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殺し屋の過ち学  作者: ニムゲ総長
2章/低速嫌いの高速バス
22/45

7.走りだしたバス(下)

「おーい、こっちこっち!!!」

 

 相変わらず元気いっぱいな、芳野先輩が手を振って私達に声をかけてくれた。どうやら、他のメンバーはもう既にバスに乗り込んでしまったようだ。今日の芳野先輩は、深緑色のロングスカートに、オレンジ色のT-シャツとシンプルな服装だった。

 バスに乗り込むと、ほとんどの席は埋まっており、私達の席は後方の右側で私は窓側、芳野先輩が通路側に座った。

 

 8時ジャストにバスは走り出した。お決まりの声でアナウンスが流れる。このバスは、王座山の麓に着くまで、一箇所だけサービスエリアにとまり、以降はどこにも寄らずに目的に向かう。窓から見える風景が、市内の高層ビル群から、郊外の住宅街になり、田舎の田園風景にあっという間に移り変わる。三十分も走れば、都心から田舎へいける、これがこの街のいいところかもしれない。

 そして、高速道路へと乗り込むバス。ゴールウィークの後半一日目、各地へ向かう車で込み合っている。

 

 「あちゃー、結構込んでるねー。こりゃ四時間でつくのは厳しいかなー」

 

 「そうですね。流石ゴールデンウィーク」

 

 それから、私達はガールズトークに花を咲かせた。学校のこと、部活のこと、友達のこと。今までは芳野先輩と一対一で話すことはあまり無かった。「満開の芳野」先輩の噂は前々から聞いていたが、その噂どおり、先輩は明るく面白く、話をしていた全く飽きなかったし、話が止まることは無かった。


 さて、かれこれ二時間も走っていると、朝が早かった私は次第に眠くなってしまった。それを察した先輩も、寝てていいよと、携帯で音楽を聴き始めて目をつぶってしまった。私はちょっと悪いことをしたなと思いながら、いい感じの揺れと丁度いい空調には勝てずしばらく窓の外を眺めていたが、いつの間にか眠っていた。

 

 

 

 目を覚ますと、休憩の「神成サービスエリア」だった。先輩と一緒にお土産を見たり、お手洗いに行ったりして、眠気を覚ました。一緒に戻ろうとしたときに、ちょっと用事があると言われて、分かれた私は飲み物片手に先にバスに戻った。しばらく待っていたが、先輩は一向に戻ってこない

 もしかして、迷子にでもなった?そう思って、電話をかけようかと迷っていた私の横で、人影が止まって、不意に隣に座った。

 

 「先輩遅いですよ、じかんぎりぎ・・・・・・」

 

 途中で言いかけて、私は言葉を飲み込んだ。横に座ったのは笑顔がまぶしい先輩ではなく、高速道路の無機質なコンクリートのように殺風景な響也の顔だった。

 

 「なんで、アンタがそこにいるのよ」

 

 「ああ、芳野先輩が、気分転換に席を替わって欲しいというから、変わった。」

 

 バスのドアがゆっくりと音を立てて、閉まる。エンジン音が床から響き、ゆっくりとバスが発車する。ポケットに入れていた携帯電話に着信音が、・・・・・・。見ると芳野先輩からのメッセージだった。中身は一言。

 

 <よろしくやっていいよ☆>

 

 思わず、携帯を握る手に力が入る。

 よろしくやっていいよって、なによーーーーー!今頃向こう側では、私がどういう反応をしているのかを肴に盛り上がっているに違いない。どうして、こうなるのよ。私は頭を掻き、これから二時間以上ある、車内でコイツと何を会話しようか必死に悩んでいた。

そんなときに口から出てきたのは、しょうもない疑問だった。


 「そういえば、ひとつ聞いていい?」

 

 「なんだ?」

 

 「なんで、山岳部に入部したの? あの時は、色んな部を見て迷っているみたいだったじゃない」

 

 「そうだな、まず他の部では俺は目立ちすぎる、そういう意味では山岳部くらいがちょうど良い」

 

