11.すれ違う運命(下)
周りを見ると、だんだんと車の数が増えている。彼らは車を高速から撤去する様から警察に要求していたが、うまくは行っていないようだ。
「どうする。このままだと、・・・・・・」
その様子を同様に気がついた犯人の一人が、心配しながらもう一人に話しかける。それに言葉を返さず、ゆっくりと運転手のほうに近づく。
「おい、運転手」
手斧を首筋に当てる。反射的に背筋を伸ばし、上ずった声で返事をする。
「良く聞け、言った様に爆弾は50km/h以下で爆発する。我々はそれを留める気は無い。分かるな」
何も言わず、小さく首を振る。そのままハンドルを切り、左車線の更に左、わずか数メートルしかない高速の路肩に強引に入り込みコンクリートの側壁にぶつかりながら、速度を落とさないように渋滞をすり抜けるように走る。
けたたましいクラクションをかき鳴らし、渋滞で止まっている車を弾き飛ばしながら、ひた走る。バックミラー越しに見える運転手の顔は血走っていた。
「・・・・・・」
犯人は、バスに備えついている無線機を取る。
「警察の無能共、見ているだろう。お前達が約束を守らないせいで、運転手は必死に速度を落とさないように頑張ってるぞ。」
「何のつもりだ」
無線機の向こうから、警官らしき人の声が聞こえてくる。耳を澄まして声を聞くも私の知っている声ではなかった。
「特に理由は無い。どうせこのバスが止まる時は全員死ぬ時だ。せめて死ぬ前に、この運転手は頑張ってたと言ってあげないと、かわいそうだろう」
「お前達の目的はなんだ」
警察の質問に何も答えず無線をきる。目の前を見ると本格的に渋滞が広がる。
もはや、運転手の腕でどうこうなるレベルではない。
「どうする?」
不安そうな声が隣から、聞こえ、乗客も速度が一気に落ちたのを感じたのか。ざわつき始める。
「まさか、こんなところで終わるなんてね」
犯人があきらめの言葉をつぶやくと同時に、体が動いた。胸ポケットに入っている警察手帳をぎゅっと掴み、意を決して席を立つ。すぐさま、銃を突きつけられるが、私の目は前だけを向いていた。どうせ、爆弾が爆発すれば、大惨事は免れない。
「運転手さん、急いで右車線に移ってください」
犯人の黙れという声も、耳に入っては抜けていく。どうすればいいのか迷っている運転手を急かすように叱る。
「いいから、とっととハンドルを切りなさい」
ちらりと一瞬だけ、運転手が前から視線をはずし、私を見る。バックミラー越しに見た運転手は目を強く閉じ、頬には汗が流れていた。
「立つんじゃねぇ!!」
叫び声と共に、銃声がしたかと思うと弾丸が私の頬を掠めた。焦ったような驚いたような声を発しながら発砲した犯人は、一歩後ずさりこちらを見る。そのすぐ横で、斧を構えるもう一人。今にもそれを振り下ろし、私を叩ききる準備をしているように見える。
「あなた方に言うのも、おかしいですが、落ち着いてください。」
「黙れ!!!」
吼えるような声が、車内に響く。しかし、私はここでバスを爆破させるわけにはいかない。
「あなた達こそ落ち着きなさい。このバスは速度が落ちると爆発するのでしょう。私にいい考えがあります。あなた達に協力するのは、心苦しいですが、乗客の皆さんを守るためです。私のやることを見ていなさい」
自分の身など、もはやかまわない。乗客を助けたい一心で意を決した私は、強い足取りでゆっくりと歩いて犯人達の間を通り過ぎ、運転主の座席に手を掛ける。
「そのまま、まっすぐこの右車線を進んでください」
「わ、分かった。」
不安そうな運転手の声が、胸に刺さる。当然だろう、このまま渋滞につかまり、速度が落ちれば彼に落ち度が無いとはいえ、間接的に彼が爆弾を作動させることになるのだ。
「大丈夫です。落ち着いてください」
できるだけ、やわらかく安心させるような声を出し、運転手を冷静にさせる。バスを運転するのは彼なのだ。緊張していてはうまくいくものも上手くはいかない。
「いいですが、良く聞いてください。次の大カーブの一部は、近年し運用されている、ポール型の中央分離帯があります。そこに突っ込めば、無人の反対車線を走れます。」
「わ、わかった」
運転手に説明した私は、無線をとる。
「こちら、高速バス。警察の方聞いてますね。これから、渋滞を回避するため、中央分離帯を突っ切ります! 後はよろしくお願いします」
そのまま、返事も聞かずに無線を切る。私はハンドルのクラクションを思いっ切り押し、周りに異常を知らせる。異常に気がついた、車は次々と中央の車線に移って行く。しかし、それも束の間、もう次の大カーブでは、車が渋滞で止まっているのが見える。
「どこだ」
不安で押しつぶされそうに涙が浮かんだ表情で、問う運転手。私は目を凝らし、探していたポイントを指差す。
「そこです! ハンドルを右に切って、反対車線に!」
中央分離帯のガードレールの一部が途切れ、ポールになっている区画を見つけて指差した。それに気がついた運転手も一瞬の隙間を縫うようにハンドルを切る。しかし、一瞬ハンドルを切るのが遅れたバスは左側がガードレールに思いっ切りぶつかる。左のヘッドライトが割れるような音がした。
大きく揺れたとき、掴んでいた運転席から手を離してしまい、後ろに飛ばされる。何かにぶつかり、私の記憶はそこで途切れた。




