後にした。後ろでは突入方法を検討すると話をしていたが、それを聞く気は無かった。今から準備をしても更に半日はかかるだろう。俺の勘が正しければ、犯人の目的地の王座ダムまで一時間もかからない。

 

 部長に一声かけて、何人かを連れてバスを追った。きっと大きく事件が動くには王座ダム周辺だ。ということは、バスが高速を下りるのは「王座IC」に違いない。確信に似た何かを胸に携え、俺は更に高速を北上した。

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