 確かに、野球部やサッカー部といったメジャーな部活動はもちろん露出が多い、コイツがどんだけ顔が売れているか知らないが、殺し屋が高校総体に出るわけには行かないだろう。

 

 「それに、個人的に登山に興味があった。」

 

 「マジ?」

 

 なぜか、コイツの意外な一面を見た気がした。

 

 「うむ、垂直岩肌を素手で登る腕力や脚力、野山の動物をサバイバルナイフやボーガン、トラップで仕留め生き抜く生命力、道なき道を歩き潜伏する行軍にも耐える体力、これらを兼ね備えた物のみが挑戦できるという、登山というものに興味があった」

 

 誰よ、コイツに登山を教えたの。私達がするのは基本ルートが決まった登山よ。そんな、某アーノルドも真っ青の断崖絶壁や道なき道を行くような山登りなんかしないわよ。そんなのやってたら、部員なんか集まらず一日で廃部確定よ。コイツの間違った認識をどう説明しようか迷っていたときに、前方が何なら騒がしい声が聞こえる。何があったのかなと、ヒョイと首を伸ばして前のほうを見る。

 

 

 突然、空気を裂くような発砲音が耳を穿つ。驚いた私は、そのまま首を亀のように引っ込めた。恐る恐るゆっくりと体を動かし、そっと目を前に向けた。運転席の横に立つ、二人の人影が見える。

 一人は、ぶかぶかの黒いジャージに赤いキャップ帽、白いマスクで表情を隠している。手には小さな斧を構えており、不気味な雰囲気を醸し出している。もう一人はぼろぼろのダメージジーンズに茶色のパーカーに灰色のネックウォーマーで顔を隠している。

 

 「ぜ、全員動くな! この、このバスは俺らがジャックした。死にたくなければ、おとなしくしろ」

 

 パーカーを着たほうが、銃口をこちらに向けながら、たどたどしい口調で乗客を脅す。あまりに突然の出来事で、開いた口がふさがらない。状況整理に頭が追いついていない私達に向け、再び銃声が鳴り響く。飛んでいった銃弾が、丁度私の右斜め前の席のの窓に当たり、破片が周囲の乗客に飛び散る。

 刺さった破片が体に刺さり、悲痛な声をあげる座っていたおばあさん。


 やっと状況が飲み込めた乗客から、驚きの大声や甲高い叫び声が聞こえる。私も叫びたい気持ちでいっぱいだったが、ふと隣をみて叫びたい気持ちが無くなった。横を向いたその時に、響也はどこから取り出したのか、「王座山ガイドブック決定版」と銘打った

本を真剣そうな眼差しで読み、ページを捲り始めた。


 「あんた、何見てるのよ。こんなときに」

 

 周りのざわめきに混じって、ついついらしくも無い大声で叫んでしまった。だって、しょうがないでしょ。こんなときに暢気にガイドブックなんて見てるこいつが悪いのよ。そう思って、そのまま本を引っぺがし、私の席の前の網掛けに無造作に突っ込んだ。

 

 「何をするんだ」

 

 「何をするんだ、じゃ無いわ、あんた状況わかってるの?」

 

 「状況?」

 

 まるで、私達とは別の世界が見えているかのように、周りの喧騒とはかけ離れた響也の態度に私は驚きを隠せない。今までも表情は変わらないし、何にも興味を見せないと思っていたが、こんな状況になっても、いつも通りとは・・・・・・。もはや驚きを通り越してあきれて、拍手さえしたくなるわ。

 

 「あんたねぇ「静かにしやがれ!!!」」

 

 周りの音や私の声をさえぎるように、銃声が再び鳴り響き、耳を劈くと共に大きな叫び声が聞こえる。

バスの中が静まり返り、聞こえるのは床から聞こえるエンジンのうなり声と、自分の小さな息遣いだけ。

大変な初部活になったと思いながら、混乱する頭を落ち着かせるように額に手を当て、首をもたげてため息をつきながら

暗い床を見つめた。

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