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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
2章/低速嫌いの高速バス
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10.すれ違う運命(上)

 閉められたカーテンの隙間から、わずかに見える風景からは隣の車線を走る車の中で、小さな子供が車内ではしゃいでいる様子がわずかに見えた。待ちに待ったゴールデンウィーク、普段は仕事で疲れきったお父さんや家事に振り回されているお母さんと数少ない出かける機会。私も昔はあんな感じだったのかなと、現実逃避をするように窓を見つめる。

 

 息を呑むような空気が車内を包んだかと思うと、手斧を持った犯人の一人がゆっくりと、まるで獲物を狙う狩人のように、老い先短い人間の魂を刈り取る死神のような足取りで、狭い通路を歩いてきた。

 

 恐怖で呼吸の感覚が短くなり、無意識の内に体を丸め、目をつぶった。耳に入るのは、消えるように一歩一歩進む犯人の足音。ゆっくりと着実にこちらへ向かってきている。

 ちらりと、響也のほうを見ると、いつもと変わらない表情で、一歩ずつ近づく犯人を見ている。その目は、いつの日か見た闇を纏った目をしており、私の恐怖に彩られた瞳とは違う、強い意志を持った瞳だ。

 

 「ちょっと、響也、何見てるのよ。殺されちゃうわよ」

 

 犯人をじっと見ていると、目立つじゃない。

 そう思って、静止するよう声をかけるが彼は目を背けはしない。一歩、又一歩と死神の足音が近づいてくる。私はいないと知っている神様にでも祈るように、手を握りもう永遠に瞼が開かなくなるんじゃないかと思うくらい強く目をつぶった。

 

 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 私達の横をゆっくりと通り過ぎ後ろへ進む音がした。私は胸をなでおろすように、ため息を吐いた。しかし、安心したのも束の間。すぐに犯人は踵を返し、こちらに戻ってくる。後ろを振り返らずとも感じた。獲物を仕留めるように、素早く掲げられた手は、私が息を吸うまもなく、振り下ろされた。私が見たいのはその手斧が隣の制服を着ていた、女の子の頭部に叩きつけられた瞬間だった。

 

 正直、私はその瞬間にあの日響也がJキラーを手にかけた光景が頭をよぎった、暗闇の中を妖しく彩り噴出す鮮血。空を舞う血しぶき、体にまとわりつく最悪の感触を、いやと言うほど思い出しだしたが、描いていた光景とは逆に、ただただ人影が倒れそうになっただけだった。

 すぐさま、隣の男の子が体を抱きかかえ、通路に倒れこむことは無かった。彼の必死な息遣い、周りの息を呑む雰囲気、犯人の音の無い選択が不協和音を奏でるように、私の目の中で踊っている。

 

 「名前」

 

 そう犯人が口からこぼすが、友達か彼女か、大切な人がまさかの事態になり、混乱し犯人の声が届いていない。必死に彼女のことを起こそうとする。再度犯人から、名前を言うように言われ、名前を言う彼。私もすぐ横でこんなことが起こり、全く冷静な思考ができていない。そのまま犯人に言われ、前についていく。

 

 「なるほど」

 

 この前のグラウンドでの会話の続きをするかのような、普通の声。まるで、この状況に何にも感じていないかのような、声に私は驚きや怒りを通り越し、ただただ呆れてしまった。

 

 「あんたn」

 

 そういいかけたときに、前のほうから何か低い音が、切り裂く音が聞こえる。その音を聞き漏らすまいと、バスの中に今日一番の

静寂と恐怖が訪れる。何かを潰すような、乾いた音に、わずかな水音。それ続いて、バスのドアが開く音がする。


 それから、犯人は何も言わずに、車内にも水を打ったような沈黙が訪れる。次は自分が標的にされまいか、息を殺して祈っている。どれくらいの時間が経過したのか、全く分からない。携帯電話を時計代わりにしていた私は、時計を持っておらず、今何時なのか、

どこを走っているのか、冴えも知ることができない。唯一分かるのは、まだ高速道路上にいるというだけ、エアコンも切られ、にごった空気を吸い続けて、頭が朦朧としてきた。


 「どうした」

 

 そんな私を心配したのか、響也が前の席に顔を埋めた私に声をかけてきた。

 

 「あんた、この状況で私が大丈夫だとでも、思ってんの?」

 

 顔も合わせず、半分怒りながら半分、泣きたくなりながら答えた。コイツはこの状況をどう思っているんだろう。こいつにしてみればこんな状況は日常茶飯事なのか。

 

 「ねぇ、響也、あんた。私に言ったわよね。三年後までは私を守るって」

 

 「ああ」

 

 「そう、よかった。」

 

 私はそれだけで十分だった。コイツが口にした以上、約束は守られるだろう。まだ、一ヶ月くらいしか付き合いは無いが、それくらいはわかる。

 

 「少し休む」

 

 そういって、ポケットからイヤホンを取り出し、何事も無いかのように席を傾け、目を閉じる。

 

 「ちょっと、・・・・・・。あんた、冗談よね」

 

 私の言葉などもはや聞こえないと言わんばかりに、横を向いてしまった。私はあきれ果てて、ものも言えず。ただただ、いつもと代わらない響也の横顔を眺めていることしかできなかった。

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